合同部隊による過失致死か、住民一名が死亡
結果をだせない捜索作戦
パウリノ=ガマこと通称マウク=モルク氏とかれが率いる非合法組織「マウベレ革命評議会」が、1月、バウカウ地方ラガのサエラリ村で警官を襲ってピストルを奪い、3月、同地方のバギアで国会議長の警備官と地元警察署そして村長宅などを襲撃し警官4名に重軽傷を負わせました。これにたいし国家権力は警察と軍で構成される合同部隊を展開させ、マウク=モルク氏たちを捕まえよう捜索作戦を展開しています。
5月末、マウク=モウク氏らはもはや山に潜んではおらず民家に隠れているとして政府は合同部隊に家宅捜査の権限を与えました。しかしながら合同部隊の権限拡大は、国際人権団体・アムネスティインターナショナルがマウク=モルク氏らの捜索作戦において合同部隊は捜査対象関係者とおぼしき者を捕まえて殴る蹴るの暴行・拷問をしていると報告し、バウカウ教区のバジリオ=ド=ナシメント司教も合同部隊による人権侵害は事実であると主張する状況において、結果への期待よりも、人権侵害のさらなる悪化を懸念させます。
6月28日、またしてもバウカウ地方のバギアで、合同部隊と「マウベレ革命評議会」が交戦した模様で、合同部隊の兵士一名が撃たれ負傷したことが報道されました。一度や二度ならず、三度も国家機関に銃口を向け発砲するとは、しかもバギアはタウル=マタン=ルアク大統領の出身地、これまでどちらかというと温厚な態度で解放軍の司令官の先輩にあたるマウク=モルク氏に投降を呼びかけてきた大統領ですが、7月1日、大統領はモルク氏らの逮捕に「生死を問わず」という条件をつけたのです。
合同部隊の捜査作戦はモルク氏たちを投降に追い詰める作戦なのか捕まえるために交戦してよい作戦なのか、大統領の合同部隊にたいする指示が曖昧だから負傷者を出したのだという指摘もでましたが、生死を問わず逮捕せよとの命令をうけて、合同部隊の広報責任者のフィロメノ=パイシャン准将はもう曖昧さはなくなったと語りました。
一方で、6月28日の交戦で「マウベレ革命評議会」側から二人の若者が死亡した、なぜ合同部隊の負傷者だけを報じるのかと、マウク=モルク氏の兄・コルネリオ=ガマ氏、通称L-7は主張します。パイシャン准将はL-7の主張には根拠がないと二人が死亡したことを否定しました。
あるいはまた、7月1日、「マウベレ革命評議会」側の負傷者を治療するために薬を運んだと合同部隊が疑いをかけたバウカウ地方の医療関係者に顔がはれるほど暴行を加えた事件が起こり、東チモールの医師協会は合同部隊に猛抗議したことが報道されました。
こうしてみると、同じ「合同部隊」でも、いまの合同部隊は、2008年、当時のシャナナ=グズマン首相とジョゼ=ラモス=オルタ大統領を同日襲撃したアルフレド少佐率いる反乱兵士らを討伐するために結成され、住民との対話を主体とする洗練された高度なゲリラ戦術を用いて極めて非暴力的であった合同部隊と比べると、随分と質が劣っているといわざるをえません。
死者をだした捜索作戦
ゲリラ部隊は住民から反感を買っては敵と戦うこともましてや食いつなぐこともできません。インドネシア軍事占領下、東チモールのゲリラ兵士たちは住民との対話を重ね住民の協力を得て独立戦争を戦い抜きました。東チモールのそのゲリラ精神が2008年の合同部隊に発揮されましたが、あれから7年たった今回の合同部隊には発揮されていないようです。合同部隊が住民から非難されるような行動をとるならば、住民感情として合同部隊に協力するわけがありません。今回の合同部隊の荒っぽい作戦行動を見直すこともなく、大統領が生死を問わず逮捕せよと合同部隊に命を発したとしたら問題です。
かくして7月3日明け方4時ごろ、合同部隊の行動によって住民男性一名が亡くなりました。これはパイシャン准将も認めました。L-7は、政府には弟の問題を解決する能力はないと嘆きます。どのような経緯でこの人が死んだのか、合同部隊による誤射なのか、過失なのか、かれはマウク=モルク側の人間なのか、なんの関係もない民間人なのか、報道をみるかぎりまだよく判りませんが、捜査のため司法解剖がされたとも報じられています。
もし無関係の民間人が合同部隊の過ちで亡くなったとしたら、生死を問わず逮捕せよと命じたタウル大統領は難しい立場に追い込まれることでしょう。もし合同部隊による過失で無実の住民が亡くなったとしたら、軍の最高指揮権を有する大統領は、合同部隊の根本的な見直しをしたうえで、マウク=モルク氏らの捜索作戦を再開しなければますます問題はこじれ、治安の不安定化を望む者たちの思う壺になることでしょう。
2017年、選挙の年
合同部隊の失態は来る2017年の選挙に少なからず影響がでるかもしれません。次の選挙のことを語るのは少々まだ早すぎるかもしれませんが、ぽつりぽつりと話題が出ています。例えば、アルフレド少佐が率いた反乱兵士に関与したと起訴されたが無罪の判決をえたアンジェリタ=ピレスさんが前回に引き続いて次期大統領選に出馬する意向を示したという記事が『チモールポスト』紙(2015年5月22日)に載りました。また同日の同新聞には、タウル=マタン=ルアク大統領は届けていないのでまだ正式ではないが新しい政党をすでに立ち上げ、シャナナ=グズマンとの組み合わせで2017年の選挙をたたかい、シャナナがまた大統領になり、タウル氏が首相になろうとしているというマヌエル=ティルマン氏(元国会議員、いまは弁護士として活動)の意見が載りました。なお、この意見を裏付ける事実は何ら示されていないので、タウル大統領がすでに政党を立ち上げたというのはまったく信頼性はありません。
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『チモールポスト』(2015年5月22日)より。「政党を創設した疑い、ティルマン氏語る:シャナナとタウルの組み合わせ」。しかしティルマン氏の発言の根拠が示されていない。
タウル大統領はまるで全422村落を訪問する記録をうちたてることに挑戦しているかのように精力的に全国を遊説しています。中央から政府関係者があまり足を運ばない地方の村々を訪れて住民の声に耳を傾けるのが自らの使命と位置づけているのだとわたしは素朴に思っていますが、次の選挙に向けた宣伝活動であるという意地悪な見方もでてきました。
5月27日、エルメラ地方を遊説中のタウル大統領は、住民との対話集会で2017年の選挙で首相になってほしいという要望が出たことについて自分への支持に感謝しつつ、首相になるため政党を立ち上げることを考えたことがないと語ったと『インデペンデンテ』紙(2015年5月28日)は伝えました。また『チモールポスト』(2015年6月1日)では、タウル大統領は2017年の大統領選に再出馬するつもりはない、別な立場で国に貢献しつづけたいという趣旨のことを述べたことが伝えられました。この「別な立場」とはどういう立場なのか、大統領が言及していません。“含み”をもたせているところが気になります。
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『インデペンデンテ』(2015年5月28日)より。「住民、タウル大統領に2017年に首相候補になることを要請」。エルメラ地方だけでなく、ビケケ地方でもそのような話があったと伝える。
わたしはフレテリンの中央委員会のある人物に、タウル大統領は首相になるために政党を立ち上げるという噂話についてたずねたところ、その人は、そういう噂はたしかに耳にするが、それはタウル大統領しだい、政党を立ち上げたいのならやればいい、しかし政党を立ち上げ維持するのは容易ではない、多くのことを約束して実現できなければ「嘘つき、泥棒」呼ばわりされる、といいました。「嘘つき、泥棒」呼ばわりされるというのはきっとフレテリンの体験したことなのでしょう。
2017年の選挙にむけて政治的な噂話がでるようになってきたということは、政治的策略が練られる土壌がうまれているということであり、マウク=モルク氏の存在に政治的価値が生じてくることを意味します。したがって合同部隊がモルク氏の問題を速やかにかつ平和裏に解決することができず、住民の生命を奪う失態を演じてこの問題をこじらせることは、こうした政治土壌に肥やしを与えることになるのです。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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