総与党状態の怪しげな政局
いまのところ雨不足気味の雨季
2月の最初の週末は雨降りでしたが、本格的な雨季の幕開けとはなりませんでした。3日以降、雨らしい雨がしばらく降っていません。また、このところの早朝の室温は28℃と、東チモールとしては肌寒さを感じるまでに気温の低い朝がつづいています。東京で27cmの積雪を記録した週末あたりから、こちら東チモールでは雨季特有のじめじめとした湿気さえも薄れてきました。気温も湿度も高くないのはありがたいのですが、異常気象の薄気味悪さを感じてしまいます。
『チモールポスト』(2014年2月5日)は、南西部のスアイでは雨不足のため、とうもろこし・キャッサバ・サツマイモなどの農作物が不作に陥っていると報じています。農民は食料を市場で買う経済力はなく、とくに米一袋(25kg)が18~20ドルまで値上がりして米に手が届かなくなり、サゴヤシだけを食べていると農民の発言を紹介しています。この農民は米の価格調整を政府に求めたいと述べています。なお東チモールで消費される米は主にタイやベトナムからの輸入米です。自給自作に頼る農民にとって雨不足は飢饉につながります。大雨も困りますが、雨不足も死活問題です。
以上のようなことを書いていると、2月13日の午後4時過ぎ、久しぶりに本格手な雨が降ってきました。恵みの雨になりますように……。
学校帰りの子どもたちの向こう側にゴミ収集車が見える。毎日のように午前中いっぱいの時間をかけて町中のゴミが収集されるが、すぐにゴミ集積所は汚れてしまう。道路わきのゴミ集積所は、衛生上、問題がある。ゴミの捨て方・集め方について市民と行政が一体となって仕組みを話し合い取り組む必要がある。お昼12時20分ごろ、政府庁舎近くにて。
2014年2月10日。ⒸAoyama Morito
融和か、馴れ合いか
1月、2014年度予算案が満場一致で国会を通過しましたが、いったい野党はどうしたのか。野党とはつまりフレテリン(FRETILIN=東チモール独立革命戦線)のことです。
第一期シャナナ連立政権(2007~2012年)のとき、得票数で第一党の地位を保ったフレテリンは第一党を無視したシャナナ連立政権を承認せず、連立政権を“事実上の政府”などという呼び方をしてひたすら反発を続けました。国会議員一人に一台の公用車を配給することが国会で決まっても、フレテリンの国会議員は配給を受けることを頑なに拒否しつづけました(例外はいたが)。2012年の選挙でシャナナ率いるCNRT(東チモール再建国民会議)が第一党となるとフレテリンはシャナナ連立政権の正当性を承認し、喜んで(たぶん喜んでだろう?)公用車を受け取りました。庶民との繋がりを大切にして車の配給を拒否したのではなく、たんにシャナナ連立政権の正当性だけを理由に拒否していたのかと情けなく思ったのはわたしだけでしょうか。
恩恵を一度うけると癖になるのが人間の悲しき性か、フレテリン書記長のマリ=アルカテリ元首相は飛び地オイクシに「特別経済地区」を建設する計画「マスタープラン」の責任者に任命され政府から大きな仕事を与えられました。この計画に約2000万ドルの予算が計上されました。さらに、今年東チモールはCPCL(ポルトガル語諸国共同体)の議長国になるにあたっての責任者にフレテリンのル=オロ党首が任命され、これまたありがたく引き受けられました。
フレテリンから政府批判の声は出るには出ますが、ときたま与党内から出る政府批判の声とは大差はなく、野党としてのフレテリンは、よくいえばシャナナ=グズマン首相と和気藹々の良い関係、わるくいえば馴れ合いの関係にあります。
シャナナ首相の辞任のときを混乱ではなく融和のなかで迎えようではないかという政治家たちの共通認識がみんな仲良し総与党の状態をつくりだしているとしたら、野党の存在感のなさを嘆くのは的外れなのかもしれません。
みんな仲良しであるのは悪いことではないものの、しかしながら、人びとのより良い生活のため、一つ一つの課題に知恵をふり絞って全力で取り組んでいるような緊張感が東チモールの国会・政界にない印象をわたしは抱きます。与党を批判する野党の重要性を説いて、2012年の総選挙後、フレテリンとの大連立を組まなかったシャナナ首相ですが、フレテリンに重要な仕事を与えて仲良し路線をとり、総与党状態をつくりだしているとは、これいかに。
与野党間に緊張感がない政治状況になると、例えばこんなことが大きな話題にならないことがわたしには気になります。政府はヘラとベタノの発電所へ燃料を供給する会社として二社を指名しました(入札手続きは踏んでいるといわれていますが)。一社はETO(エスペランサ・チモール・オアン)社でシャナナ首相の甥が経営する会社です。もう一社はアビリオ=デ=アラウジョ氏の経営する会社です。アラウジョ氏は昔フレテリン海外代表部長でしたが、インドネシアとの妥協を図った悪名高い「和解会議」を進め、フレテリンから除名された人物です。
憲法改正
シャナナ首相の辞任のときを混乱ではなく融和のなかで迎えようではないかという政治家たちの共通認識について、先ほど肯定的な意見を述べてしまいましたが、早くも訂正しなければならないかもしれません。かれらの共通認識は権力保持にあるかもしれないからです。
シャナナ首相の辞任と伴に1970年代に闘いを始めた現在60代の指導者たちは、政治の第一線から姿を消すかもしれませんが、政治諮問評議会のような政治部門を創設し、その構成員として政局を“見守る”という構想があるという見方があります。この構想を実現するには政治の仕組みを変えなければなりません。つまり憲法改正が必要となります。CNRTとフレテリンが組めば憲法改正ができるという新聞記事がチラホラと見受けられます。具体的な憲法変更の内容は報じられません。もしその構想が本当ならば、シャナナ首相が辞任の理由とする世代交代とは、わたしが期待するような世代交代(つまりシャナナ的気質からタウル的気質への移行)とまるで違うのかもしれません。60代の指導者たちは依然としてプチ=プジョワとして成長したいという、与党・野党の枠を超えた共通の利害で結ばれている。それが総与党状態の政局を生んでいるのではないか。このような嫌な感覚をわたしは抱くようになってきました。
シャナナ首相の辞任ついて最近は周囲の人間が、あーだ、こーだ、と発言するだけで空論がつづいています。ともかく、本人の口から辞任への段取りについて具体的に語られるまで待たねばなりません。
写真2
オーストラリア大使館近くの壁に描かれた落書きの一部。カンガルー(オーストラリア)からワニ(東チモール)が石油を守ろうとしている。ワニとカンガルーがかわいらしく描かれているのが面白い。2014年2月12日。ⒸAoyama Morito
~次号へ続く~
記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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