――八ヶ岳山麓から(398)――
中国共産党の最重要会議、第20回党大会が10月16日北京で開幕。習近平総書記(国家主席)は、世界第2位の経済大国になったことを強調し、欧米主導の世界秩序に挑戦する意気込みを明らかにし、10年間の経済や科学技術の発展を習氏自らの実績として、中国経済の発展モデルをもちあげた。すべて自画自賛である。そして22日、党規約改定や習氏の中央委員会報告を採択し新しい中央委員を選んで閉会した。
中共20回大会の中身については、本ブログには田畑光永氏の興味深い分析記事があるし、日本各メディアも概略を報道しているので省略する。
10月17日のどのメディアも中共20回党大会を真っ先に伝えた。新聞はどれも1面トップ扱いであった。わが「信濃毎日新聞」も「中国踏み出す『習近平時代』という大見出しで、「支配『30年代まで』観測も」「3期目へ実績誇示――台湾統一「武力行使放棄せず」と報じた。
ところが日本共産党の機関紙「赤旗」は、中共20回大会記事を第1面には載せず、外電欄に回し、「米中間選挙へ、貧者の行進」という記事の後においた。
わたしにとってこれは意外で、問題だと思ったので、メールで「赤旗」編集部に不満を申したてた。無視されるかと思ったら、意外にも丁重な回答があった。外信欄で扱ってはいるが、見出しで問題点がわかるようにしてあるとのことであった。
だが、なぜ他のメディアのようにトップで扱わないかという質問には、「1面トップにニュースを置くかどうかは、その日の他のニュースとの関係もあり、編集委員会がその判断を行いました」という答えであった。
その日の「赤旗」第1面トップは「NHK日曜討論」の共産党参議院議員山添拓氏の発言だった。それが重要な内容だったとしても、中共20回大会がそれよりも軽く、さらにアメリカの中間選挙よりも軽いとする政治的判断は、わたしには理解不能だった。
10月23日の大会閉会を告げる開会記事もほとんど同じ扱いで、中共20回大会は第1面では扱わなかった。24日の解説記事はかなりの内容だったが、「赤旗」は一貫して中共20回大会をさほど重視することはなかったのである。
話は飛ぶが、中共20回大会を前にして、「赤旗」は、10月9日から5回にわたる特集記事「『強さ』と『ひずみ』習体制10年 中国共産党大会を前に」を連載した。筆者の北京特派員小林拓也記者は「まえがき」で、「前々回の大会(2012年)で発足した習近平総書記が率いる中国。権力集中ともいわれる習指導部体制の『強さ』のもとで、深刻な社会の実態が見えてきた」と記した。以下「見出し」とともに要約する。
第1回は、「新型コロナ 異論許さず 厳しい対策」
新型コロナ感染拡大の震源地だった武漢の現状、都市封鎖とそれへの民衆と専門家の異論・反論。コロナ対策のデジタル技術使用と全人民の行動管理。
2回目は、「脱貧困宣言 依然厳しい生活の実態」
出稼ぎ農民の低賃金・重労働の現実、貧富の格差拡大した実態。
3回目は「人権抑圧 弁護士や社会運動弾圧」
メディアやネットに対する管理強化、言論統制、大学授業内容の管理。
4回目は「権力集中 個人崇拝強まり懸念」
習近平への個人崇拝上昇過程。
最終回は、「ナショナリズム 強硬な外交姿勢で支持」
「中華民族の偉大な復興」、アメリカ主導の国際秩序への挑戦。
これを読んだとき、わたしは日本共産党にも有能なブレーンが存在すると思った。だから「赤旗」に中共20回大会のすぐれた分析記事が載るものと期待した。だが、それはむなしかった。
2日後開かれた中共20回党大会の習近平報告があってからの話だが、この「特集」記事は、見事に習報告に対する鋭い批判になっていた。特に最終回はいわゆる「戦狼外交」の背景をあきらかにしたもので大いに納得した。
小林記者は、中共は国内で自国が強大になったという宣伝を強め、国民のナショナリズムをあおり、政府の西側諸国への強硬な姿勢が国民の支持を集めるようになった。ところが、それによって西側との妥協は国内の反発を招くため、より強い外交姿勢を取らざるを得なくなっていると分析している。
習報告はいままでどおり、場合によっては台湾に武力侵攻するといっている。武力侵攻は台湾人多数を殺すことにほかならない。しかも中国は、侵攻できるだけの十分の戦力を擁している。米中間に一旦緩急あれば、日本は安保法制下の自衛隊が米軍の兵站を担う、つまり参戦の危険があるのである。
日本の各メディアが中共20回大会習報告の台湾政策を大きく報道したのは、武力侵攻の可能性がロシアのウクライナ侵略との関連で現実味を帯びてきたからであろう。
日本共産党とその影響下にある平和運動は、中国の軍事力に対抗するアメリカの軍拡や、それに伴う自衛隊の軍備増強を目指す自民党政権を批判し、「大軍拡」反対を主張している。わたしもむやみの軍拡には反対だ。
だが、中国も「大軍拡」をやっている。空母複数と各種の核搭載可能なミサイルを装備した軍事大国になった。台湾海峡の軍事的緊張を高め、場合によっては戦争を起こすといっているのは、バイデンではなく習近平である。南シナ海に軍事拠点を作り、東シナ海に迫っているのは中国である。アメリカの中距離ミサイル開発は、沖縄やグアムを射程に収める中国の中距離ミサイルに対抗したものとみなければならない。
日本共産党が自衛隊の軍備増強反対というからには、自衛隊の軍備は現状で十分だという根拠があるからであろう。いまやその根拠を示す時期である。中国の軍備拡張を見ないで日米の軍拡反対だけをいっていると、有権者に「日本の共産党は中国共産党の味方をしている。台湾を見殺しにしてもかまわないといっている」という非難を受ける恐れがある。これでは国民の支持を失うが、それでよいのだろうか。
ここはよくよく考えてほしい。アメリカと自民党政権の軍備増強だけを非難してすむ時代はすでに終ったのである。日本共産党は日本で唯一の革新政党だ。これがまともな政治感覚を持っていれば、「赤旗」は、第1面トップで中共20回大会を取り上げたはずだ。そして習近平氏に台湾への武力侵攻方針を捨てるよう強く訴えたであろう。そうならなかったのはじつに残念である。
(2022・10・24)
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