2012.1.1 例年なら門松、賀正を金屏風の壁紙で飾り新年の挨拶なのですが、2012年の年頭トップは、いつも通りで綴ります。それは、2011年3月11日以降の日本が「いつも通り」ではないからです。「いつも通り」の故郷での家族水入らずの正月を経験できない人々が、数十万人いるのです。本来ならば、東日本大震災と福島第一原発事故の深刻な被害に見合った、政治と経済と社会の大きな変化が伴うはずです。地震と噴火で壊滅した古代ローマのポンペイのように。ペストが大流行した14世紀のヨーロッパのように。チェルノブイリ原発事故後の旧ソ連のように。でも、この国は、これからです。日本政府は、12月16日に、福島第一原発事故「収束」宣言を出しましたが、日本国民の多くも、世界のメディアも、まともに信じてはいません。「冷温停止状態」という新語を作って、原子炉の内部がどうなっているかもわからない状態を隠ぺいし、人類史上未曾有の原子力事故をとりつくろって、深刻な放射能汚染や廃炉への長い道のりを、曖昧にしようとしています。地元の福島県知事は不快感を示し、福島県議会は、野田首相の事故収束宣言撤回の意見書を採択しました。
夏目漱石が述べた「自然の復讐」は、鎮まっていません。日本列島周辺の地殻変動は、活発に続いています。大晦日の12月31日だけで9回の地震があり、岩手県から茨城県のラインに集中しています。震度3も一つあり、めっきり報道の減った福島第一4号炉の核燃料プールの状況など、気になります。紅白歌合戦の時間に入ってきたニュース、「経済産業省原子力安全・保安院は31日、原発事故に備え各地の原子炉の状態を把握するシステムが故障し、30日午後から約26時間、情報が表示できない状態になっていたと発表した。保安院によると、故障したのは「緊急時対策支援システム」(ERSS)。運転中の全国の原子炉内の圧力や温度などの情報を集約し、事故時には放射性物質の放出量などを予測するシステムだが、30日午後0時半ごろ、端末に情報が表示されなくなった。保安院が原因を調べたところ、ソフトウエアの不具合と判明。31日午後2時半すぎに復旧した。この間、データは正しく取得されていたが、集約するシステムにデータが自動入力されておらず、故障中に事故が起きれば、手作業でデータを入力する必要があったという」。「成長神話」と「安全神話」のもとで、自然を征服し制御できると信じてきたこの国のシステムは、2011年3月以降、政治も経済も機能不全が続いています。
年末の1週間は中国でした。1年ぶりの北京と、はじめての天津。自動車洪水と高層建築ラッシュはとどまるところを知らず、「社会主義」という名の国家資本主義のもとで、格差は拡大し、空気も水も、汚れ放題です。ただし携帯電話やインターネットは猛烈な勢いで普及し、大都会のクリスマスのネオンサイン・ライトアップは、日本以上でした。北京近郊で大きな発電所のサイロを見ましたが、どうやら火力発電所だったようです。しかし中国の原子力発電は13基が稼動し、25基を建設中。もちろん原子力の本来の顔、核弾頭も数百とも数千ともいわれます。隣国韓国も21基の原発で総発電量の3割以上をまかない、原発輸出大国でもあります。そして、核兵器だけを頼りに国際社会で虚勢を張る「社会主義」の3代世襲「先軍」国家、北朝鮮があります。こんな環境の東アジアで、戦争も原発事故もない共同体を作るためには、想像力と構想力が必要です。日本が本当の意味での非核国家、原爆も原発もつくらない平和国家になっていくのは、容易なことではありません。だからこそまず、「核による近代化・成長」「ヒロシマからフクシマへ」を体験した日本が、核兵器も原子力発電所もなくても、国際社会の中で「名誉ある地位」を占めることができるという実例を示す必要があるのです。
この間、「占領下日本の『原子力』イメージーーヒロシマからフクシマへの助走」や「日本マルクス主義はなぜ『原子力』にあこがれたのか」で日本における原爆・原発イメージの形成史を追ってきましたが、2012年には、日本原子力政策史の本格的研究に着手します。吉岡斉さん、藤田祐幸さん、山崎正勝さん、山本義隆さんら科学史・技術史研究の皆さんの仕事を頼りに手探りですすめてきましたが、ここにきて、同様な問題意識を持つ社会科学・歴史学の成果にも接することができました。古典的には坂本義和さん「近代としての核時代」(『核と人間』1、岩波書店、1999年)でしたが、武藤一羊さん『潜在的核保有と戦後国家』(社会評論社、2011年10月)が平和運動史の観点が入っていて貴重です。また、奈良女子大小路田泰直さんらの雑誌『史創』創刊号(2011年8月)の特集「『想定外』と日本の統治ーーヒロシマからフクシマへ」の諸論文が、現代史の重要な問題を実証的に論じていて刺激的です。2012年も、本サイトは、「3・11の深層」を探究していきます。
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye1766:120102〕