青山森人の東チモールだより 第291号(2015年2月1日)

内閣改造の宴

投降はしない
 1月15日、警官2名を一時拘束し、警察車両を燃やしたとして指名手配されているマウク=モルク氏の騒動に続き、1月18日、アメリカ大使館職員宅への手投げ弾事件が発生し、さまざまな噂が流布するなか、シャナナ首相が12月に約束した内閣改造が2月1日に発表されることになると、新しい政府の人事にも注目が向けられました。

 まずマウク=モルク氏の件ですが、マウク=モルク氏がアメリカかオーストラリアの大使館に仲介を求めると労働党のアンジェラ=フレイタス党首(モルク氏の非合法団体「マウベレ革命評議会」の幹部顧問)が発表した内容について、モルク氏はアメリカかオーストラリアに腐敗したシャナナ政権に目を向けるように求めたのであり仲介を求めたり投降を意味したりしたのではないと否定する声明がメディアを通して発表されました。お騒がせ発言をするアンジェラ=フレイタスさんについて、ラサマ副首相や国軍のレレ司令官が警察総監に逮捕を求める発言をしています。「マウベレ革命評議会」が非合法になった去年の段階でこの女性も拘束はされないが仮釈放の身分であるので治安を乱す言動は慎めという権力側からの圧力なのでしょうが、世間を騒がせる発言をするからといって逮捕・拘束するとしたら、それは「言論の自由」という観点からすれば問題です。

 指名手配中のマウク=モルク氏は依然として逃走中です。家族・親戚がかくまっているといわれ、逮捕は容易ではなさそうです。

飛び交う噂と憶測
 1月15日の事件はマウク=モルク氏がはめられたもの、アメリカ大使館職員宅へはマウク=モルク氏に罪を着せるため何者かが手投げ弾を投げた……などの噂や憶測が出ていますが、改造される新政府の人事をめぐってはさらなる噂や憶測が飛び交いました。1月末までの報道を簡単にまとめてみます。

第5次立憲政府、最後の晩餐
 シャナナ=グズマン首相は1月26日、現政権(第5次立憲政府)の構成員(閣僚、副大臣、長官あるいは政務次官)合計50数名すべてに書簡を送りました。その書簡の内容は明かされませんが、数日後に発表される第6次立憲政府に再任されない者は辞表を提出するように求めるものと報道されました。この時点で誰が入閣するか、どの大臣が再任されるか/されないか、などなどの人事構想はシャナナ首相の頭のなかでほぼ固まったものとおもわれます。

 1月28日、シャナナ首相はホテル・ノボ=トリズモ(新トリズモ ホテル)で第5次立憲政府の要人を夕食に招待し(全員が出席したわけはない)、2012年発足以来の労をねぎらいました。報道によればこの晩餐会は五時間にも及んだそうです。レストランの会場には記者たちは入れなかったが、廊下で聞き耳をたてられたと『テンポ セマナル』の電子版は伝えています(2015年1月29日)。

 書簡と晩餐会の内容は基本的には非公開ですが、漏れた情報から各報道機関は推測をふまえ第6次立憲政府の人事予測をたてました。

集中するシャナナ首相の権限
 今回の内閣改造でわたしが個人的に気になるの、汚職で起訴され免責特権を解かれる前に外国人裁判官が国会決議で追放され司法が混乱し裁判手続きが進んでいないエミリア=ピレス財務大臣の処遇です。彼女は再任されないと報道されました。大臣でなくなると免責特権を解く手間は不要となり、彼女の裁判が障害なくすぐに開始されるのではないでしょうか。

 そしてなんといっても最大の注目点は野党フレテリンからの入閣がありやなしやです。現在、国会議員のいる政党は四党だけで、最大与党のCNRT(議員数30人)、与党の民主党(8人)、同じく改革戦線(2人)、そして唯一の野党フレテリン(25人)です。民主党も改革戦線も入閣の有無に関わらずCNRTとの連立体制は維持するといっています。したがってフレテリンからの入閣が実現すると大連立政権が誕生し、事実上、野党不在の政局を迎えることになります。例えば、与党である民主党や改革戦線から誰も入閣しないで、野党フレテリンに主要ポストがあてられるとしたら、勢力図も変わってしまい、政界は極めて曖昧・不明瞭になってしまい、へたすると不安定にもなりかねません。今回の内閣改造はたんなる内閣改造ではなく、政界の再編制という意味があります。その鍵はシャナナ=グズマン首相の手に握られているのです。

シャナナ首相の辞任の噂
 政界勢力図塗りかえの鍵を握るその一方でシャナナ首相が辞任するという噂・憶測が流れました。フレテリンから数名が入閣するだろうといわれ、その中でルイ=アラウジョ医師(元保健大臣)は財務大臣に就くと初めは報道されましたが、のちにシャナナ首相は辞任し、アラウジョ氏を後継者とするかもしれないとも一部報道されました。ちなみにルイ=アラウジョ氏は、2013年11月にシャナナ首相が辞任の意向を表明して以来、次の首相として最も望まれる人物は誰かというアンケート調査で一番人気になっている人物です。

 東部ラウテン地方に遊説中のタウル=マタン=ルアク大統領は首相から辞表は受けとっていない(1月30日)、シャナナ首相の率いるCNRTの幹部はシャナナ首相が辞任するというのは噂にすぎない、などなど首相辞任説否定の報道もされました。

フレテリンよ、何処へ
 フレテリン書記長のマリ=アルカテリ元首相は、フレテリンの党員が政府に迎えられたとしてもそれはあくまでも個人としての入閣であり、フレテリンとしては野党の立場を維持すると述べています。しかしこんな理屈が通るでしょうか。マリ=アルカテリ元首相は飛び地オイクシ地方の特別経済区の開発責任者に任命されて以来、政府との協調路線をとり、野党精神を置き去りにしているようにみえます。

 それにしても他の一般のフレテリンの党員はこの状況をどう考えているのでしょうか。シャナナ連立政権との協調路線が党の総意なのでしょうか。そう遠くない2017年の総選挙でフレテリンはどう闘うのでしょうか。フレテリンの方向性が問われます。フレテリンを自分の懐に入れて批判勢力を骨抜きにし、自分の思い描く中・大規模開発計画を押し進めようとするシャナナ=グズマン首相の“政略”と考えられなくもありません。

 しかし、次の世代つまりタウル大統領に代表される50歳代の世代、さらに侵略軍と最も危険な最前線で戦った現在40歳代の世代は、このような政治状況に付き合うつもりはないはずです。

 いずれにしても、まもなく東チモールの新しい第6次立憲政府が誕生します。

    ~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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