2016.1.1 新年にあたって、本「ネチズンカレッジ」のトップページは、新サイト http://members.jcom.home.ne.jp/tekato/home.html へと移転します。1997年以来20年近くを、日本のITビジネスの老舗IIJ4Uのホームページサービスを利用し、約180万人の皆さんにアクセスしていただきましたが、IT業界の変容に応じて、IIJ4Uは本年3月をもってホームページサービスを停止するとのことです。時局発言を主にしてきたこのトップページだけなら、ブログやツイッター、FacebookなどSNSに移行することも考えましたが、本サイトの特質は、私の過去の研究成果や 情報収集センター(歴史探偵)、学術論文データベ ースなどウェブ上でのデータベース機能を果たしていることであると考え、もともとデータの多くを移転・貯蔵してきたJCOMホームページに、トップページも置くことにしました。リピーターの皆様には、ご迷惑をかけますが、ご面倒でも、新サイトの方で、Bookmarkの変更をお願いします。なお3月までは、IIJの本トップページもミラーサイトとして運用いたします。また、メールアドレスは、業務を縮小しても維持されるとのことで、従来通り E-mail: katote@ff.iij4u.or.jp をメインアドレスとして継続します。
2016年は、中東はじめ世界で、戦争とテロルの武力行使が続いている中で、始まります。2015年に、日本では、安倍内閣のもとで戦争法案が強行採決され、自衛隊は地球上のどこにでもでかけて戦争に加わることが可能になりました。大国中国との軍事的緊張は、高まっています。隣国韓国とは、アメリカの後押しで、政府間では年末に従軍慰安婦問題での「合意」が発表されましたが、被害者の心には届いていません。台湾や中国との間でも、慰安婦問題は重要な歴史認識上の争点です。日本政府が「河野談話」の線まで戻って「軍の関与」を認め「お詫びと反省」を表明したとしても、問題の「最終的かつ不可逆的に解決」どころか、国際的には、いっそう論議をよぶものになるでしょう。なぜならば、この「合意」が公式文書になっていないばかりでなく、安倍首相が「河野談話」を攻撃し朝日新聞誤報問題にからめて政治的・外交的イシューにしてきた経緯、中国の申請した南京大虐殺がユネスコの世界記憶遺産に登録され、日本の申請した世界遺産「明治日本の産業革命遺産」に朝鮮人強制徴用施設が含まれていた問題、それに私自身も昨年集中的に探求した関東軍731部隊の人体実験・細菌戦問題などが、歴史認識の問題として、継続しているからです。韓国や中国では、従軍慰安婦問題は、日本のアジア侵略・植民地支配・15年戦争の全過程の一環として理解されています。日本政府はソウルの日本大使館前の少女像が「撤去されなければ、韓国と合意した10億円を拠出しない」と言っているそうですが、韓国では、少女像は日本の植民地支配の犠牲者全体を象徴するもので、国民の66%が移転に反対しています。海外のメディアや日本研究者の評価が分かれるのは、この政府間「合意」が、どれだけ日韓両国の市民社会レベルの対話に根ざしたものなのか、日本国民の真摯な「お詫びと反省」につながるかが、なお不透明だからです。問われているのは、私たち一人一人の歴史認識です。
年末に読んだ、気になったいくつか。Peace Philosophy Centreに訳出された、アンドレ・ヴルチェク「改革され、矯正され、陵辱されたユネスコ Andre Vltchek: Reformed, Disciplined and Humiliated UNESCO」。「南京大虐殺が実際に起きたことを疑う者は狂人だけである。安倍内閣でさえそのことに異議を唱えてはいない」としたうえで、国連機関であるユネスコの戦後の歩みと、多額の分担金をバックに日本が事務局長を送り出してからの「改革」の問題点を抉り出し、日本政府がアメリカと共にユネスコの設立理念「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」を歪めようとしてきたかを詳述します。いわば、私たちの歴史認識の問題を、「戦後責任」として問おうとしています。もう一つ、『東京新聞』12月27日「時代を読む」の朴 喆煕(チョルヒ)ソウル大学教授の寄稿「『21世紀型脱亜入欧』の誤り」は、中国の台頭に対抗して日米同盟の強化をはかる日本に、再版「脱亜入欧」を見出し、「日本としては米国との同盟を堅持しながら韓国とも友好関係を保ち、中国とも共存する選択が一番望ましいのではないか」と、19世紀以来のアジアの近代化の大きな流れの中で、日本はどこへ向かおうとするのかを、問いただしています。そして、日本国内からも、辺見庸さんの話題作『1937(イクミナ)』(金曜日)の警告。堀田善衛『時間』と併読すると、「忍びよるファシズム」の足音が聞こえます。對島達雄さんの『ヒトラーに抵抗した人々』(中公新書)は、ヒトラーの独裁が「圧倒的市民に支持された」もとで、「祖国を愛する者はヒトラーのために戦ってはいけない」と気づき、行動に移した、有名・無名の抵抗者の勇気を、丹念に、しかし淡々と拾っています。「戦後70年」を終えた2016年の「いま」の課題は、「新たなる戦前」となる可能性を、可能性のままで、なんとか翌年に引き継ぎうるかどうかです。そんな歴史認識再構築の一端として、戦前日本の実力者後藤新平の孫、鶴見和子・俊輔の従兄にあたる演出者・佐野碩を、多角的に論じる本が、年末に出ました。菅孝行編『佐野碩 人と仕事(1905−1966)』(藤原書店)で、日本でのプロレタリア演劇運動の出発から、ソ連でのスタニスラフスキーとメイエルホリドからの吸収、亡命先メキシコで「メキシコ演劇の父」とよばれながらも、一度も日本に戻ることなく異郷で終えたコスモポリタンな生涯を、国際的・学際的に研究した決定版です。高価な演劇本ですが、私も「コミンテルンと佐野碩」を寄稿していますから、ご関心の向きはぜひ。なお、新年ですが、昨年実兄が亡くなりましたので、年賀の挨拶は、出しておりません。賀状をいただいた皆様には、大変失礼することになることをお断りし、お詫びいたします。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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