-不真面目、無責任なバラエティショー化した日本の政治
不思議な米騒動に思う
昨今の米騒動を見ると、いったい日本社会はどうなっているのかと疑念を禁じ得ない。米(コメ)であれ何であれ、「安ければ安いほど良い」と言う考えは間違っている。それぞれの生産物の生産者が経営を維持できる価格を維持できなければ、供給そのものが絶えてしまうではないか。ヨーロッパで5kg6000-7000円のイタリア米やカリフォルニア米を買っている私には、いったい何を騒いでいるのか理解できない。数百円から1000円程度の安いコメのために、何時間も行列する日本人は賢いのか。行列時間を考えれば、自らの時給が200円とか300円にしかならないことを理解できないのだろうか。
米を安く買いたいなら、政府にコメの輸入自由化を求めればよい。カリフォルニア米などが大量に輸入されたら、コメの価格は下がるだろう。イタリア米でもカリフォルニア米でも私は美味しく食べているが、日本でさまざまに差別化された美味しい米を食べている人は不味いと感じるだろう。ヨーロッパでは選択できる米は数種類だけだから、多少の旨い不味いは気にならない。それしか入手できないのだから。
ところが日本では、あの米は不味い、この米は旨いとうるさい。それだけ米の質に拘るなら、それなりの価格を受け入れるのは当然ではないか。さもなければ、日本の農家は消滅する。米が安くなるなら、それで良いのか。そういう基本的な問題を考える能力を、日本人は失っている。
財務省デモに見るドン・キホーテ
昨年来、財政緊縮策をとっているとして財務省を攻撃する風潮が高まっている。そもそも日本は緊縮策を取っているのか。一般歳出に占める税収の割合はほぼ70-75%である。残りは国債発行に赤字補填である。借金で歳入を補填している日本は緊縮財政であろうはずがない。野放図に赤字を拡大できないだけのことだ。それもこれも、自民党の圧力で財政赤字を積み上げ、アベノミクスで赤字を垂れ流してきた結果である。政府債務累積の責任は歴代自民党政府と安倍政権にある。
毎年赤字国債を発行し、アベノミクスで財政規律の箍(タガ)が外れたために、累積の国債債務はGDPの250%にまで膨れ上がっている。人口が減少し続け、他方で高齢者人口が増える日本社会は、この巨額の公的累積債務を減らす術を知らない。文字通り、働き手が激減する将来の世代に付けを回しているのである。これほどの無責任な政策はあるだろうか。
ところが、自民党は財政赤字の深刻さと責任を感じて、国民に理解を求めるのではなく、消費減税は社会保障費に穴を空けることになるというだけの受け身の議論をしている。他方で、無責任な野党は国債発行で消費税を減税(廃止)し、国民の消費を増やすことが最大の経済政策課題だという頓珍漢な議論を展開している。現代日本社会に減税で税収を減らす余地はない。消費減税してもGDPは増えない。それとは反対に、国家財政赤字に歯止めをかける政策が必要だ。累積債務の削減目標を掲げて、巨額の累積債務が将来社会に未曽有の打撃を与えないための努力が必要なのだ。しかし、野党も与党も、当座の票欲しさのために、真正面からこの問題に取り組むことはない。
要するに、与党も野党も票を失わないために財政危機の現実に言葉を濁し、競って消費減税や給付金を訴えて有権者の支持を得ようとしているだけだ。このままでは、将来、ハイパーインフレで債務を帳消しにするか、社会保障の民営化(老人ホーム)や健保の自己負担比率の引上げか、年金削減を削減するかして、財政危機を回避するしか方法がない。しかし、日本の将来への危機感を保有しない、その場しのぎの無責任極まりない亡国政治が闊歩している。
アベノミクス思考を克服できない日本
安倍政治は消滅したが、アベノミクス幻想は今なお、日本の政治と社会に広く蔓延している。まさにアベノミクス・パンデミックである。このパンデミックを支えている俗論が幅を利かせている。その主要な議論は次のようなものである。
①日本の財政は危機どころか、国家資産を考慮すればきわめて健全である(高橋洋一や故森永卓郎等の議論)。だから緊縮政策は財務省の陰謀という結論になる。
②日本の累積債務は国民の貯蓄でカバーされているので、債務がデフォルトのような危機を惹き起こすことはない(俗流エコノミストの持論)。
③国債は政府に対する国民の債権であるから、政府の累積債務が増えても、国民の債権が増えるだけのことだ(一般国民の素朴な誤解)。
④政府の統合勘定を考えれば、政府の国債債務と日銀の国債債権は相殺されるので、政府の累積債務は激減する(スティグリッツの誤謬)。
⑤消費が増えればGDPが増えるから、消費減税で消費を増やすのが正しい経済政策である(自民党安倍派だけでなく、れいわ新選組や参政党の議論)。
これらの俗論にたいする徹底批判は、拙著『幻想と現実』(BalassiKiado,2024Budapest)に詳しい(https://www.morita-from-hungary.com/j-02/02-02.html#gsc.tab=0)拙著161-169頁「スティグリッツの誤謬」、ならびに170頁-191頁「トートロジーとアナロジーの罠」を参照されたい)。
この無責任な俗論が、「ザイム真理教」や「消費税廃止論」の根拠になっており、財務省陰謀論を生み出す陰謀史観を生み出す根拠になっている。アベノミクス・パンデミックを克服できない限り、日本社会に未来はない。
(2025年7月26日)
初出:「リベラル21」2025.7.30より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6826.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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