ビセンテ=グテレス国会議長、起訴される
シャナナ=グズマン首相、インドネシアから勲章をもらう
10月1日シャナナ首相は体調を崩し帰国日を延長して帰国したとおもったら、すぐまたインドネシアにトンボ返りしました。10月7日、インドネシア国軍創設69周年記念がスラバヤで催され、シャナナ首相はそこでユドヨノ大統領から勲章をもらったのです。
かつてインドネシア軍による侵略と戦ったFALINTIL(東チモール民族解放軍)の最高司令官シャナナ=グズマンがインドネシア政府から勲章をうけることは、両国の和解と友好の証として東チモール政府は歓迎しています。しかし東チモール人はあまり口に出さないかもしれませんが、24年間にわたるインドネシア軍の蛮行によっていまだに大勢の東チモール人が肉体的・精神的な後遺症で苦しんでいる現状を鑑みると、「めでたし、めでたし」とおいそれと単純に受け止めることのできないのが実情だとわたしは察します。
被告・エミリア=ピレス財務大臣、低い予算執行率を説明せず
勲章授与にかんする賛否にかんしてここでは脇に置きます。いままずもって語られなければならないのは、シャナナ政権の国家運営能力が深刻な状態に陥っている現状です。
10月8日の新聞にエミリア=ピレス財務大臣(いまや彼女は被告)が10月7日に開かれるはずの、本年度予算の執行状況にかんする国会説明会に出席しなかったことが報じられています。
「エミリア、敬意に欠ける」。
『チモールポスト』(2014年10月8日)より。
「国会、エミリア財務大臣の2014年度国家予算執行にかんする責任放棄を嘆く」。
『インデペンデンテ』(2014年10月8日)より
この説明会はあらかじめ国会によって組まれていた日程であるにもかかわらず、エミリア=ピレス財務大臣は政府要人・職員とノルウェーに出かけているため不在であることを、予算に関する国会内の作業部会は当日ラ=サマ副首相から書類で通達されたというのです。
今年、ピレス財務大臣のこうした国会軽視の態度は何度も批判され、タウル=マタン=ルアク大領領も強く非難しました。汚職疑惑の渦中にあるこの国会軽視の大臣をシャナナ首相は擁護し、的外れな方向に矛先を向ける場面も何度もありました。国家予算の執行率はせいぜい50%に達する程度であることにたいして国会をとおして国民に説明することが国家運営を司る者たちの最優先事項であるはずなのに、その責任からまるで逃げるように外国へ赴く財務大臣の問題を放置しているのですから、「早く内閣改造をして態勢を整えてほしい」と声が高まるのは当然です。
政府の最高責任者であるシャナナ首相も本来ならば国会内のこの説明会に出席すべきで、百歩譲ってインドネシア政府からの勲章を断るのは外交上問題になるからして国会を欠席せざるを得ないとしても、せめてエミリア=ピレス財務大臣には絶対に出席させ国民に説明させなければならなかったはずです。
国会議長、副議長時代に不正商業行為か?!
シャナナ首相はスラバヤのあと、バリ島で開かれる「民主主義フォーラム」に出席し、まだしばらく国内を留守にします。はて、はて、自分で言い出した年内辞任は? みんなに約束した内閣改造は? 被告となっている財務大臣は予算について説明責任を果たさないことにたいする首相としての責任は?……そうこうしているうちに10月も終わり11月になってしまい、すぐ年末年始を迎えてしまいますよ、シャナナ首相。
東チモールではこうした状態を”fraku/fraco”(弱い)と表現しますが、日本語で表現するならば「いいかげんな」となりましょう。国会を軽視する大臣のいいかんげんさだけでも内閣が揺らぐにあまりある事態なはずなのに、その大臣は汚職で起訴されているのですから、本当にもういいかんげんにしてくれと言いたい気持ちです。
事態はさらに追い討ちをかけます。9月末、国会議長であるビセンテ=グテレス氏が他の2名とともにデリ(ディリ、Dili)地方裁判所に起訴されていたのです。東チモールでは検察が裁判所に起訴するとき、大々的に発表することなく書類上の手続きを黙々とするだけなので、検察と裁判所の動きを常に見張っていないと大物政治家が起訴されてもすぐに気づかないことがあります。情けないことに大きな報道機関は意図的に大きく報じない傾向であることも否定できません。国会議長が起訴されたニュースをほとんどの報道機関は報道していません……例外は『テンポ セマナル』紙です。『テンポ セマナル』(2014年10月7日、実際は8日に発行)はビセンテ=グテレス国会議長が起訴された事実を大きく報じました。『テンポ セマナル』でも起訴されてから報道までに一週間以上たったのは、各政党の国会議員と面会し、国会議長が起訴された事実を知らせ意見を聞いて回ったからでした。被告となった国会議長は裁判所から起訴状を受け取ったはずですから知らないわけがありませんが、自ら同僚に報告しなかったようです。アデリト=ダ=コスタ=ウーゴ国会副議長でさえ『テンポ セマナル』のジョゼ=ベロ君から知らされて「驚いた」(同紙より)といいます。
「デリ地方裁判所、検察からビセンテ=グテレス被告にたいする告発を受けとる」。
『テンポ セマナル』(2014年10月7日)より。
財務大臣と国会議長がこのような有様にあるなかでシャナナ首相がインドネシア政府から勲章をもらったというニュースを改めて考えてみると、「なにをそんなのんきな」、といいたくなります。
元国会副議長で現国会議長のビセンテ=グテレス氏とともに起訴されたのは、ジョアン=ルイ=アマラル元国会書記長と、元財務省国家物資供給局長で現在は制度強化担当長官を務めるフランシスコ=ダ=コスタ=ソアレス氏の二名です(〔元〕の肩書きはシャナナ第一期連立政権時代のもの)。これら3名ともシャナナ第一期連立政権下の2008年と2009年におこなった自動車購入事業(事業費は約217万ドル)に関与した行為が不正とみなされ起訴の理由となっています。そして自動車を販売したのは「ミドリ モーターズ」という会社です。いかにも日本に縁がありそうな会社名が日本人として気になるところです。
『テンポ セマナル』の記事は起訴状を詳しく解説していないので正確にはわかりませんが、行間から察するに、被告3名による不正行為によって国が自動車を購入するために用意した金額と実際「ミドリ モーターズ」社に支払われた金額とに差額が生じ、国家に損害を与えたことが罪状のようです。なお裁判に持ち込むための次なる手続きは、国会によるクテレス国会議長のもつ免責特権の解除です。
次なる被告は誰か?
ある政府関係者は(不正をはたらき)バリ島に家を建て自動車BMWを所有していることをわれわれはつかんでいる、汚職・不正の12件に関与する大臣・政府高官らは近く裁判にかけられることになる、これらの者たちは裁判の準備をしておくがいい、検察側は態勢を整えつつある――と今年6月9日に語ったジョゼ=シメネス検事総長にたいし、グテレス国会議長は、だまって自分の仕事をすべきだと牽制したのは((『東チモールだより 第273号』参照)、自分自身がその「12件」のなかに含まれていることを察知してのことなのでしょう、おそらく。
それにしても検事総長のこの発言は、バリ島に家を建てBMWをもっている大臣あるいは大臣級の人物がいることを示唆しています。その人物の起訴はまだされていません。国会議長の次に起訴されるのは、汚職で得たお金でバリ島に家を建てた人物かもしれません。
現在のシャナナ政権は、ある意味で、2006年の「東チモール危機」以上に道徳腐敗という名の政治危機を迎えているといえます。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5015:141010〕