シャナナ首相、辞表を提出か
予定通りか足踏み状態か
2月2日午前中、シャナナ=グズマン首相は与党三党(CNRT=東チモール再建国民会議、民主党、改革戦線)と会談したあと、午後3時ごろから約1時間、タウル=マタン=ルアク大統領と会談しました。いよいよ改造内閣の中身の全容が明らかにされ、首相の辞任も正式に発表されるかと思われました。『テンポ セマナル』(2015年2月2日、インターネット版)の速報では「シャナナ辞任、大統領は各政党を召集」とタイトルがつけられました。
ところが、シャナナ首相は大統領との会談後、記者団にたいして時が来れば発表されると言葉を濁しました。内閣改造の詳細や首相辞任については相変わらず曖昧な状態がしばらく続くことになります。まるで足踏みしているかのような状態です。
同上の『テンポ セマナル』によれば、シャナナ首相が党首を務めるCNRTの主要幹部は、首相は大統領との会談のさいに辞表を提出したと語る一方で、アジオ=ペレイラ官房長官は、首相は大統領と現政府の構造改革について話し合ったと述べるだけです。また、『東チモールの声』(Suara Timor Lorosae、2015年2月2日、インターネット版)では「シャナナ、タウルと会談、辞任について協議せず」と報じています。
いずれにしてもこの時点で公式な発表がされませんでした。シャナナ首相が内閣改造を機に辞任するという報道は、1月28日のホテル・ノボ=トリズモでの政府要人との晩餐会におけるシャナナ首相の発言が伝わってから本格的にされてきました。オーストラリアABC局も、首相は辞任すると同僚に語ったと断定的に報じました。2月1日には首相辞任を含めて全容が明らかになるかのように報道されていた内閣改造ですが、じらされている感じがします。これはシャナナ首相にとって予定どおりの運びなのか、足踏みを余儀なくされる何かが生じたのか、気になります。
そもそもシャナナ首相が辞任の意向を表明したのは2013年11月のことです。2014年に辞任するといったもののとうとう年を越してしまいました。内閣が改造され第6次立憲政府が近く誕生することは、すでに辞表を提出して省庁の職員や大統領に退任の挨拶をしている大臣や長官いるのですから、確かでしょう。内閣改造は首相の専権事項なので問題ないとしても、次の首相の人選にかんして政界は水面下でもめているのかもしれません。
マリ=アルカテリ元首相、連携しているのはシャナナ首相だけ
タウル=マタン=ルアク大統領は2月2日のシャナナ首相との会談をうけて、3日、政権与党三党の代表者と協議し、4日には野党フレテリンのル=オロ党首とマリ=アルカテリ書記長と会談をしました。この間、シャナナ首相本人がほとんど何も語らない一方で、周囲からは、内閣改造はいいがシャナナ首相の辞任には反対だとか、シャナナ首相は内閣改造はできるが次の首相を決めることはできないとか、さまざまな意見が飛び交いました。
シャナナ首相がルイ=アラウジョ氏を次の首相に推している報道について与党三党は「聞いていない」といったり、フレテリンのマリ=アルカテリ元首相は「ルイ=アラウジョ氏を次の首相にしたいと持ち出したのは、フレテリンでもルイ=アラウジョ氏でもない、シャナナ首相だ」と暴露気味に述べたりしました。
今回の内閣改造で目を引くのは、シャナナ首相が自分の党であるCNRTや与党仲間である民主党と改革戦線よりも、野党フレテリンと近しくしていることです。いや、フレテリンというよりはマリ=アルカテリ書記長との接近です。フレテリンから4名が入閣ないし要職に就くといわれ、そのなかから首相が誕生するかもしれないこの状況で、マリ=アルカテリ元首相は、自分たちが連携しているのはシャナナ首相とであり、CNRTでも民主党でも改革戦線でもないとも述べています。さらに、シャナナ首相の辞任に反対する者たちとはシャナナ首相が辞任すると公共事業を受注できなくなると恐れている元戦士たちだとも述べます。対立や反発を招きそうな挑発的な発言はマリ=アルカテリ書記長の首相時代からの悪い癖です。
世代間で綱引きの可能性
一方、同じフレテリンでもル=オロ党首は「首相が辞任したら自動的に退任し内閣をつくることはできない。憲法に沿って国会内で新しい連合を形成し新しい首相の選出となる」といい、シャナナ首相の後継者としてルイ=アラウジョ氏を新首相とする線路が敷かれたような言い方をするマリ=アルカテリ書記長とはニュアンスの異なる発言をしています。
首相の辞任は内閣改造後のこと、そして新首相は国会の多数決で決められ、首相を任命するのはあくまでも大統領なのです。強引に新しい政治体制を築こうとする60歳代指導者(1970年代のフレテリン指導者たち)と憲法を重視する50歳代の指導者(タウル大統領やル=オロ党首)たちのあいだで綱引きがされているのかもしれません。
とくにタウル=マタン=ルアク大統領は、ルールを無視しがちなシャナナ首相に警戒の目を向けているはずです。大統領の自伝書『タウル=マタン=ルアク 独立への人生』で、タウル大統領は自分とシャナナ首相を比較してこう述べています。「シャナナ=グズマンは制度的気質をもっていない。かれは考え、決断し、すぐに行動し、待たないのだ。かれはとても寛容的である。一方、わたしはそうではない。わたしは制度の原則・規則に従い、規律を守る。シャナナはすぐに実行するのでシャナナに原則・規則・規律を守らせるのは難しい」とあります(東チモールだより第255号2014年1月17日を参照)。
二度目の“改造”
『テンポ セマナル』(2015年2月5日、インターネット版)は、5日、予定されたシャナナ首相とタウル大統領の会談がキャンセルされたが大統領と与党三党には辞表と次期首相を誰にするかの提案がシャナナ首相から送られたと速報しました。他の報道をみると、シャナナ首相は次の首相にはルイ=アラウジョ氏を推すと与党三党に伝えたと報道されています。正式発表はまだされていませんが、報道の口調がしだいに断定的になってきました。
ところで東チモール国軍のレレ=アナン=チムール司令官はうまいこといいました。
「“内閣改造”はシャナナ=グズマンにとってこれが二度目となる。一度目とは1984年の抵抗運動時代のことで、その結果マウク=モルク氏はインドネシアに投降することになった。状況を研究・分析し“改造”すれば、より効果的に人びとに奉仕する政府になるだろう」(2月3日テレビのニュースで放映されたとGuide Postインターネット版が伝える)。
マウク=モルク氏はインドネシアからオランダに移住し、2013年に帰国、シャナナ政権の打倒と革命を叫び、現在、軍と警察の追跡から逃亡中です(東チモールだより第289~291号参照)。覇権争いに敗れた者には悲しい余生しか残されていないのかと非情さを覚える出来事が進行中のいま、シャナナ=グズマンによる二度目の“改造”がなされようとしているのは歴史的な偶然かそれとも必然か。ともかく今回の内閣改造で亀裂を生まないようシャナナ首相には温情的な配慮が望まれます。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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