1.3人の立候補者とそれぞれの政策の概要
任期満了に伴う沖縄県知事選(8月25日告示、9月11日投開票)には保革糾合の「オール沖縄」が推す現職の玉城(たまき)デニー氏(62)、自民・公明が推す前宜野湾市長の佐喜真淳(さきま・あつし)氏(58)、元衆院議員の下地幹郎(しもじ・みきお)氏(60)の3人が立候補し、激しい選挙戦に入った。次は各候補の経歴と、街頭での第一声(26日、沖縄タイムスデジタル掲載記事)である。
玉城デニー氏
うるま市(旧世名城村)出身。沖縄市議1期、衆院議員4期などを歴任。18年知事選で当選し現職。選挙母体は「ひやみかち・うまんちゅの会」で、県政与党、労働組合などで構成しており、会長は城間幹子那覇市長、選対本部長は新里米吉前県議会議長(当時、8月4日急逝)。「オール沖縄」勢力(立民、共産、れいわ、社民、社大、新しい風・にぬふぁぶし)が支持母体である。7月31日、那覇市内で事務所開きをし、政府が進める辺野古新基地建設は断固として認めないこと、普天間については県外・国外移設や返還を政府に求める姿勢を示している。
<第一声> 故郷から、2期目に向けた選挙の第一声を発することができた。4年前に291項目の公約を掲げた。県庁職員の懸命な働きで287項目に予算を付け、実行している。どの子にも健やかに育ってもらえるよう中学卒業までの医療費、ひとり親世帯などの中高生のバス・モノレール通学費の無料化を実施。これからは18歳~20代半ばの若者支援の充実、女性がキャリアアップできる仕組みを作りたい。辺野古に新基地は造らせず、普天間飛行場の一日も早い危険性除去、閉鎖・返還に全身全霊で取り組む。あらゆる手だてで、平和で豊かな基地のない沖縄を実現する。新時代沖縄のさらにその先へ。子ども、若者、女性の笑顔が輝く沖縄のため、正々堂々と政策を訴える。
佐喜真淳氏
前回の知事選(2018年)では玉城デニー氏に敗れ、今回は2度目の挑戦。自民・公明の推薦を得ている。8月1日、那覇市内のホテルで設立総会を開いた。県政奪還への意欲を燃やす。選挙母体は「経済・危機突破県民の会」。同会は各種団体や自民党県連、保守系首長などで構成しており、会長には前回の知事選に続き、松本哲治浦添市長が選対本部長。青年部長には7月の参院選で伊波洋一氏に僅差で敗れた我謝玄太氏。
8月5日に那覇市内で記者会見を開き、出馬を正式発表。前回の知事選では辺野古移設問題については立場をあいまいにしていたが、今回は「一日も早い普天間返還には、名護市辺野古への移設が必要だ」と辺野古移設「容認」の立場を明言した。琉球新報デジタル8月24日の記事によれば、沖縄経済界の主要団体のうち、6団体が佐喜真氏の推薦を決定している。
<第一声> 新型コロナウイルスの感染拡大で経済、暮らしは厳しい状況だ。物価高で県民の生活は厳しい。私には県民の生命と暮らしを守るという強い覚悟と信念がある。観光関連産業に対して1千億円規模の支援を実現する。10年、20年先の未来を描くため、子ども特区を導入する。どこに住んでいても給食費、保育料、子どもの医療費などを無償化し保護者の経済負担を軽減する。米軍普天間飛行場を2030年までに返還し、嘉手納以南の浦添のキャンプ・キンザ―、那覇の軍港、約1千ヘクタールの米軍施設の返還を実現して、その1千ヘクタールが沖縄の宝となり、ビジネスチャンスとなる。われわれは基地の問題を終わらせて、未来につなぐ跡地構想をやろうじゃないか。
下地幹郎氏
宮古島市(旧平良市)出身。衆院議員6期。沖縄開発政務次官(小渕内閣・小渕第1次改造内閣)、経済産業大臣政務官(第1次小泉内閣)、郵政民営化担当大臣(野田第3次改造内閣)、国民新党国会対策委員長(第3代)、日本維新の会非常任役員などを歴任。
<第一声> 第一声は辺野古のゲート前。辺野古移設問題の解決こそ知事選の争点だからだ。辺野古問題で争い続けることが経済、福祉、教育、全ての足を引っ張っている。この問題の解決なくして沖縄の未来はない。私のプランで馬毛島(鹿児島県)を国に購入させた。沖縄の訓練は全て移転できるだろう。辺野古で既に埋め立てられた場所にオスプレイを移駐し、空いた普天間基地を国際空港にする。普天間基地が初めて経済効果と雇用を生む。知事になったら、辺野古移設を巡る裁判は全部やめる。辺野古の軟弱地盤の埋め立てができなくなる条例を出す。教育を無償化し、国に頼らない経済政策を作る。政治は具体的で結果を出さなければならない。
2.票の行方に影響を与えるそれぞれの要素
玉城デニー氏の陣営にとって懸念すべき事態が生じている。それは、翁長雄志の県知事誕生や辺野古埋め立ての賛否を問う19年の県民投票の実施にも尽力した、「オール沖縄」の生みの親であり育ての親でもある新里米吉氏の急逝である。新里氏は玉城氏の選挙事務所開きで選対本部長として挨拶したばかりであった。現那覇市長の城間幹子氏が選挙母体の会長を務めているとはいうものの、保革の繋ぎ役の中心であった新里氏の不在が与える影響は大きい。
それに加え、ここ何年か経済界が「オール沖縄」から離脱する動きがあり、2021年の衆院選では自民党が圧勝している。最近の各新聞社のアンケート結果を見ても辺野古新基地建設反対の割合は減少しつつある。玉城氏には4年間の実績の強みはあるが、特に基地問題については解決のための具体的な手法や展望が明確でなく、有権者の「基地疲れ」が棄権や革新離れに繋がる危険性がある。
「八重山日報デジタル」(7月12日)では、「オール沖縄」勢力が推す伊波洋一氏が自公推薦の古謝玄太氏を僅差で破った参院選について、「過去の参院選では『オール沖縄』勢力の候補が自公候補に10万票差をつけたこともあったことを考えると、参院選で『オール沖縄』勢力の衰退傾向が止まったとは言えない。」とし、「県民の辺野古移設に対する受け止めが変わりつつあるのは、沖縄を取り巻く国際情勢の厳しさが一つの要因だ。ロシアのウクライナ侵攻で国際秩序が流動化し、中国の台湾侵攻も現実味を帯びて語られるようになった。抑止力の重要性が再認識される中で、『基地反対』一辺倒では県民の生命や財産を守れないことが明確になりつつある。」と論じている。
私は先の参院選の結果に安堵の胸をなでおろした立場の人間であるが、「八重山日報」のこの論点にはしっかりと向き合わねばならないと思っている。玉城氏が当選した場合(もちろん他の立候補者にも言えることだが)、防衛費の増加や台湾有事に対する対応など、県民の不安を取り除くための説得力のある具体的な政策を提示し実行してほしいものである。
以下、私見を述べる。たとえば「沖縄平和実現会議」を立ち上げて広く世論を喚起し、世界に向けて発信していくというのはどうだろうか。沖縄や日本本土だけではなく、世界中から人を集めて平和実現のための、形式的ではない、実質的で現実的な議論を積み重ねていく営為がどうしても必要だと私は思うのである。目には目を、武力には武力を、基地には基地を、核には核をという論理がこれまでいかに名もない住民を殺害し、殺害させてきたか、私たちは2022年の現在、毎日、テレビ画面で見せられ続けているではないか。
人間はもっと賢いものだ、有権者は自分たちが選んだ政治家たちをいつでも権力の座から引きずりおろせるものだ、それが民主主義というものだということを世界に向かって発信できる基地。沖縄はそういう存在でありたい。現在の、劣化したとしか言いようのない政治家たちに自分や家族やこの国や世界を任せておけるのか。本当に任せておけるのか? 玉城氏よ、佐喜真氏よ、下地氏よ、「国家は国民の生命や財産や安全を守るために存在するものだ」という一点に政治生命をかけてください。
佐喜真氏に関する問題は、本人や県選出の保守系国会議員(国場幸之助、島尻安伊子両衆議院議員、比嘉奈津美参議院議員)や選挙母体選対本部長の松本哲治浦添市長、県議、複数の市町村長など合わせて20余人が旧統一教会と関りがあったという事実が明らかになったことである(8月7日沖縄タイムスデジタル)。
7月26日「赤旗」電子版では、佐喜真氏が2019年9月29日、台湾で開かれた、旧統一教会(世界平和党一家庭連合)主催の信者カップルを祝う式典に参加していたと報じている。旧統一教会の台湾総会が翌日、その様子を公式フェイスブックに投稿していたが、現在では削除されているという。「赤旗」は佐喜真氏の事務所に旧統一教会とかかわりを持った経緯などを問うたが期限まで回答はなかったとのことである。
このことは有権者に悪い印象を与え、得票に多少の影響をもたらすだろう。自民党県連は今回独自の候補者を立てない参政党に応援を頼んだがことわられたということである(8月8日、朝日新聞デジタル)。7月に行われた参院選で参政党は2万2585票獲得しており、その影響で自民当推薦候補がわずか2,888票で敗れたばかりで、保守派の参政党に助けを求めたということだ。この参政党や今回自由投票に決めた維新の会の票がどのように流れていくのか、予想がつかない。
大手建設会社を兄に持つ下地候補は地元経済界を中心とした票田を狙っているだろうが、その規模について私は明確な把握ができていない。下地氏はこれまで自民党をはじめ民主党や日本維新の会などいくつかの党を渡り歩いたが、カジノを含む統合型リゾート(IR)をめぐる汚職事件で2021年1月、日本維新の会から除名された過去がある。
今回の出馬表明はホワイトハウス前からオンラインでおこなった(7月13日、自身のYouTubeチャンネル)。これは特に若者向けの集票効果を狙ったものと思われるが、その効果のほどは分からない。
現在のところ、下地氏は現在普天間や嘉手納で行っているオスプレイは辺野古へ移駐し、その他の軍用機の訓練や高江のヘリパッドもすべて馬毛島(鹿児島県西之表市)へ移動し、普天間基地を軍民共用にする案を提出しているが、地元住民の反対運動は必至であろう。馬毛島も現在米軍機訓練移転と自衛隊基地整備計画について八板俊輔西之表市長は賛否を含めて「なお熟慮」の姿勢であり、住民の間に賛成派・反対派の対立もあって、下地氏の提案がスムースに実現できるかどうかは不明である。
3.序盤戦の状況
琉球新報社・沖縄テレビ放送・JX通信社と3社合同で行った電話世論調査(8月26~28日)では、玉城候補(共産、れいわ、社民支持層の9割以上、立民支持層の8割以上)が先行し、佐喜真候補(自民、公明支持層の7割)が追いかけており、下地候補(維新と国民支持層の一定程度)は伸び悩んでいる。
ただ、9月11日の投開票日は、県内統一地方選挙(その中には「オール沖縄」勢力対自公一騎打ちの宜野湾市長選挙も含まれている)や県議補選(那覇・南部離島区、欠員1)の投開票と重なっており、10月23日には那覇市長選も控え、各種選挙と連動した激しい選挙戦が入り乱れている。票は保革、与野党の枠を乗り越えて複雑に動くだろう。票の行方はまだまだ分からない。
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