難民問題続報 - ケルン中央駅周辺の暴行事件その他

著者: 盛田常夫 もりたつねお : 在ブダペスト、経済学者
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ドイツ・州政府内務大臣の会見によるケルン事件
 1月19日、ノルトライン=ヴェストファーレン州ラルフ・イェーガー内務大臣は、大晦日におけるケルン中央駅と大聖堂周辺で生じた大規模な婦女暴行並びに窃盗事件について、その詳細を発表した。その概略は以下の通りである。

1.大晦日に発生した集団暴行事件の被害者は1049名に上り、被害者の8割は女性である。
2.警察に寄せられた被害届けは821件である。被害者数と届け数が違うのは、グループで
 被害届けを出した人々が多数いたからである。
3. 821件の被害届けのうち、性的被害届けは359件である。
4.このうち、207件については、性的嫌がらせと強奪が同時に行われた。
5.大晦日の夜11時から11時30分までの間に、52件の性的嫌がらせや性的暴行事件が発生
 した。
6.容疑者30名のうち、13名がモロッコ人、12名がアルジェリア人である。
7.容疑者の年齢は16~32歳である。
8.容疑者のうち15名がドイツでの難民申請者であり、2名が未成年者である。
9.容疑者の誰一人、ケルンの住民ではない。
10. 大晦日の事件が組織的に実行されたという証拠はつかめていないが、ドイツの別の都市
 からやってきた種々のグループが、それぞ れ暴行事件を惹き起こしたもので、
 実行者の国籍も異なる。

 以上が記者会見で発表された事件の概要であるが、大晦日当時には1000名程度の移民・難民が集合しており、そのうち100名近い種々のグループが暴行事件を惹き起こした。しかし、実行者の特定は難しく、現在のところ、30名程度の容疑者しか特定されていない。

入国管理の厳格化とその実効性
 ドイツ政府は難民を装った経済移民をオーストリアへ送還し始めており、毎日200名規模の経済移民が送還されている。これに応じて、オーストリアは、自国およびドイツでの難民申請を希望する者以外の入国を排除する姿勢を明確にし、スロヴェニア国境の入国管理を厳格化した。
 ただ、経済難民と認定され、自動的にスロヴェニアへ送り返された移民の多くは、別の名前の証明書を持参し、オーストリアあるいはドイツでの難民申請者として再入国を試みるようで、管理の厳格化がどこまで機能しているか怪しいと報道されている。
 一度は、国境閉鎖を宣言したマケドニアは、事実上それを撤回し、オーストリアとドイツでの難民申請を希望する者のみの入国を認めている。ここでも、いったん入国を拒否された移民は、移民を支援するNGOの支援を受けて、別の名前の証明書を持参して、再度入国を試みているようである。
 このように、入国管理を厳格化しても、その実効性は極めて怪しい。
 ケルン暴行事件の主役となったアルジェリアやモロッコからの移民は、40ユーロ程度の格安航空便でイスタンブールへ向かい、そこから10ユーロ程度のバスで地中海沿岸に出て、密航者にお金を払って、ギリシアの島に渡っている。そこから、マケドニア、セルビア、スロヴェニアを経由して、オーストリアやドイツへ向かうようだ。
 「難民」を受け入れるオーストリアやドイツでは、多言語の通訳を使って「難民」の実際の出身地を編み出す方法をとっており、そこで経済移民と認定された者が国外送還となっている。ただ、実際問題として、ドイツからオーストリアに送り返された不法移民をどう措置するかも簡単ではない。順々に入国した国へと送り返すのでは効率が悪いだけでなく、どこかで再び偽の証明書を使って入国しようとするから、いたちごっこが続く可能性がある。

オーストリアが難民受入れに積極的な理由
 オーストリアは昨2015年1年で9万人の難民申請を受け付けたが、このペースを維持することは不可能だとして、難民受入れの上限を導入した。それによれば、2019年までの最大受入れ数を127,500人に設定し、2016年37,500人、2017年35,000人、2018年30,000人、2019年25,000人の年間上限を設定した。
 しかし、この上限数もかなりの数である。オーストリアが難民受入れに積極的な理由は何だろうか。
 まず、冷戦時代、オーストリアは西側の境界国として、旧社会主義国からの亡命者を積極的に引き受けてきた歴史がある。たとえば、ウィーンの比較世界経済研究所のスタッフを構成しているのは、旧社会主義国の経済学研究者である。冷戦時は亡命者経済学者を、体制転換以後は移民の経済学者を登用している。
 ただ、今時の難民と決定的に異なるのは、冷戦時代にオーストリアに流入した亡命者の多くが、同じキリスト教文化のもとに育った知識人か研究者だったことだ。ところが、今時の難民は異文化の、それも教育をきちんと受けていない若者である。オーストリアがこれらの若者に期待するのは、社会の底辺の仕事を担う労働力である。
 現在でも、オーストリアの主要なリゾート地には、夏冬を問わず、ハンガリー人、スロヴァキア人、ポーランド人、ルーマニア人などが多数働いている。オーストリアも次第に、ドイツのような他民族の底辺労働力を必要としている。しかし、文化的土壌がまったく異なる国からの移民・難民の受入れは、今後、いろいろな社会問題を惹き起こすことになろう。オーストリアはただでさえ気位の高い国である。その国で底辺の労働力として期待されるのであれば、「下層民族」への蔑視がなくなるとは思えない。オーストリア社会への同化を期待することはできず、新たな社会問題を生むことは目に見えている。

難民収容所の現場
 ドイツは当初から「難民歓迎」のデモンストレーションを行ってきた。難民が到着する駅には、政党によって組織されたグループが、歓迎の旗を掲げ、食べ物や飲料の提供ヴォランティア活動を行ってきた。ドイツの人々の善意を疑うわけではないが、一時的な歓迎ムードを作る人々と、実際の現場でヴォランティア活動する人々の間で、現実の理解に大きな乖離が広がっている。
 現場のヴォランティアの手記をドイツのメディアやインターネットで読むことができる。
 ドイツのテレビN24チャンネルのHPは、昨秋、ハンブルグの難民収容所でヴォランティアとして働いた女性の手記(匿名)を掲載している。難民収容所の現場は、ヴォランティアに応募した時に想像したものとはまったく異なるものだったという思いを記したものである。
 この女性は自ら難民支援のヴォランティアに応募し、難民収容所での仕事を引き受けた。彼女が派遣された難民収容所には1500名の難民が収容されており、彼女に与えられた仕事は、難民申請に関連するアドヴァイスや必要医薬品の聞き取り・手配等の仕事であった。ここで彼女は、思いもしなかった問題に直面することになった。その問題は、以下のようにまとめられている。

 1.難民の多くは極端な要求をする。すぐに住宅、車、職を与えるように要求し、自分の役割を説明しても理解してもらえず、説明を始めると、怒り出したり声を荒げたりして、言うことを聞かない。アフガンの難民の1人からは、「要求が満たされないなら、お前を殺す」とまで言われた。シリア人とアフガン人の一部のグループは、他の収容所へ移動させるように、ハンガーストライキを行った。あるアラブ系の難民は、同僚のヴォランティアに、斬首してやるという脅迫を行った。こういう事態がたびたび起きるので、そのたびに、警察を呼ばざるを得なかった。

 2.難民は自らについて信用できない情報を頻発させる。これはほとんどのヴランティアが経験しており、異なるヴォランティアに、異なる情報を与える。ある難民が送還書類の説明を求めたので、その意味することを説明したら、別のヴォランティアには別の名前で違う書類を見せた。結局、この男性は送還されずに、別の収容所へ移送された。

 3.ヴォランティアの仕事は、約束された事柄を実行するように難民を誘導することにある。たとえば、すべての難民に医療検査を受けさせなければならない。難民の多くは、歯医者や整形外科の診察を要求し、彼女は診察時間を設定する仕事を受け持ったが、難民の多くはまず決められた診察時間に来ない。

 4.ヴォランティア活動で一番不快なことは、女性のヴォランティアにたいする難民男性の対応である。難民の65~70%は20~25歳の男性で、独身者がほとんどである。彼らの一部は女性のヴォランティアを無視するか、言うことを聞かない。女性ヴォランティアが何かを伝えるか、指示を与えようとすると、それを無視し、男性のヴォランティアに聞きに行く。男性の難民は女性ヴォランティアを口笛で囃し立て、何やら自国語でわいせつな言葉を発し、それを皆で楽しんでいるようで、きわめて不快だった。女性ヴォランティアを携帯カメラで撮影し、それに抗議をした女性をさらに撮り続けることがあった。

 以上が女性ヴォランティアの手記の内容である。
 難民収容所だけでなく、病院やクリニックでも、女医や女性の看護士にたいして、男性の難民は無視あるいは拒否の姿勢をとり続ける事例や、病気を治さないと殺すというような脅迫を簡単におこなうと報告されている。女性蔑視の社会観や、生まれ育った社会的規範意識はかんたんに変わることはなく、年端もいかない子供すら、大人の真似をして、女性を蔑視する行動を学習している。

 何度も指摘したように、難民を単なる労働力として考えるのは間違いである。当該社会に同化できない、社会の下層の異文化の人々を抱え込めば、やがてそれは種々の社会的時限爆弾に転化する可能性がある。それはパリテロ事件の首謀者たちが、ベルギーで育った移民の2世や3世だったことからも分かる。欧州は非常に難しい社会問題を新たに抱えることになった。

初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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