青山森人の東チモールだより 第302号(2015年5月31日)

変化を求めない保守的な現政権

珍しくなくなった曇りときどき雨

 5月26日、朝は快晴でしたが、気がつくといつの間にか空は雲におおわれていました。山岳部ではさぞかし雨が降っていることだろう、こちらもすぐに雨だなと思わせる首都の空模様でした。翌27日は朝からいつ雨が降ってもおかしくないと思わせる曇りの天気でした。昼12時半ごろ、とうとう空は我慢しきれないとばかりに雨がザーッと降り出し、わたしを含め道行く人は雨宿りを余儀なくされました。

 本来ならば雨宿りを強いる雨は30~40分くらい続いてそのあとは後くされなく晴れる。これが南国・東チモールならではの情緒でした。世界的な異常気象が話題になってから久しい今日、もうそれは昔のことです。いまはどうなるかというと、10分くらいで雨はあがり、雨宿りからすぐ解放されます。そして天気はぐずついたまま、しばらくするとまた雨が降り、道行く人は雨宿り、雨はすぐあがり、また雨が降り……と、梅雨のような曇りときどき雨の状態が続くのです。自分が雨で濡れているのか汗で濡れているのか歩いていて途中からわからないスッキリしない感覚に陥ります。

 定着してしまった異常気象が農業に影響しないわけがなく、何処の地方の何処の村の田んぼが放置されているという新聞記事をたまに目することがあります。この責任はお天道様にあるのか政治にあるのかはわかりませんが、たぶん、第一次産業を重視しない政治の責任は免れないでしょう。

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4月に火事になった中国人の店の焼け跡が解体されている。この火事で中国人一名が亡くなったとききます。解体工事のこのとき、幸い雨模様だったのであたり一帯黒い粉塵が舞い上がることはなかった。粉塵といえば、道路工事も土埃を起こす。最近、子どもたちの健康を心配して埃をたてないように工事をしてほしいという声が新聞に載っていた。中国人の影響からだろう、さまざまな型をしたマスクをつける東チモール人が増えてきた。開発と健康被害の問題が東チモールでも頭をもたげてきたか。2015年5月27日、首都のオーディアン地区にて。ⒸAoyama Morito

マウク=モルク氏の逮捕もぐずつく

 「ぐずつく」といえば、天気だけでなくマウク=モルク氏の問題解決もなんだかんだとぐずぐずしています。5月21日、警察と軍の合同部隊の責任者である国防軍のレレ=アナン=チムール司令官はマウク=モルクからその兄・コルネリオ=ガマ(通称L-7)を介して手紙を受け取りました。それには、合同部隊を撤退させるか、または自分を裁判にかけないという条件が満たされれば、投降してもいいという内容であると報道されています。まぁ、なんというド厚かましい条件でしょうか。レレ司令官は、投降するなら合同部隊の撤退を条件として呑むことにはやぶさかではないが、犯罪者にたいして裁判をおこなわないことは国家の将来に禍根を残すことになるのでその条件は呑めないと5月26日、記者たちに語りました(『インデペンデンテ』紙、2015年5月27日)。なお、裁判で判決が出るまでモルク氏はあくまでも容疑者であることをレレ司令官は認識し注意して発言しなければなりません。

 L-7はレレ司令官に弟の手紙に返事を書いてほしい、しゃべるだけでは正しく意思が伝えられず互いの信頼感がえられないと注文をつけます。しかしこれまでの経緯を鑑みれば、レレ司令官の発言で十分です。手紙での返事を要求するのは別な狙いがあるような気がします。なお、マウク=モルク氏のその手紙はタウル=マタン=ルアク大統領と控訴裁判所長にも送られました。東チモール人には以上の3名、ルイ=デ=アラウジョ首相が含まれていません。そしてその他、各国の大使館や人権団体の国際機関へ12通送ったとL-7は述べています。『チモール ポスト』紙(2015年5月26日)は、ポルトガル語で書かれたその手紙には国会解散も要求されていて、タウル大統領は手紙の署名はマウク=モルク氏本人の筆跡ではないと述べていると伝えています。

 話を複雑にしてなんとか生き残りを図ろうとジタバタと模索しているマウク=モルク氏の姿が想像されます。

 一方、国際人権団体・アムネスティ インターナショナルはマウク=モルク氏の捜索作戦において合同部隊はモルク氏と関係しているとおぼしき者を気ままに捕まえては殴る蹴るの暴行・拷問をして釈放していると報告しています。これにたいしルイ=デ=アラウジョ首相は事実に基づいていないと反発しますが、バウカウ教区のバジリオ=ド=ナシメント司教は合同部隊の人権侵害は事実であると述べ、新聞はレレ司令官自身が合同部隊の横暴についてすでにタウル大統領に直接報告していると首相の安易な国家機関の擁護を批判しています。

 合同部隊をめぐってはこんなやりとりもあります。合同部隊へ200万ドルもつぎ込んでマウク=モルク氏を未だに捕まえられないとは金の無駄遣いだと批判する国会議員にたいし、レレ司令官は怒ったか、無駄遣いなのは国会議員の終身年金だと応じたのです。上層部がこのように口論する状況は要注意です。市民団体からはマウク=モルク氏を捕まえないのは何らかの陰謀があるからだという指摘も登場してきました。その指摘にたいして、『チモール ポスト』(2015年5月29日)は「一言コメント」のようなコーナーで、「みんながそう思っている」とコメントしています。もしこうした世論が広まればモルク氏は自分の策が功を奏したと喜ぶことでしょう。

 『インデペンデンテ』(2015年5月29日)は、マウク=モルク氏は山には潜んでおらず家族の民家に隠れているので、合同部隊が家宅捜査できる許可を出るのを待っていると報じています。もし合同部隊が民家のなかに土足で入り込み住民に暴行するならば、それこまさらにマウク=モルク氏の望むところ、人権団体は黙っておらず、ルイ=デ=アラウジョ首相がへたに人権団体に反発すればさらに逆批判にさらされ、また国会議員とレレ司令官の口論も熱を帯びるかもしれません。

 2008年2月11日に大統領と首相の同日襲撃事件をうけて発足した最初の合同部隊による、住民と対話を重ねて反乱部隊を包囲して追い詰めるという高度なゲリラ戦法を思い起こして、平和裡な解決を一刻も早く実現してほしいものです。

100日を越えたルイ=デ=アラウジョ政権

 ルイ=デ=アラウジョ首相のアムネスティ インターナショナル報告にたいする反発の仕方をみて、わたしはシャナナ=グズマン前首相を懐かしく思いました。もしシャナナ首相だったら、反発するならもっと派手な演出をしてやるだろうなと。たとえば、「もし合同部隊が人権侵害をしているのならわたしは辞任する」、シャナナならば少なくともこれくらいのことはいうはずです。あるいは「合同部隊の人権侵害を指摘する国際社会は自分たちが桁外れの人権侵害を犯していることを忘れている」とテロとの戦いに明け暮れる国際情勢にかんする大演説をぶつことでしょう。あるいは、何もいわないはずです。シャナナ前首相の、善し悪しは別として、演出を思い起こすと、現首相の小ぶりが印象づけられます。

 ルイ=デ=アラウジョ首相は、現政権は前政権を引き継ぐもので、修正はあっても変化はない旨を再三述べています。本年度の予算も結局そのまま引き継いだことにたいし市民団体からは失望の声があがりました。

 2015年5月28日、ルイ=デ=アラウジョ首相は政権発足してから100日目を迎えたとして記者会見をおこないました。ここでは具体的に取り上げませんが、現状を維持して計画を進めるという路線変更を望まない保守的な発言でした。

 結局のところルイ=デ=アラウジョ首相は、権力は前首相であるシャナナ計画戦略投資大臣が握ったまま、かつフレテリンの党員として党の最高実力者マリ=アルカテリ書記長に頭が上がらない状態の、中間管理職的な首相であるとわたしはみています。

 「現政権は前政権を引き継ぐ」とたとえ心で思っていても、口だけでも「是々非々でいく」というぐらいの演出をする度量をもってもよさそうですが、どうやらルイ=デ=アラウジョ首相はそういうタイプの政治家ではないとみえます。だからこそ選ばれたのでしょう。首相に焦点をあてて現政権をみると誰が主役かはっきりしない映画をみているようで面白くありません。視線を正しい方向にむけてこの政権を観ていかなければなりません。

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『チモール ポスト』(2015年5月25日)。「政府、変化なし」。これはマリオ=カラスカラオン元副首相の現政権への批評記事の見出し。この他の新聞記事でも一般に、変化はない・変化は微小という見出しが目立つ。

~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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