青山森人の東チモールだより 第299号(2015年5月8日)

西サハラとパレスチナの人びとへ連帯を示す東チモール

アジア・アフリカ会議に出席したタウル=マタン=ルアク大統領

4月21~23日、ジャカルタで開催されたアジア・アフリカ会議、いわゆるバンドン会議を報じる日本の報道機関ときたら、安倍首相の周りをうろつくだけで結局は安倍政権の長期政権にくみするような日本のマスコミ姿勢に失望・不愉快を感じたのはわたしだけでしょうか。

この国際会議そのものを真剣に取り扱わない地域個別主義に陥っている日本のテレビ放送局が情けなく、テレビニュースの時間になるとチャンネルを変えたくなる衝動に駆られましたが、我慢して見ていると、この会議に出席した東チモールのタウル=マタン=ルアク大統領が画面に映るほんの一瞬だけちょっとうれしく感じたりしました。

 アジア・アフリカ会議におけるタウル=マタン=ルアク大統領の演説を、『テンポセマナル』(2015年4月25日、電子版)の記事をもとに以下、粗訳してみます。

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アジア・アフリカ会議60周年記念会議でのタウル=マタン=ルアク大統領の演説

みなさん、

東チモールの国民を代表して敬愛なるみなさんに挨拶できることにわたしは大いなる満足を感じています。

バンドン会議であるアジア・アフリカ会議の60周年と新アジア・アフリカ戦略パートナーシップの10周年を祝う感動的な式典にわれわれが一堂に会したのですから、わたしの満足感はより大きなものとなりました。

 60年前、“冷戦”と呼ばれ世界が二極に分かれるなか、アジアとアフリカの政治家たちは、より安全でより良い福祉を願う人びとの最深の希求を反映した価値と原則に責任ある言動をしたのです。

 バンドン会議で主張された見通しは、この60年間、世界の秩序に利益をもたらし鼓吹しました。バンドン会議の諸原則は行動の指針であったし、実践的な効果をもたらし、今もまさに息づいています。

 平和的な共存、国家間の相互尊敬、内政不干渉、そして侵略行為と脅威への拒否、これらはわれわれが擁護しつづけなければならない価値なのです、たとえ予測不能と不確かさの新しい環境にあるとしてもです。

 そのなかでわれわれの世界の見方と行動の仕方は再考されなければなりません。

みなさん、

 東チモールとインドネシアの関係は紛争解決のための交渉と対話のたぐいまれなる力強さを示しています。わたしはわれわれの経験が他の諸国と国際紛争にとって価値があると躊躇なく確信し断言します。

 東チモールとインドネシアは多数国参加と両国間のレベルでいま堅固な友情と強い協力関係を甘受しています。

 平和と和解のわれわれのプロセスは、対話のための民主主義の能力と互恵的な解決を考案する可能性を、人権と人間の尊厳に敬意を示しながら並べて示しているのです。

 われわれの関係発展は未来を見据えた見解から生まれました。共に働く能力から生まれました。挑戦に向き合い立ち向かう双方の決意から生まれました。

 平和と和解のわれわれのプロセスは、政府関係に頼るだけでなく人びとの熱心な相互作用にも頼り、新しい信頼関係へとつながっています。

二国間のそして多国間の協力関係は今日、われわれの地域の安全と治安のための貴重な財産となり、われわれの社会と経済の発展に貢献しています。

 発展と繁栄は安定と平和なくしてはできません。経済のダイナミズムと投資は安心できる環境しだいであり、人びとが確かな安全を感じ、家族と投資家とすべての株主から信頼されて実現できるのです。

 東チモールとインドネシアの人びとはわれわれが築いた友好関係の受益者なのです。地域の安全についても同様のことが言えます。より大きな繁栄に達する諸条件は平和の配当金なのです。そのほかに人権尊重があります。

 東チモールは高度な参加をともなう民主国です。有権者と共同体は、一般に、一連の選挙にて平和と安定の選択を再確認しました。

市民参加は、自分たちに直接影響を及ぼす挑戦の対応を含め、包括的な発展と地方発展の継続性のための基本的な先行条件です。市民参加は、良き統治を促進させるための素因です。

東チモールは発展優先とより大きな福祉に焦点をあてています。われわれはASEAN諸国が共に築き上げた平和と安定の雰囲気のおかげで不釣合いなほどの経済成長を続ける地域に属しています。われわれは時来たれば正式なASEAN加盟国になることを切に望んでいるのです

みなさん、

 われわれの最近の歴史を語るとき、わたしはなぜ東チモールがこの会議で提示された「アジア・アフリカ戦略パートナーシップ再活性化宣言」の主辞を完全に支持するのか、その二~三の理由に触れました。ここではわれわれの支持する理由をさらに強調したいと思います。

 まず「成長の質」宣言です。福祉を確かにする成長はたんにGDPだけの話ではなく経済と社会を内包する環境保全に価値を与えなくてはなりません。

 次に「食の安全」です。最後にただし大切なこととして海洋資源にかんする経済発展の維持があります。われわれの関心は食の安全に注がれます。

 2012年、モザンビークを議長国とするCPLP(ポルトガル語諸国共同体)は、東チモールはCPLPの加盟国ですが、「栄養と食の安全」を議題とするサミットを開き、引き続いて東チモールが議長国となりCPLPは「栄養と食の安全」を、多国参加の協力のもと少なくとも今後10年間、議題とすることに合意しました。

 CPLP加盟国の三分の二がアフリカ諸国であることを想起していただきたい。

 海洋経済の発展の最優先事項にかんしていうならば、航海の自由と安全が国際的な通商と安定の支柱になります。

海洋資源の維持には世界経済と食の安全そのものにとって無比なる重要性があります。海洋経済は福利の基礎であり取り替えのきかない支柱なのです。

東チモールはインドネシアがIORA(*)の議長国を継ぐことをうれしく思っております。

 みなさん、

最後になりますが、わたしは西サハラとパレスチナの人びとに特別の暖かい挨拶を送ります。この人たちは、長年の間、国連決議に違反し人間の価値と尊厳を踏みにじる紛争の犠牲者です。

バンドン会議の精神を尊重し国連の原則にそった西サハラの人びとの平和的解決のために交渉に向けた新しい歩みが誠意と誠実をもってなされるように強く望みます。

 そしてまたわたしはパレスチナの人びとにたいする東チモール人の連帯の意思を表明します。東チモールは、パレスチナに敬意を示すこの会議での宣言を支持・称賛し、パレスチナ国家の外交承認を求める嘆願を支持し、そして、パレスチナの民族自決権と自由の即刻の実現を見据えてパレスチナの人びとを支持するものです。

みなさん、

 われわれの国同士が協力関係を強化していくべきであるというわたしの発言を再度させていただきわたしの結論とします。

 バンドン会議の極印である相互尊敬・友情・連帯の価値を持ちこたえつつ、すべての人びとのために平和と繁栄を強化しながら発展の機会がより平等な世界秩序に向けて、南北協力と同様に南南協力を強めていくように鼓吹しつづけていかなくてはならないのです。

ご静聴ありがとうございました。(了)
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(*)環インド洋連合。旧環インド洋地域協力連合。貿易と投資の活性化を目的とする国際組織。

~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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