<領海を画定しないチモール海の開発話は終わりにすべき>
なぜ東チモールはオーストラリアの不正行為を
非難しなければならなかったのか?
前号の「東チモールだより」では、東チモールがオーストラリアにたいし2006年に結ばれ2007年2月に発効された条約(CMATS =Treaty on Certain Maritime Arrangements in the Timor Sea、チモール海における海洋諸協定にかんする条約)について見直し(破棄)のための調停裁判の手続き開始したことを概説しました。簡素化して判りやすく話の筋を追ったつもりですが、東チモールとオーストラリアのあいだで起こっている“攻防”は条約上の法律に絡んだ複雑な話なので、正直いってわたし自身、理解できない部分が多々あり、不正確さを否めないかもしれません。
交渉ごとにかんして情報が公開されない傾向にあるので、なかなか現状を正確に把握することは難しく、新聞の記事・解説記事を読んでも不明瞭であることがよくあります(もっともそれはわたしの理解力不足からくることかもしれないが)。
東チモールがCMATSにたいし調停裁判の手続きを開始したことについてわたしが不思議に思うのは、なぜ東チモールはオーストラリアが2004年にはたらいたとする不正行為(盗聴スパイ行為)を持ち出さなければならないのか?という点です。CMATSはその効力発効から6年たっても開発計画が是認されなかった場合(期限切れは2013年2月23日)、CMATSの失効を求めることができるので、東チモールはCMATSが嫌だったら、その内容に粛々と従ってそうすればいいだけのことなのに……?
チモール海開発にかんする条約
東チモールの市民団体「共に歩む」は、ガスをどこで液化するかに基づく合意よりも、技術的・商業的な開発計画ははるかに複雑であり、CMATSと他の二つの条約、つまり「チモール海条約」(Timor Sea Treaty=TST、2002年5月に調印、2003年に批准)と「サンライズ国際共同開発合意」(the Sunrise International Unitization Agreement=IUA、2003年6月に調印、2007年CMATSと同日に批准)は複雑に連結し合っていると分析しています。そこでチモール海開発にかんする主な条約をここで簡単に整理しておきます。
・チモール海条約(TST);東チモールが独立した当日、祝賀ムードに包まれて調印されました。これによりJPDA(共同石油開発地域)が定義され、コノコ=フィリップス社(Conoco Phillips)による「バユ=ウンダン」ガス田の開発が可能となりました。東チモールは税金と採掘権においてJPDA内の石油原材料産出過程で得られる収入の90%を得ることになります。独立前に東チモールを統治していた国連にたいしオーストラリアは手練手管をつくし「海洋法に関する国連条約」(the UN Convention on the Law of the Sea=UNCLOS)による領海画定を阻み、両国の交渉によって定めることに押し切りました。
・サンライズ国際共同開発合意(IUA=the Sunrise International Unitization Agreement); 「グレーターサンライズ」田とは接近する二つの天然資源埋蔵地域「サンライズ」と「トロバドール」(Troubadour)の一括呼称です(前号の「東チモールだより」で描いた図は不正確なので描きなおします)。わたしはしばらくUnitization(ユニット化)とはこれら二つの地域を統合して扱うことを意味するものだと思っていましたが、これはまったくの間違いでした。この場合のUnitizationとは、JPDAの境界線にまたがる、つまり東チモール側とオーストラリア側にまたがる地域を共同開発するという意味です。ということはつまり、JPDAの境界線を東チモールに認めさせる意味合いがあります。「グレーターサンライズ」はJPDAの枠外にはみ出ている部分が大半ですが(JPDA内が20%、JPDA外が80%)、東チモールにしてみれば全部が自分の領域内だろうと思っても、このIUAによってオーストラリアはJPDAの枠外にあるウチの資源も東チモールと共同開発していいですよという恩着せがましさが感じられます。
図
「グレーターサンライズ」は「サンライズ」と「トロバドール」の一括呼称。
・チモール海における海洋諸協定にかんする条約(CMATS =Treaty on Certain Maritime Arrangements in the Timor Sea);「グレーターサンライズ」ガス田からの利益を両国で半分ずつ分配すること、この条約が効力をもつ2007年から50年間、領海についての議論を棚上げにすることが盛り込まれています。6年以内に開発計画が適用されなければ無効を求めることができます。
未完の肖像
TSTとIUAそしてCMATSは、東チモール側ではフレテリン政権下のマリ=アルカテリ首相とジョゼ=ラモス=オルタ外相(両者とも当時)が主導し、今から見ればオーストラリアとの外交関係に気遣った妥協の産物を生んでしまいましたが、経験のない新興独立国であることを鑑みれば仕方ないのかもしれません。2007年に誕生したシャナナ=グズマン連立政権は「グレーターサンライズ」からのパイプは東チモールにひく以外に選択肢はないと妥協しない断固たる態度を貫き、聞き分けのないオーストラリア側にたいし今年4月にCMATSの調停裁判手続きを始めたと通知し、領海画定の扉をこじ開けようとしています。独立から10年以上経ったいま、東チモールの交渉術も向上してきたといえます。
そもそも……と前号の「東チモールだより」で述べたことの繰り返しになりますが、インドネシアとオーストラリアが東チモール(ポルトガル領チモール)の聞き覚えのないところで画定した領海線は、東チモールの主権を無視したもので改正されなければならない過去の遺物です。もし東チモール側が「海洋法に関する国連条約」に沿って領海線を引きたいと主張するならオーストラリアは譲歩すべきです。ただし結果はどうなるか誰も予測できません。もしかして東チモール側に不利な線引きになるかもしれないのです。オーストラリアに求められることは、独立国・東チモールの主権を尊重することです。
東チモールの主権を無視した領海の境界線が遺っているのでは、東チモールの独立闘争は未完だといえます。東チモールを不法に占領した日本軍とインドネシア軍の蛮行やポルトガル植民地支配下でも起こった虐殺事件などなどにたいし何一つ正義が遂行されていません。チモール海の領海線が画定しないのもそのひとつです。正義が未完である状況は東チモール人の精神に大きく負に作用し、東チモール人の前進・経済発展を阻んでいる要因となっています。このようなことはもういいかげん終わりにすべきです
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔opinion1406:130810〕