習近平はトランプの下請けに甘んじるのか ―正体が見えた「新しい大国関係」

著者: 田畑光永 たばたみつなが : ジャーナリスト
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新・管見中国(24)

 北朝鮮の太陽節(故金日成主席の生誕記念日・4月15日)に始まる1週間が無事に過ぎた。この間、世界はひょっとすると米がシリアに続いて、朝鮮半島でも武力を用いて北朝鮮の金正恩政権の打倒に踏み切るのではないか、と半ば真面目に心配し、緊張した日々を過ごした。
 15日当日は北朝鮮お得意の、というか、おなじみの軍事パレードが、特に招いたおよそ200人の外国メディア陣の前で繰り広げられ、新型の大陸間弾道弾(か、多分その模型)がお披露目された。
 そしてちょっと緊張したのが翌16日の早朝、北朝鮮が東部の新浦から弾道ミサイルを発射したという一報が流れた時であったが、これは発射直後に爆発してしまったために大騒ぎとはならずにすんだ。
 そしてこの日からアジア諸国歴訪を始めた米のペンス副大統領がまず韓国で、ついで日本で「北朝鮮の脅威」を強調し、米本国ではトランプ大統領が「戦略的忍耐は終わった」、「中国がやらなければ、米がやる」、「すべての選択肢はテーブルの上にある」・・・と、武力行使も辞せずの構えを繰り返して、緊張をあおった。
 一方の北朝鮮も相変わらず威勢よく、「どんな戦争でも、しかけられれば核戦争でも受けて立つ」、「これからも最高指導者の命令があれば、ミサイルも発射するし、核実験もする」と一歩も引かない姿勢をとり続けた。
 しかし、結局こともなく日は明け日は暮れて、今日に至っている。それはそうだろう。いくら北朝鮮のやれミサイルだ、やれ核実験だ、という騒ぎが目障りだとしても、そしてそれがだんだん本物の脅威に近づいてきたとしても、これまで直接、他国に損害を与えたわけではない。人1人殺したわけではない。相手がやってくれば反撃するというだけである。先にこちらから武力を使うわけにはいかない。
北朝鮮が騒ぐのはなんとかして米に自分を核保有国として認めさせ、それ相応の立場で米と国家関係を結びたいからである。だから自分の核を取り上げることを目的とする6か国協議などは真っ平ご免となる。この北朝鮮の言い分もまた天下周知のことである。経済力で韓国に大きく水をあけられた北朝鮮としては、なんとか韓国の頭越しに米との関係を構築して一矢報いたいという思いに凝り固まっているだろうことは、あの気位の高さから見れば容易に想像がつく。
とすれば、今回の「北の脅威」騒ぎもこれまでと同じパターンの繰り返しに終わるのだろうか。いやそうではない。私は新しい要素が加わったと考えている。そして、それはこれまでのパターンを変えることになるはずだ。
新しい要素とはなにか。それはほかでもない、中國が米の下請け業者になったことだ。今月6日と7日にフロリダで行われた米中首脳会談は事前に予測されたのとは随分違った形になったように見えた。事前には米の巨額の対中貿易赤字の解消策やら、南シナ海での中国の埋め立てによる基地建設とそれをけん制する米の「航行の自由作戦」などをめぐって、厄介な話し合いが行われると見られていた。トランプにとっても習近平にとっても、今度の首脳会談は容易ならぬものになるはずと私も考え、本欄にそれを書いた。
ところが実際には2日間で延べ7時間以上に及んだ首脳会談、しかもそのうち半分以上は両首脳のみによる会談であったというのに、中身となると双方の発表は何だかさっぱり要領をえないものだった。現にトランプは「なにも中身はなかった」とまで言った。確かに通商問題では「100日計画」を立てて、話し合いを始めることになったとはいうものの、何をどう話すかについては、双方の言い方はかみ合っていない。
そこで私は会談後、本欄で見通しの誤りをお詫びしたのだったが、結局、今回の会談の眼目は、「当面、北朝鮮は中国に任せる。米はそれを見守る。その間、両国間の懸案はひとまず休戦」という合意が成立したことだったのだ。4月20日の伊首相との会談後の会見でトランプは「中国は北朝鮮問題に懸命に取り組んでいる(trying very very hard)と確信している」と述べた。
米中会談前、トランプは「中国がやらない(北朝鮮を抑えない)なら米がやる」と繰り返していたから、習近平としては米に朝鮮半島で武力を使われては困る(難民の大量発生や戦後は半島全体が米の支配下に置かれる、など)ので、「自分がやる」と引き受けたものであろう。
それも多少なりとも北朝鮮の立場に配慮しての解決策を求めるというのではなく、米の言いなりになって「核を捨てろ」と北朝鮮に迫る立場に立つのである。中国による対朝制裁の強化(石炭輸入の全面停止など)にそれは現れているが、同時に北朝鮮に対する新聞の論調もここへ来てきわめて厳しいというより、上から指図するといったものになっている。
『人民日報』傘下の『環球時報』という新聞はかなり率直に中国の立場を打ち出す国際問題専門紙だが、4月18日には「朝鮮半島における中米協力の限界はどこか、重点はなにか?」という社説を掲げた。
この社説は、まず北朝鮮の核をめぐる状況は変化しつつあると指摘し、その最大のものは「中米の協力面が拡大しつつある」ことであり、中國は北朝鮮に対する制裁を強めることもためらわない、と言い切っている。変化の2つ目は米が「戦略的忍耐」を放棄したことであり、米の武力行使は口先の脅しではなさそうだとの中国の見方を述べて、北朝鮮の取る道は徹底抗戦か核放棄か、2つに1つだと迫っている。
さすがに、そうは言っても中国は米がピョンヤンの政権を倒すことまで支持するわけではないと付け加えているが、北朝鮮の核保有に反対することは中米両国の共通の利益であり、今はこの共通利益が突出しているのだとのべ、北朝鮮の核ミサイル保有計画がかつて朝鮮半島で戦った中米両国をパートナーに変えたのだと論じている。
最後に社説は、中国の制裁がいかに厳しくても「政治的悪意はない」(政権を倒そうというのではない)ところに、「北朝鮮の幸運と希望がある」はずだと諭して、だまって核を捨てろと迫っている。
この社説には、北朝鮮を独立国と認めるならば、当然払われるべき配慮がまったく見られない。支配者が従属者の誤りを叱責し、行いを改めさせようとする命令の口調である。そしてその口調は北朝鮮にだけ向けられたわけではない。翌19日の「半島情勢の緊張には韓国にも責任あり」と題する社説は、韓国に対しても、努力もせずに「北朝鮮の政権が倒れれば、韓国が半島を統一できる」、「中米は韓国による統一に協力すべきだ」などと考えるべきではないと、上から目線で釘を刺している。
つまり私の印象では、トランプ・習会談で「北朝鮮に核を捨てさせよう」、「中国がまず圧力を加える」と合意した結果、おかしなことだが中国はこの中米統一戦線の結成に大きな喜びを感じているとしか思えない。
中国はGDPの総量で米に次ぐ世界2位に上って以来、米に対して「新しい大国関係」を結んで、縄張りを決めようと繰り返し持ち掛けてきたが、オバマ政権には相手にされなかった。ところがトランプになったとたんに、北朝鮮つぶしでの協力を米に持ち掛けられ、舞い上がってしまったのではなかろうか。「新しい大国関係」とはこの程度のものであったのか、呆気にとられてしまう。
これに対して北朝鮮がどう出るかはまだ分からない。よもややぶれかぶれなどということはなかろうと思うが、こちらはこちらで何をするか安心できない相手だ。小さな朝鮮半島の上でトランプと習近平がダンスを踊る足元で何が起こるか、これからは今までとは違った新しい状況が始まるはずだが、その中身はまだ見えてこない。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
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