米中関係のはざまで、ファッショ化する日本!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授
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2017.11.1 日本で総選挙と野党再編が急速に進んでいるあいだ、中国共産党大会開催中の中国東北部、ハルビンから中ロ国境の虎頭要塞まで、旅していました。ハルビン市郊外平房は、関東軍731部隊の本部があった、人体実験細菌兵器製造の中核基地でした。1945年8月敗戦にあたって、石井四郎ら731部隊は、国際法違反により天皇に戦争責任が及ぶのを懼れて、8月9日のソ連参戦直後に、いち早く撤退しました。参謀本部の指令は「一切の証拠物件を抹消せよ」でした。石井四郎隊長は「徹底爆破焼却、徹底防諜」を命じ、人体実験用に憲兵隊等から送られた中国人・ロシア人・朝鮮人等の「抗日分子=マルタ」数百人を毒ガスや銃で殺し、ボイラー室で焼却した灰は松花江に流されました。しかしダイナマイトで爆砕したはずの建造物の一部や、細菌研究の実験器具、地下室、焼却し切れなかった書類の断片等々は、ペストノミなど中国各地で実際に使用された細菌爆弾の被害者たちの証言と共に、残されました。それらが丹念に集められ、建物跡が発掘・再現され、日本やアメリカ・ロシア・モンゴル・韓国等で見つかった史資料と共に系統的に整理され展示されて、現在では「侵華日軍第731部隊罪証陳列館」を中心に、ユネスコの世界遺産登録が目指されています。

 ハルビンからさらに離れて、石井部隊発祥の地背蔭河、満鉄系列満州炭鉱の経営で中国人労工を酷使し、反抗するものは虐殺したり「特移扱」で731部隊の「マルタ」にした鶏西万人坑」、ロシア国境に近く満蒙開拓団村跡地のある虎林、それに関東軍の対ソ戦争のための強固な国境ウスリー河畔虎頭要塞まで、夜は寝台列車に揺られて、旧「満州国」侵略の足跡を辿ってきました。夜は零下で昼でも10度ほど、完全冬仕度でも寒い毎日でした。長年731部隊を追いかけてきたABC企画委員会の20人ほどの調査旅行団の一員でしたが、731部隊隊員3560人の戦後を追った「飽食した悪魔」の戦後ーー731部隊と二木秀雄「政界ジープ」(花伝社、特設頁参照)を書きあげ、夏のNHKスペシャル「731部隊の真実ーーエリート医学者と人体実験」に協力したうえでの実地調査で、書物での知識と実際に見る遺跡の違いを、いやと言うほど味わいました。鶏西「万人坑」での、強制徴用したうえ抵抗・衰弱した労工を焼却したボイラー室で、人体焼却で出た油を再利用していた話には、ドイツのブーヘンヴァルトザクセンハウゼンのホロコースト強制収容所で見たガス室・石鹸工場を想い出し、暗然とする衝撃でした。

  ちょうど中国共産党第19回党大会のさなかでした。ホテルのテレビでは連日習近平体制確立のニュースが放映され、夜は毛沢東・周恩来らの抗日戦争のドラマです。NHK国際放送もチャンネル表には載っているのに、なぜか映りません。インターネットはWIFIで通じますが、日本の総選挙情報はGoogle, Facebook, Twitterが一切使えず、Yahoo Newsで拾える程度でした。ウェブの報道統制は、いつもより強かったようです。政治学者としては、もどかしい日々でしたが、結果は、マスコミの事前予測通りの安倍政権与党圧勝、こちらも暗澹たる気分でした。前回更新で危惧したファシズム化=「権威主義的反動疑似革命の合流」のうち、「疑似革命」になぞらえた「希望の党」の民進党解体戦略は途中のリベラル「排除」発言等で失速し、「立憲民主党」が野党第一党になったようですが、島国の外から見ていると、明らかな右翼改憲派の大勝、1932年のドイツで言えば、ナチスが第一党になった11月国会選挙のようで、ドイツ共産党が最後の抵抗を見せて伸張したのが立憲民主党の躍進と似るが、翌年にはヒトラー政権成立で、抵抗勢力は踏ん張りきれず、非合法化されます。安倍独裁の軽薄な「革命」連呼が、若者を引きつけたかたちです。無論、若者たちも「人づくり革命」「生産性革命」の未来を信じたわけではなく、「トランプ・金正恩戦争」の不安や野党の頼りなさで、軽い気持ちで自民党に投票しただけでしょう。麻生副総理の吐露した「北朝鮮のおかげ」は、森友・加計問題から逃げ続けた安倍首相の代弁でしょう。投票率は53.88%小選挙区制導入以前の70%前後が投票した時代は、遠くなりました。実は、小選挙区制と政党交付金導入による1994年「政治改革」こそ、戦後日本の民主主義にとっての「反革命」でした。2009年に無党派層が投票所に向かい民主党政権を生み出した「政権交代可能な二大政党制」の実験結果に、国民が「希望」ではなく「失望」した結果が、今回の「絶望」まで尾を引いている、と考えられます。野党の再建・再編よりも、選挙制度全体の見直しが急務で、結果的には、日本国憲法の改悪に大きく道を拓いたかたちです。

 中国東北部、旧「満州国」地方は、朝鮮族が多く住む地域で、駅の近郊地図には「朝鮮族・満族・回族」などと、集落毎の部族名が記されていました。ロシアと共に、北朝鮮とも国境を接しています。しかし旅行中、中国と北朝鮮の緊張、米朝核ミサイル戦争切迫の気配は、全く感じられませんでした。かつて中ソ領土紛争の舞台だった中ロ国境虎頭要塞も、いまは平静な観光スポットです。安倍内閣のJアラートイージスアショア配備のフェイク性を実感します。10年ほど前に上海・北京から長春(旧「満州国」首都・新京)まで足を伸ばし、「 『社会主義』中国という隣人」という紀行文を書いて、一部で物議をかもした経験がありましたが、今回は、いっそう広がった中国共産党独裁下のグローバル資本主義の増殖・浸透を、実感しました。東北部もインフラ整備が進み、クルマが溢れ、あらゆる商品が並べられています。ほとんど日本と変わらぬカラフルな服装の若者が、スマホ片手に、スターバックス風カフェで談笑しています。狭くうるさい寝台列車には閉口しましたが、やがて新幹線が伸びるということです。ハルビンは、東京並みの国際都市で、公園や遺跡の整備も進んでいます。通貨の元紙幣が使われなくなり、スーパーでもレンタル自転車でも現金ではなくスマホ決済なのは、日本やアメリカ以上です。 書店には、英語本や欧米の翻訳本・ビジネス実用書が溢れ、日系作家では、ノーベル文学賞のカズオ・イシグロではなく、村上春樹・渡辺淳一・東野圭吾の中字訳が書棚を占拠しています。歴史認識の素材の幅も予想外に広く、日本の書店の反中・嫌韓本平積みより知性的です。党大会習近平報告の目玉「新時代の中国の特色ある社会主義思想」の内実は、2050年までに「主導的超強国」、つまり「パクス・チャイナ」という巨大資本主義・帝国主義になる計画であり、21世紀のヘゲモニー国家宣言です。無論、軍の近代化も組み込まれており、核武装原発大国化も前提されています。そんな時に、せっかく 国連の場で、122か国の賛成で核兵器禁止条約が採択されたのに、アメリカの核の傘にすがり続けて反対し、狂犬トランプのアメリカの属国として延命しようというのが、ファシスト安倍晋三の日本国です。もはや「唯一の戦争被爆国」という枕詞の神通力も効かなくなって、東アジアの平和破壊国になろうとしています。米中関係の今後を見誤ると、それこそ「国難」です。トランプの訪日は5−7日、訪韓は7−8日ですが、世界の眼は、8−10日の訪中首脳会談に集中しています。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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