2011.3.1 かつて本学名誉教授だった故ロブ・スティーヴンは、ニュージーランド南島のカンタベリー大学に勤めていました。そのカンタベリー大学のあるクライストチャーチは、人間の数の8倍の羊が住む豊かな自然に囲まれた、美しい街でした。そこを突然、大きな地震が襲い、あの街のシンボル大聖堂をも倒壊させました。200人近くの人が死亡ないしなお行方不明で、そこには国際医療や異文化体験をめざしていた日本の若者ら28人も含まれているようです。痛ましいことです。せっかく海外に出て、自分の力を試し磨き、飛び立とうと努力していた、有為の若者たちですから。ご家族は生存の望みを捨てず、現地にいます。奇跡を祈ります。チュニジアのジャスミン革命に始まり、エジプトの若者たちに受け継がれ民衆革命を達成したソーシャル・ネットワークの波は、リビアのカダフィ独裁を崩壊寸前まで追い込み、バーレーンやイエメンでもデモは続いています。権力が揺らぎ崩壊して、独裁者たちの莫大な蓄財や海外資産が明らかになりました。中国や北朝鮮の政府は、そうした情報を封じ込め、言論の自由を暴力で抑えるのに必死で、「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する」というジョン・アクトンのテーゼを、自らの行動で実証しています。でも、その同じソーシャル・ネットワークが、前回更新で「インターネット時代のネットワーク型革命」に、世界と日本の若者は、どのように応える?と問いかけたさいに危惧していたように、世界でも異様に肥大化した匿名性携帯文化のなかで内向し、大学入試問題の試験中のネット投稿で用いられ、マスコミのニュースのトップを飾る日本。外国でなお日本に関心を持っている友人たちが毎日見ているはずのNews on Japan の大見出しは、「Ex-NHK cameraman arrested over abandoning woman’s body」、「Web exam leak rocks elite school」、「Student crashes bus in suicide bid」ですから、まもなく月末まで日本を離れる身には、憂鬱です。和訳は、Google翻訳にでも任せておきましょう。
憂鬱の種は、もう一つあります。いやこちらが本筋の、日本政治の内向と閉塞。いまや菅民主党内閣は、4月統一地方選までたどり着けるかどうかの末期的漂流。「国民生活が第一」に期待した国民の政権交代時の熱気は消えて、政党政治への深い失望と不信が、やりきれない不満と諦観をも伴って、蔓延しています。政策対立軸の見えない国会論議は、二大政党制とは言えません。基軸を作るはずだった国家戦略局は、いつのまにやら国家戦略室のままで政治舞台から退場し、民主党政権下一年の官僚天下りは4240人にのぼるとか。「抑止力は方便」と述べた前首相に続いて、普天間基地移転の沖縄県民への約束を反故にしたまま、現首相のもとで米軍「思いやり予算」が今後5年間現行水準が維持されるという合意。外交政策はアメリカにほとんど丸投げですから、対中関係も対ロ関係も、進展するはずがありません。エジプトやリビアの民衆までは目は届かず、ただ石油価格の高騰だけを気にかけているらしい無策・無気力。こんな国政の時代閉塞が、若者たちから希望を奪い、携帯電話による不正大学入試のような自暴自棄を産み出しているのかもしれません。韓国「朝鮮日報」はこれを、「信頼崩れた日本式システム」として大きく報じています。まじめな若者たちの努力が、ちゃんと報われる社会が必要です。
- 日本では、かつて想像もできなかったような「モラルハザード(倫理観の欠如)型犯罪」が相次いでいる。昨年には、死亡した親の遺体を家に隠したまま生きているかのように装い、年金を受給し続ける「年金不正受給事件」が発覚し、衝撃が走った。また、検察特捜部の主任検事がある不正事件に関し厚生労働省局長を捜査した際、証拠を捏造(ねつぞう)していたことが明らかになり、昨年逮捕された。日本の検察は「信頼の象徴」から「信じられない集団」へと転落し、特捜部解体論まで飛び出した。このほか、ウナギやアサリなど中国産水産物を日本産と偽装し販売、摘発された事件も相次ぎ、食品の安全性に対する信頼にもひびが入っている。
- 日本の非実名制インターネット文化も、試験問題流出事件を機に批判の的となっている。問題が流出したヤフー知恵袋は実名を登録する義務がない。日本ではほとんどのサイトが実名確認を行う必要がないため犯罪に悪用される可能性が高く、こうした状況を放置してもいいのかと批判を浴びている(「朝鮮日報」2月28日)。