― クーデター後のエジプト(6)
エジプト治安当局は14日、軍のクーデター(7月3日)以来、首都カイロの2か所の広場などで続けられてきた、モルシ大統領支持勢力の平和的な座り込みの強制排除を強行、同胞団によると2千人以上、保健省によると525人人以上の死者を出した。負傷者はその約10倍。すべての目撃証言、映像からみて、死傷者のほとんどが、モルシ支持派の民衆であることは間違いない。治安警察部隊の銃撃、武器による殴打、車両が原因で、とくに頭と胸を狙撃された死者が多い。一方、内務省は治安警察官43人も死亡したと発表した。もし事実であれば、デモ隊側の投石や正体不明の散発的な狙撃を受けた可能性がある。
1年前に民主的な選挙で選出され、クーデターで大統領の座を奪われ、軍に拘束されたままのモルシの解放と復権を求める平和的なデモ・座り込みは、11年の「1月25日革命」が求めた、民主主義、言論・表現の自由の産物ではないか。じっさい、同胞団側は、反モルシ勢力との衝突を避け、“革命広場”のタハリール広場から離れた、二つの広場で座り込みを続けてきた。交通の障害になったことは事実としても、もともとカイロは世界でも有数の交通渋滞都市で、市民たちはやむなく、その中で生活している。軍が作った暫定政権のベブラウィ首相や内相が「国家安全保障の脅威を取り除くため」強制排除を行ったと表明したが、女性や子供、赤ちゃんもたくさん連れてきている平和的な座り込みを、暴力的に排除する理由として、あまりにもお粗末だ。
暫定政権内では、副大統領に就任した、反モルシ政治勢力の代表格であるエルバラダイ前IAEA(国際原子力機関)事務局長だけが、武力による強制排除に強く反対していたが、その努力が実らず、辞任した。
▽トルコ首相も「市民の虐殺」を非難
同胞団は、力でねじ伏せようとする軍と暫定政権の要求を拒否し、座り込みを続けた。治安部隊が強制排除を実行しても、「正義のためには死を恐れない」同胞団メンバーたちは逃げ散らず、コンクリートを砕いて、投石で抵抗することが予想された。しかし、圧倒的な武装で固めた治安部隊が襲い掛かり、非武装の市民多数が死傷した。多数の死傷者を予想しながら、非武装の市民たちを攻撃したのだ。軍と警察による市民の大量虐殺だった。国際社会は、「クーデター」とだと批判するのを避けてきた米国のオバマ政権を含め、強制排除をしないようエジプト軍に要請を重ねてきたが、強行したため、相次いで厳しく非難・批判を表明した。エジプトと同じイスラム教スンニ派のトルコのエルドアン首相も強制排除を「市民の大量虐殺だ」と厳しく非難、事前に沈黙を守っていた国々を批判し、国連とアラブ連盟が直ちに行動するよう要請した。
軍と暫定政権は、強制排除とともに、全土に1か月間の非常事態を宣言、カイロ、アレキサンドリア、スエズなど主要都市と14の同胞団が有力な県に夜間外出禁止令を出した。しかし、これらの都市、県では同胞団の抗議行動は、その後も14日夜を徹して行われた。治安部隊との衝突が拡がるだろう。非常事態宣言の下では、警察は裁判所の令状なしに、市民を拘束できる。
▽ムバラクでさえやらなかった同胞団の全面的弾圧
軍が暫定政権、内務省(治安警察)、司法機関(裁判所、検察)を動員して、モルシ政権を打倒しただけでなく、ムスリム同胞団つぶしの弾圧を全面的に開始したことは明らかだ。モルシの拘束に続いて、ムスリム同胞団の最高指導者バディ―ウ、副指導者シャターら最高幹部6人を拘束したのをはじめ、中央・地方レベルで同胞団指導者たちを続々拘留。革命時に相次いだ監獄の解放を扇動し自らも脱獄した容疑をモルシにかけて、拘留を正当化、さらに延長したのをはじめ、幹部たちを様々な罪状で告発・投獄した。モルシはじめ幹部たちの多くは、拘留されている場所も隠され、家族の面会もできない。
同胞団系のテレビ局、新聞社はクーデター直後にスタッフが拘束され活動を停止、中央はじめ全国の多くの同胞団の事務所と資産も差し押さえられたままだ。
このような同胞団弾圧は、30年間続いたムバラク独裁政権時代にも、その前もなかったことだ。これは、同胞団と他の革命勢力が協力して達成した、ムバラク独裁政権打倒の「1月15日革命」の理念―民主主義と自由を真っ向から否定する反革命だ。
軍、治安機関、司法機関そして中央、地方の行政機関の幹部たちはムバラク政権時代のままの居座っている人物が大半。さらに背後には、ムバラク時代に利権をほしいままにした政財界の有力者たちがいる。これから、さまざまな黒幕たちも表に出てくるだろう。
1928年に結成されたムスリム同胞団は、多くの期間、国家権力に非合法化され、弾圧され、非合法化されながら、耐え続け、支持基盤を広げてきた。今回、どのように弾圧されようと、100万人以上といわれるメンバーと組織、最も少なく見積もっても有権者の20%、1千万人を超える堅い支持者に支えられて、組織と活動を維持していくだろう。「4千万人の貧困層からも広い支持を集めている」(ロンドン発行の有力アラブ紙「アルクッズ・アルアラビ」編集長アブデルバリ・アトワン氏=朝日新聞8月15日)という評価もある。
「強制排除したことで(軍トップの)シーシ副首相・国防相は深刻な過ちを犯した。時間をかけて政治的に解決すべきだったが、その可能性はなくなった」「血まみれの内戦が始まりかねない」(同)とまでは考えたくないが、いま、希望的観測はできない。(続く)
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