●2022.9.1 ミハイル・ゴルバチョフが亡くなりました。彼が民主化を進め、志し半ばでクーデタにより挫折したソ連邦と、現在プーチンが再興をはかっている帝政ロシアは、異なるものです。にもかかわらず、プーチンは共産党独裁下で育った諜報員であり、指導者独裁の一点では、見事に帝政からソ連、現代へとつながります。共産党独裁は、社会主義・共産主義という表層のイデオロギーとは別に、個人独裁・英雄崇拝を恒常化する橋渡しとなりました。民主集中制というその組織原理が、独裁に親和的だったのです。
● ウクライナでは、ザボリージャ原発が電源喪失寸前までいって、それを非難されたロシアは、国連核拡散防止条約(NPT)運用検討会議で最終文書署名を拒否、NBC(核生物科学)兵器使用の危機がいっそう高まりました。 すでに発効した核兵器禁止条約(TPNW)に参加しなかった日本政府は、「核保有国と非保有国の架け橋」などと称してNPT会議にのぞみ、「唯一の戦争被曝国」の証しを首相演説で示そうとしました。実際には何の役割も果たせず、核をめぐる国際社会の笑いものになっています。それを意識したか否かはともかく、岸田内閣の突然の原発再稼働・次世代原子炉開発への政策転換には驚きました。安倍晋三でさえできなかった原発依存・防衛費拡大へのバックラッシュです。
● 療養生活の中で、テレビを見る機会も多かったのですが、元統一教会と自民党の癒着には、あきれるばかりです。もう半世紀も前のこと、大学に入学してすぐに、高校の先輩からMRA(道徳再武装運動)というサークル風運動に誘われました。大きな劇場での、怪しげな反共演劇でした。そして同じ頃に、キャンパス内では、原理研究会と論争になりました。あまりにしつこく誘うので、サタンとは何か、唯物論とは何かとか、青臭く議論しました。その原理研究会が統一教会の学生組織で、政治組織が国際勝共連合であることは、普通の学生にも、よく知られていました。その渋谷の本部が岸信介邸の隣であることは、しばらくして知りましたが、ベトナム戦争に反対する学生たちにとって、原理研=勝共連合が南ベトナム傀儡政府を操るアメリカ帝国主義の別働隊であり、佐藤栄作政府と共に、北ベトナムを侵略する側にあることは自明でした。こうした記憶は、いまや老人たちの中にしか残されていないようです。
● それにしても、統一教会=勝共連合は、実に粘り強く、周到に、自民党の中枢に潜り込んだものです。長崎大学学園正常化有志会から元号法制化の地方自治体決議を通じて自民党に浸透し、いまや憲法改正の最前線部隊になった日本会議と重なる、右翼国民運動の一翼です。この半世紀で、岸信介・安倍晋太郎・安倍晋三の「勝共」3代政治家を広告塔にして 、日本政治の堕落が進んだのです。統一教会・文鮮明の教義の出発点にある、アダム国=韓国とエヴァ国=日本の異常な関係性の問題はカッコでくくったまま、何よりも共産主義撲滅、家父長制温存で、他の保守的宗教や日本会議と手を組み、選挙での運動員派遣や票割り、協会員の地方議員進出で、政治の右傾化を産みだしてきたのです。この反社会的組織を、安倍晋三銃殺事件を機に、どこまで解明し追及することができるか、国際社会で存在感を失い、立憲政治から離れつつある日本政治の分水嶺です。
● 5月からの健康問題が、6−7月の第一次入院・手術で大きなヤマを越え、なんとか延命して、9月の心臓病第二次手術を目前にしています。さらに年内に第3次手術も予定しているため、すべての執筆・講演等はお断りしています。獣医学の小河孝教授とのコラボで進めてきた共著『731部隊と100部隊ーー知られざる人獣共通感染症研究部隊』(花伝社)の刊行だけは、何とか仕上げました。 夏ももう終わりです。発病前に頼まれ、夏休みが締めきりであった著作や論文はすべて中断で、関係者・出版社の皆様には、大変ご迷惑おかけしました。おわびいたします。
● 戦争と医学』誌22巻(2021年12月)に寄稿した「NEW戦前の防疫政策・優生思想と現代」をアップしました。日独関係史がらみで、『岩手日報』2月20日の社会面トップ記事、「可児和夫探索」の調査取材に協力しました。可児和夫は、ナチス・ドイツ敗北後に日本に帰国せずベルリン近郊に留まりソ連軍に検挙された医師・ジャーナリストで、もともとナチスの作った東独のザクセンハウゼン強制収容所に、1945−50年収監されていた唯一の日本人でした。片山千代のウクライナ「ホロドモール」体験に似た収容所体験記「日本人の体験した25時ーー東独のソ連収容所の地獄の記録」(『文藝春秋』1951年2月)を残した、現代史の貴重な証言者です。本サイトの更新も、まだまだ不安定ですが、カレッジ日誌(過去ログ) の方から、論文やyou tube 講演記録をご参照ください。昨年から予告してきた、尾崎=ゾルゲ事件研究会については、『毎日新聞』2月13日学芸欄のインタビューに答えています。この11月7日(月)に予定されている尾崎=ゾルゲ研究会発足会議のみ、なんとかベッドから抜け出して出席できるようにすることが、当面の療養生活とリハビリの獲得目標です。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
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