2019.6.15 この国がいま、世界の中でどのように見られているのかの新しい事例が、6月13日イランで起こりました。ちょうど日本の安倍首相がイランの最高指導者ハメネイ師と会談しているときに、ホルムズ海峡で日本籍のタンカーが攻撃を受けました。イラン・米国の仲介どころか、一歩間違えば戦争の引き金をひくところでした。「安倍外交」の無残な失敗です。アメリカのポンペオ国務長官は、いち早くハメネイ師の親衛隊である「革命亡命隊」の攻撃だと明言しました。これだけでもトランプの忠犬安倍晋三にとっては屈辱です。逆に米国CIAなど諜報機関の陰謀説もあり、機雷や魚雷なのか、空中飛来物なのかも、はっきりしません。イランと米国の緊張は、いっそう厳しくなりました。紛糾する国会への出席を避け、高価な政府専用機を使って、何のためにイランまででかけたのでしょうか。今後の展開によっては、新安保法制・集団的自衛権にもとづく自衛隊のホルムズ海峡派遣を可能にする「存立危機事態」を誘引したという陰謀論さえ現れるでしょう。もともと「仲介」など無理だったのです。
6月7日に発表された、参院選に向けての自民党の選挙公約の第1は、「世界の真ん中で、力強い日本外交。国際社会の結束・ルールづくりを主導する外交」です。そのとば口で、「世界の中心」どころかトランプの使い走りとして孤立し、「力強い」どころか無力な対外関係を露呈しました。もっとも公営放送ばかりか大手メディアの大半を、官邸主導のフェイクニュース・プロパガンダ機関に代えることにより、かの東京オリンピック誘致の「フクシマはアンダーコントロール」演説と同じように、現実を糊塗し、事実を隠蔽してきました。プーチン首相との「北方領土」交渉、北朝鮮との拉致問題、隣国韓国との歴史認識問題が再燃し、選挙目当ての目玉はありません。そこで失点挽回のつもりのイラン訪問で、親分トランプにも手みやげを出せない大失態です。もともと親分トランプも、来年大統領選挙をかかえ、手強い中国との覇権争いのさなかで、日本の仲介外交など当てにしていません。「中東外交の初心者」忠犬シンゾーは、高価な武器と米国産品を日本に売りつけて、「アメリカン・ファースト」の効果を米国民に示すための道具にすぎません。ゴルフ・相撲接待でもてなした子分安倍晋三にとっての見返りは、せいぜいFTA(自由貿易協定)締結を参院選後の8月まで延ばして貰う程度でした。自民党の「世界の真ん中で、力強い日本外交」とは、こういうものです。最も重要な中国との関係を修復できないまま、膨大な税金を首相官邸の「地球儀を俯瞰する外交」につぎこみ、自民党どころか、外務省・外務大臣さえ影が薄い、独裁者の独善外交です。
自民党参院選公約の第2の柱は、「強い経済で所得を増やす」です。「若者の就職内定率過去最高」以下「アベノミクス6年の実績」が絵解きで示され、「GDP600兆円経済の実現」以下「AI、IoT、ビッグデータで少子高齢化・ 人口減少を強みに転換し、 しなやかで強い経済をつくります」とありますが、その政策立案・GDP計算のもとになる賃金や労働時間や家計消費、景気判断の実態把握がいかにいい加減であったかが、この間の統計不正問題で暴かれました。金子勝さんの新著『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)が多角的に解析した「アベノミクスの失敗・機能不全」こそが本来の選挙争点です。
嗤えることに、自民党選挙公約の第3の柱が「誰もが安心、活躍できる人生100年社会を作る」であったことが、この間ワイドシューを揺るがせる「年金2000万円不足問題」、麻生財務相が自ら答申を求めた金融審議会「市場ワーキンググループ報告書」(まだ読めます!)を「受け取らない」という醜態を示した真相です。こうした安倍内閣の失態と10月消費税10%は、本来なら野党にとってのチャンス。しかし世論調査や選挙予想のデータは、まだまだ「よりましな内閣」継続に傾いています。社会全体のファシズム化の進行は否めませんから、こういう時こそ、歴史的で原理的な考察が必要です。小倉利丸さんがG20サミットについての本格的批判を発表していますが、冷戦崩壊とグローバリズム、新自由主義経済とナショナリズム、中国の台頭による世界史的変化、無論、日本における小選挙区制導入の功罪や象徴天皇制の存在意義ーーこうした問題を原理的に考えた上で、安倍晋三のファッショ政治に、歴史的審判を下したいものです。
6月8日専修大学現代史研究会での私の講演、太田耐造文書「昭和天皇へのゾルゲ事件上奏文と新聞発表ーー思想検察のインテリジェンス」の当日配付資料は、ちきゅう座で公開されました。そのもとになった不二出版の近刊『ゾルゲ事件史料集成――太田耐造関係文書』 全10巻については、カタログが公開されています。昨年末に「15年戦争と日本の医学医療研究会(戦医研)」で行った私の記念講演はyou tube に入っていますが、その後の研究で厳密にした学術論文「731部隊員・長友浪男軍医少佐の戦中・戦後」が、同研究会誌19巻2号(2019年5月)に発表されました。著作権の関係ですぐにはアップロードできませんが、ご関心の向きは、戦医研の方にお問い合わせ下さい。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4613:190618〕