青山森人の東チモールだより 第256号(2014年1月27日)

<首筋がひんやりとしてきたか、疑惑の大臣>

道路工事は大雨が降る前に

 いま東チモールは雨季の真っただ中です。一桁台の南緯ですが南半球に位置する東チモールはいま日本でいう夏に相当し、少し陽が長くなっています。午後7時になってもまだ暗くはなりません。

 日中、空は薄い雲で覆われているおかげで日差しは強烈ではなくなりますが、モワ~ッした高温多湿の気候で身体が常に濡れている感覚となり体力が奪われます。乾季の安定した高気圧とは対象的で、雨が降ったり強風が吹いたり、天候は落ち着きのない不安定な低気圧となっています。

 そんな雨季であるにもかかわらず、デリ(Dili、ディリ)市内ではあちらこちらで道路の修繕工事がされています。降雨量はまだたいしたことがないので工事ができるのかもしれませんが、もし大雨が降ったら工事現場は悲惨な状態になってしまうでしょう。

 去年は道路(工事)に「質がない」(質が低い)と各方面から一年中こっぴどく批判された一年でしたが、いま町なかでみる道路工事は、これまでのようにただ厚化粧よろしくコンクリートを塗りたぐるだけの工事とは異なり、排水溝や配管に手をつけています。水はけや下水機能の向上をねらう、質のある道路工事のようにみうけられます。実際、そうあってほしいものです。

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首都の中心部コルメラ地区付近の道路工事。大雨が降りだす前に工事を終えないとたいへんだ。2014年1月24日。ⒸAoyama Morito

2014年度国家予算、15億ドル、国会審議が終了

 年が明けてすぐに東チモール国会は2014年度の国家予算の審議を続け、各省にたいする予算が日々承認され、24日(金)に審議は終了しました。『東チモールだより 第252号』で示した主な項目の配分額は少々変化しましたが、予算総額は昨年に提示されたとおり15億ドルです。内容については、石油基金からの安易な引き出し、各省の事業計画の不十分な透明性などいろいろ批判が出たものの、なんのことはない、賛成64、反対0、欠席0、全会一致、国会を通過しました。

 国家の予算となれば責任ある省庁とは財務省であり、説明責任のある人物とは財務大臣であるはずです。ところがエミリア=ピレス財務大臣は今年になって国会に姿を現していません。政府の説明によれば大臣は病気とのことです。

 シャナナ=グズマン首相が辞任の意向を示したことで、自分を擁護してくれる権力者がいなくなるのですから、汚職の疑惑がもたれている大臣はさぞ首筋がひんやりとしてきたことでしょう。シャナナ首相の辞任は、内閣改造の名のもとに、汚職の疑惑がもたれている大臣の幕引きを引き起こすかもしれません。首筋が最もひんやりしてきたのがエミリア=ピレス財務大臣ではないでしょうか。エルメラ地方のグレノ刑務所に服役中のルシア=ロバト元法務大臣がエミリア=ピレス財務大臣の来るのを首を長くして待っているかもしれません……。

 シャナナ連立政権は石油基金からの引き出し金で大規模プロジェクトを手がけてきましたが、シャナナ首相の辞任が大規模プロジェクトの見直しのきっかけとなり、少なくとも慎重さが加味されることをわたしは期待します。それともこれまでの路線は引き継がれるのか、おおいに注目したいところです。国会議員のあいだでは、もし国家に予算がなくなったらどうしようと財源が枯れるのを危惧する空気が流れているという噂がわたしの耳に入りました。頼みの綱である石油基金からの引き出しには慎重のうえにも慎重をきさないと、無くなってから「しまった」と思っても後の祭りです。

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だんだんと出来上がってきた10階建ての財務省ビルを大統領府近くから望む。このビルの主は当然エミリア=ピレス財務大臣になるはずだが、シャナナ首相とともに見を引いて別の人物が主になるかもしれない。なお、アイ・タラク=ラランと呼ばれるこの地区にCPLP(ポルトガル語諸国共同体)の事務所が立てられる予定である

数値の表記は統一を望む

 国家予算の審議について伝える連日の新聞記事には当然ながら予算額の数値が記載されます。各紙新聞を読むと、テトン語(テトゥン語、Tetun)の記事のなかで、カンマ(,)と小数点(.)の使い方について英語方式とポルトガル語方式の二通りのうちどちらを使用するのか統一されていないのが気になります。

 英語方式は説明するまでもないと思います。ポルトガル語方式を11歳の子が使っているポルトガル語の算数の教科書から例にとると、8.5トンは8500kgという表記は、8,5t=8500kg となります。つまり英語ならば8.5、ポルトガル語ならば8,5 となります。小数点の表記が英語はテン(.)ポルトガル語はカンマ(,)となるのです。また三桁ごとにつける印ですが、英語ならカンマ(,)、ポルトガル語ではテン(.)となるのです。例えば、日本語でいう9千2百2十8テン03という数字は、英語方式では9,228.03と書きますが(日本語でもこう書くが、日本式表記が三桁にカンマをつける英語方式をそのまま採用しているのは日本語の読み方に合致しない愚かな選択である)、ポルトガル語方式では9.228,03となります。これら二つの表記は英国とポルトガルに代表されるのかどうかはわかりませんが、ともかく二通りの表記がこの世界にあることは確かです。

 世界に二通りの表記があるのはよいとして、問題はここ東チモール国内において上記二通りの表記が混在していることです。「混在」とはやや大袈裟かもしれませんが、テトン語の新聞記事で二通りの表記をされると、ついうっかりしてとんでもない読み違いをしてしまうことがあり、困ります。とくに算数の基礎を学んでいる子どもたちに余分な負担を与えないように、東チモール政府はどちらかに決めた方がよい気がします。テトン語の単語の綴り方が統一されないことにかんして、どちらかというとわたしはあまり気にしないほうですが、数値の表記は科学の学習のために統一したほうがいいのではないかと思います。統一が難しいなら、せめて政府や新聞社の書き手が数値の表記について誤解の起きないようにそのつどしっかり解説するなど、科学的な数値の解釈に曖昧さを許さない工夫をした方がよいでしょう。

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「シャナナ読書室」が長期間の改修工事を終えて、図書館・展示室・博物館などの複数の機能をもつ「シャナナ文化センター」として2013年12月8日に生まれ変わった。入り口にはなんと、2008年2月11日にシャナナ首相が乗っていて武装反乱兵士に襲撃されたトヨタの車が展示されている。しかし悲しいことに「展示」といっても外に置かれているだけで雨ざらしだ。すでに部分的に錆ついているし、車の中はクモの巣が張ってあり、誰かのパンツが投げ捨てられている(まさかそれも展示物ではあるまい)。貴重な“証拠”であり歴史的な“展示品”をこのような扱いをするのはいささか問題である。
2014年1月23日。ⒸAoyama Morito

~次号へ続く~

記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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