新聞記者へ罰金、反発するジャーナリストたち
“春休み”をまえにして子どもたちの笑顔がこぼれる
今年の冬、弘前市は積雪量が青森市を上回るという異常な大雪にみまわれ、弘前市やその周辺の津軽地方は大寒波と大雪に苦しみました。しかし卒業式を終えて春休みに入った中学生たちが、中高年の大人たちにはとてもまねのできない寒そうな軽装をして、友だちとウキウキしながら電車に乗って弘前市に遊びに出かけるその無条件の幸福そうな笑顔は、寒波と大雪にうんざりする大人たちを温かい気分にしてくれるものです。
3月も終わりに近づく東チモールのこの季節は、子どもたちは学期末試験を迎えている時期です。この試験が終われば、4月の復活祭の休みとなり、思いっきり遊ぶことができます。春休みを迎える日本の生徒たちのように、東チモールの子どもたちも、うれしそうにそわそわとして笑顔を見せているのがこの季節です。人口比率で子どもたちが圧倒的多数を占める東チモールでは、子どもたちがうれしそうにそわそわと笑顔を見せていると、町全体もつられてうれしい雰囲気に包まれるような気がするから不思議なもので、子どもたちの力は偉大です。
ほうきを持って、どこかに掃除の奉仕をしに行くのかな。小学生たちの明るい笑顔が社会を明るくする。掃除をしっかり町に根付かせてくださいね。
2013年3月22日、ベコラにて。ⒸAoyama Morito
すぐ半水没する幹線道路
3月といえば東チモールではまだまだ雨季の真っ只中です。漠然とした感覚ですが、今年は去年と比べて雨が少ないような気がします。雨が降っても雨宿りしなくても傘をさせば普通に歩けるし、濁った川の勢いはさほど強くはありません。しかし新聞『インデペンデンテ(Independente)』(2013年3月18日)の報じるところによれば、3月14日、バウカウ地方ケリカイにあるグルサ(*)という村で大雨によって15軒の家が被害(うち10軒が全壊、5軒は畑のみ)をうけたという大きな自然災害が発生しています。
(*)グルサ村:2010年に実施された国勢調査の報告によれば、人口1416人、世帯数は295。東チモールの行政区は地方(日本の県に相当)の数が13、準地方(日本の市に相当)の65、スコ(suco, suku、日本でいえば町・村)の442に分けられる。グルサ村は442のなかの一つで、バウカウ地方のケリカイ準地方に属する。グルサ村における15歳以上の成人識字率は20~40%未満で比較的低い方だ。グルサ村はマカサエ語を母語とする比率がおよそ98%にのぼるマカサエ語の土地である。東チモールの最大の共通語で公用語でもあるテトン=デリ語(テトン=プラサ語)をこの村で母語とする住民はごくわずか、さらにほんのわずかの住民がサアニ語を母語とする。ちなみに東チモール全体でテトン=デリ語を母語とする比率は36%程度で、意外と低い。少なくとも80%以上の東チモール人はテトン=デリ語の話者であると思われるが、どの言語を母語とするかはその土地によって異なる。話せるからといって必ずしも母語とは限らない。なお、国勢調査では東チモールの言語数を32とその他と表している。
……とかなんとか書いていると、3月25日夜7時40分ごろ、本格的に強い雨が降ってきました。20分ほどして小降りになり、8時50分ごろ再び強い雨になりました。翌26日は朝から曇り、ベコラから市内中心地へ歩いていると涼しい向かい風があたり気持ち良かったまではよいが、昼前から本格的な強い雨が降り出し、午後1時過ぎると雷まじりのものすごい土砂降りとなりました。傘をさしても何の役にも立たずにずぶ濡れとなるだけです。この土砂降りは午後3時ごろ止んでくれましたが、水はけ機能が不十分なデリ市内の幹線道路はアッという間に水浸しになってしまいました。恵みとなっても災害にならない程度に雨も雪も降ってほしいものです。
アッという間に半水没の状態となって交通障害が生じる幹線道路。首都では延々と道路工事が行われているが、ただコンクリートやアスファルトを塗りたぐるだけで、都市に適する質が道路にない。2013年3月26日、「レシデレ広場」前の道路。ⒸAoyama Morito
刑事裁判で民事が適用され、損害賠償の支払い命令
3月14日、デリ(Dili、ディリ)地方裁判所は被告3人にそれぞれ150ドルの損害賠償の支払いを命じる判決を下しました。被告3人のうち2人は新聞記者、もう一人がその情報提供者で、3人を告訴したのは新聞記事に書かれ被害をうけたという検察官です。デリ地方裁判所によるこの判決はジャーナリストの猛反発を招いています。
2011年、飛び地オイクシで走行中のミニトラックが転倒し、乗っていた3人が死亡するという事故が起きました。ところが運転手はインドネシアへ逃亡し、この事故はどういうわけか調査もされず逃げた運転手が起訴されない状態が続きました。遺族の一人が、この事件を調査しないオイクシの検察官が何かしらの賄賂をもらって加害者の便宜を図っているとの情報を新聞記者に提供すると、『インデペンデンテ』紙と『スアラ=チモール=ロロサエ(Suara Timor Lorsae、東チモールの声)』紙はそれぞれ、2011年12月と2012年1月に、この情報を記事にしました。するとこの記事に書かれた検察官は名誉を傷つけられ精神的な苦痛をうけたとして、二人の新聞記者と情報を提供した人を提訴し裁判となったのでした。被告側は検察側から3年の刑を論告されましたが、3月14日、デリ地方裁判所の下した判決とは、新聞記事が検察官を傷つけたとはいえないと刑事上では無罪となりましたが、民法が適用され一人150ドルの損害賠償を原告側に支払うように命じるという内容でした。情報源となった人は1年間の執行猶予と150ドルの支払いという内容です。
この判決でよくわからないのは、刑事訴訟の裁判だったのが民事の判決を連れ添ったことです。刑事の裁判では、告訴した検察官の名誉毀損や精神的苦痛も、その検察官が賄賂を受け取った事実も、いずれも証明されませんでした。だったら被告は無罪でよさそうですが、民事が適用された判決が下されたのです。刑事の後に民事の裁判が行われ、このような結果になったのなら理解できますが、刑事裁判で民事を適用してよいものなのでしょうか……?
ジャーナリストの諸団体はこの判決にかんする共同声明文を発表しました。その要旨は以下の通りです。
1.名誉毀損を証明できなかったのにもかかわらず、この判決が出されたことは受け入れがたい。
2. 刑事訴訟の裁判に民事を適用したのは不正である。
3. われわれのこの行動は事実の報道と公共の正義のための道徳的な支援である。
4. この国の不正を防ぐため、われわれジャーナリストは事実の報道に努力する。
5. 検察官は記事によって不眠におちいって被害をうけたというが、その医学的証明が提出されないにもかかわらず、この判決が出されたのは遺憾である。
6. 検察官は精神的苦痛をうけたというが、実際は昇進しているのでこの判決は遺憾である。
7. 社会全体がジャーナリストに協力しつづけるよう願う。
8.報道機関とジャーナリストはこの判決にひるむことなく憲法と倫理にそった社会的責任を担うよう願う。
9. ジャーナリストは社会の諸機関と協力してこの国の民主主義と発展に貢献しつづけるよう願う。
さらにジャーナリスト団体は被告だった二人の記者のために、25セントか50セントのコインを入れる「検察官へのセンターボス」(センターボスとはセントのポルトガル語)というダンボール箱をつくり、検察官に支払うお金を集める呼びかけを行っています。これは判決に従う行動ではなく、あくまでも二人の記者たちへの連帯の意思を示す行動だそうです。
ジャーナリスト団体の一つ「プレスクラブ」の会長であるジョゼ=ベロ君も、刑事裁判のはずが民事の判決を伴ったことに危機感を覚えています。ジョゼ=ベロ君が主宰する『テンポ=セマナル』紙はエミリア=ピレス財務大臣の不正疑惑を報道し(『東チモールだより 第227号』参照)、ジョゼ君らこの新聞の記者たちは権力側から名誉毀損で告訴されうる立場にあります。訴えられ、被告となり、刑事訴訟の裁判を闘った挙句、例えば「刑事では名誉毀損とはならない、しかし民事では大臣に500ドルの損害賠償を支払いなさい」という判決がいっぺんに下されかねなくなりました。
なお、オイクシで起きた交通事故ですが、『テンポ=セマナル』の記者たちによると、この事故で亡くなった3人は転倒したミニトラックに乗客として乗っていたのか、個人的な関係で乗っていたのか、他にけが人が出たのか等々、事故そのものの状況はよくわからないといいます。また、すでにこの事件は検察庁に登録されているとのことですが、インドネシアに逃げたとされる運転手は依然として姿をくらましたままだそうです。また、運転手は酒に酔っていたと犠牲者の家族は述べているという話もあるようですが、何一つ証明されていないとのことです。要するにこの交通事故で亡くなった3人は成仏できない状態がつづいたままなのです。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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