マスコミの報じない日本の国際的孤立は、アベノミクスの行方、格差社会に関わる日本経済の長期的趨勢ばかりではありません。日本がひたすら安全保障を、隣国との友好よりアメリカ軍との一体化にのめりこんでいる時期に、当のアメリカはキューバとの国交回復へ、冷戦時代の遺物の壁が、またひとつ崩れました。落ち目のアメリカは、沖縄米軍基地や自衛隊装備高度化、「思いやり」予算風財政負担を求めて日本を利用することは既定の方針ですが、自らの世界戦略に日本の意見を聞くことはありません。忠犬ポチや貯金箱にはなれても、対等のパートナーになることは、リップサービス以外ではありえません。中国とアメリカは、それぞれの世界戦略と思惑から、EUやBRICS,ASEAN諸国の支持をも取り付け・調達して、連合国(=国連United Nations)の戦勝 70周年の世界再編を試みています。ドイツのメルケル首相が、安倍首相にAIIB参加をよびかけていたというのは、ドイツの脱原発決定と同じように、戦後世界への歴史的・倫理的責任にもとづいてのものでしょう。戦後40年目の1985年に、旧枢軸国の西独ヴァイツゼッカー大統領が世界に発した、「過去に眼を閉ざす者は、未来に 対してもやはり盲目となる」という宣言と東西統一・自主外交の延長上にあります。
ところが1985年の日本は、中曽根内閣とバブル経済のさなかでした。「戦後政治の総決算」を、当時の中曽根首相は、靖国神社参拝と「国家というのは、日本のような場合、自然的共同体として発生しており、契約国家ではない。勝っても国家、負けても国家である。栄光と汚辱を一緒に浴びるのが国民。汚辱を捨て、栄光を求めて進むのが国家であり国民の姿である」と述べて、国際的に物議をかもしました。慰安婦問題での「河野談話」、戦後50年の「村山談話」は、「ベルリンの壁」開放・冷戦崩壊・ドイツ統一後、日本でのバブル経済破綻後に、いわばドイツより一周遅れで、アジア諸国への「植民地支配と侵略戦争」を抽象的なかたちであれ認め「謝罪」し、旧枢軸国が国際社会での信頼を回復しようとしたものでした。いま安倍内閣のもとで「粛々と」進む、集団的自衛権発動と改憲、大量のプルトニウムを保持しての原発再稼働、米軍基地の沖縄県内での移転強制は、その流れを逆転するバックラッシュです。 「粛々」とは 、翁長沖縄県知事が述べたように、「上から目線」「問答無用」という意味です。海外の声ばかりか、国民の声も、高浜原発再稼働停止の裁判所の仮処分決定も無視されて、「いつかきた道」への逆戻りです。
この間の「731部隊二木秀雄の免責と復権」研究で調べていくと、2年前の13年5月に安倍首相が宮城県松島の航空自衛隊基地を訪問したさい、「ブルーインパルス」の練習機「731」号に乗った写真が「731部隊」細菌戦・人体実験を連想させると世界中で報道された余韻が、今でもウェブでくり返されていることがわかりました。細菌戦被害者を出した中国や韓国の新聞はもとより、英語圏でもたくさん出てきます。日本語メディアではわからない、4月13日京都での731部隊を検証する日本人医師・医学者の会の模様は、翌日には韓国で大きく映像付きで報じられました。前回「もしも731部隊が日中韓歴史認識の大きな争点になったら」と問いかけましたが、すでに細菌戦国家賠償裁判やハルビン731博物館建設を通じて、かなり大きな争点になっているようです。
「二木秀雄」については、その後もさまざまな情報が集まりつつあります。金沢一中(現金沢泉丘高校)、旧制四高の同期生や同窓生の中に、石井四郎、増田知貞、石川太刀雄、岡本耕造ら731部隊の要人が含まれています。京大医学部、金沢医大が、中堅幹部・技師の供給源だったようです。もちろん東大医学部・伝染病研究所、慶応大学医学部等も、当時東大にほぼ匹敵する予算で研究ができた731部隊に、若い研究者を送り込みました。日本の医学・医師を戦争のために動員する巨大プロジェクトでした。結核班長二木秀雄自身の加わった人体実験も、旧ソ連ハバロフスク裁判西俊英証言、中国での秦正氏供述、それに戦犯免責と引き替えでの米軍ヒル報告と、米ソ中3国の資料で裏付けがとれました。西野瑠美子さんの集めた隊員の証言では、もともと梅毒スピロヘータの研究で医学博士となった二木は、従軍慰安婦を使って性病の感染実験を行い、捕虜の「マルタ」におぞましい梅毒実験を強制していました。中国での榊原秀夫の戦犯供述には、「二木は前の企画部長で非常な活動家、相当勢力ある男」と出てきます。「情報収集センター(歴史探偵)」のパワポ原稿は、3月28日報告「731部隊二木秀雄の免責と復権――占領期輿論』『政界ジープ』『医学のとびら』誌から」にバージョンアップされています(時事通信高田記者がコラムにしてくれました)。引き続き、雑誌『輿論』『政界ジープ』表紙カバーと「暫定総目次」を掲げて欠号を捜し、皆様からの情報を求めています。学術論文データベ ースに、宮内広利さんの新稿「死の哲学についてーーバタイユの歴史と供犠をめぐって」(2015.4)をアップしました。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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