<抑制された予算>
基盤整備が思い通りに進まない
東チモールの会計年度は1月~12月です。したがって今のこの時期に来年度の一般国家予算案が発表され国会で諮られることになります。
経済成長を自慢してきたシャナナ=グズマン首相率いる東チモール政府(第一期:2007年~2012年、第二期:2012年~2017年の予定)でしたが、来年2014年度の予算は抑えられるだろうという雰囲気は、すでに今年前半から漂っていました。それはとくに政府の報告書を読むまでもなく、世論が醸し出す空気から感じることができました。なんとなれば、国民をまとめ争いを回避するには解放闘争の最高指導者だったシャナナ=グズマンが最適であることを一般庶民は文句なく認めますが、治安が乱れに乱れた2006年~2008年から時間が経つにつれ、一般庶民が望むより良い生活にかんする評価はしだいに厳しくなってきて、今年前半には厳しい評価は世論と定着してきたからです。政府もこの事態を認識せざるをえなくなってきたようです。
政府批判として頻繁に報道されていることとは、質の低すぎる道路工事、浪費につながる東チモール人業者へ発注する公共工事、予算の執行率の低さ、医療・衛生・保健・教育という重要な公共サービスが蔑ろにされていること、大臣・官僚・公務員の汚職疑惑、などなどです。
公共事業の進捗状況の悪さを象徴する出来事に、コモロ川に架かる新しい橋の建設工事があります。首都デリ(ディリ、Dili)のコモロ地区から大統領府や政府庁舎がある中心部へは、コモロ川に架かるコモロの橋を含む一本の幹線道路で結ばれています。昔、インドネシア軍が東チモールを占領していた時代、コモロの空港に降り立ったときも、西チモールから陸路で東チモール入りしたときも、このコモロ橋を渡るとき、さあ、いよいよこれからデリに潜入するぞという緊張感を覚えたことがいまもコモロ橋の景観を見ると条件反射として思い出してしまいます。それはさておき、コモロ橋は片側一車線の狭い道幅であるため交通渋滞の原因となっています。そのコモロ橋のすぐ隣に新しく建設されたコモロⅡ橋が、今年の独立記念日(正式には「独立回復の日」と呼ばれる)の5月20日に開通式を迎える予定でした。これは今年の独立記念日の行事の一つの目玉となるはずでしたが、突貫工事も実らず、開通は5月20日に間に合いませんでした。自動車が通れないならせめて住民に徒歩で渡ってもらう行事を催して、とりあえず面目丸つぶれは回避できました。しかしこの出来事は基盤整備の公共事業にかんする政府の能力不足を市民に印象づけたのです。この工事にはインドネシアの業者が参加しましたが、東チモール人業者が参加する工事については計画通り進まないことが今年は常に話題となりました。
まともに工事ができない業者に工事は発注しないとシャナナ首相も強い口調で工事を請け負う業者を批判しましたが、タウル=マタン=ルアク大統領(※)はさらに一歩も二歩も踏み込んだ発言をしました。8月20日、マヌファヒ地方のベタノに完成した発電所の火入れ式を兼ねた東チモール民族解放軍の創設38周年記念式典の場で大統領は、解放闘争のかつての戦士たちが電力や米の買い取り事業などに介入するなど公共事業の取り合いをして事業を台無しにしてしまう事態を引き起こしていると指摘し、元戦士たちに公共事業を与えないように政府に求めたのでした。さらに、元戦士たちのなかには国家機関に影響力を残して事業の入札を勝ち取っている者もいて、それは法律違反であると汚職や工事の質の低さの一因に触れ、「この場を借りて、わたしはかつての戦士たちに言いたい。元戦士たちのある者たちは商売や事業に関わっているが、大統領として、そしてかつてのゲリラ参謀長として、あなたがたは赤線を越えていると感じている」と発言したのです。
解放闘争の元戦士たちに絶大な影響力をもつ元ゲリラ参謀長のタウル大統領がこのように言及したこともあり、不当な入札や低質な工事の悪影響は、政府にとってもはや新聞で報道される庶民感覚やたんなる世論として片付けられなくなったのです。なお、解放軍創設38周年とともに完成を祝ったベタノ発電所は9月に早くも機能不全に陥ったことは『東チモールだより』(第249号)ですでにお伝えしたとおりです。
(※)11月に予定されていたタウル大統領の来日は残念ながら大統領の体調不良で延期となった。もっと休んだほうがいいという周囲の勧めをきかず、その後、大統領は回復するとすぐに、11月28日「独立宣言の日」式典出席のためビケケ地方のクララス(1983年9月7日、インドネシア軍によって数百人の住民が殺された村として有名)に発った。
基盤整備事業への予算配分が縮小
以上のような背景があって、公共事業とくに基盤整備の工事はこれまでのように行け行けドンドンとはいかずに、少し立ち止まるべきだという雰囲気が醸成されました。結果、昨年度2012年と本年度2013年の、それぞれ年末に作成された予算案はほぼ約18億ドルであったのにたいし、来年2014年度の予算額が約15億ドルと低く抑えられたのでした。
もっとも、もし来年度の執行率が本年度より高くなれば実際に使われる金額は来年度とさほど変わらなくなることは十分に考えられます。ちなみに、2012年度の予算は約18億ドルにたいし執行額は11億9760万ドル、執行率は66.1%でした。2013年度はまだ1ヶ月を残しますが、予算約18億ドルにたいし果たして執行率はどうなることでしょうか……?
さて、本年度と来年度の主な項目の予算配分額を大雑把に比較しただけでも違いは明白です。「資本金と開発」という項目、つまり公共工事・基盤整備事業への配分を見直す意図が見てとれます。
2013年度と2014年度の 主な項目の予算配分の比較(単位は百万米ドル) (State Budget 2014, Budget Overview Book 1より) | ||
2013年度 | 2014年度 | |
人件費 | 160.5 | 167 |
物資・サービス | 441.5 | 476 |
公共交通 | 239.0 | 292 |
小資本金(minor capital) | 49.6 | 40 |
資本金と開発 (基盤整備積立金を含む) | 756.9 | 526 |
東チモール政府発行の『State Budget 2014, Budget Overview Book 1』に2014年度の予算について、「政府は財政維持と高質な経済成長を追求する政策をとっていく」とあり、基盤整備の積立金を減らしたことについて、「東チモールの大望する基盤整備の戦略事業を、年間をとおして根本的な状況を考慮したうえで修正しなければならないことを政府が認識していることの表れ」と述べ、「2014年度の予算配分はより現実的であり、国の石油保有能率を最大限に引き出すための政府の責任ある言動を考慮するものである」と述べています。
「質が無い」と新聞からさんざん非難を浴びている道路工事を、そして、計画通りできもしない工事を受発注する非現実的な公共事業の実態を、政府は反省せざるをえなくなったのでしょう(と思いたい)。「高質な経済成長」とか「より現実的」という表現を使用している文章がわたしには興味深く思えます。
~次号へ続く~
記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
〔opinion4670:13202〕