青山森人の東チモールだより 第322号(2016年4月4日)

政府・CNRTは大統領による批判に堂々と反論せよ

大統領、帰国は元戦士に迎えられる

 政府を厳しく批判するタウル=マタン=ルアク大統領が訪日の旅に発つとき(3月13日)、空港での政府からの見送りはなかったと報じられましたが、訪日を終えて帰国したときは(3月19日)、ルイ=マリア=デ=アラウジョ首相が大統領を出迎えました。しかしその他の閣僚はいなかったと『ディアリオ』(2016年3月21 日、電子版)が報じています。

東チモール政府と日本政府との間で達した合意に、タウル=マタン=ルアク大統領が象徴的な立場として政府のお遣いをし、調印したのですから、これでなおも政府閣僚が大統領を空港に出迎えに来ないのは、いくら対立状態にあるとはいえ子ども喧嘩ではあるまいし……といいたいところですが、まぁ、首相が来たので大人の対応といえましょう。

 同『ディアリオ』紙によると、元戦士たちが空港に馳せ参じVIPルームで整列して大統領を出迎えていたので大統領が驚いたとのことです。日本に発つ大統領に見送りがなかったことを知り悲しく想い、せめて帰国したときはかつての上官であるゲリラ参謀長を迎えたいと馳せ参じたのです。わざわざ遠くからやって来た者もいたとのことです。元戦士たちは大統領に、大統領は孤立していない、生活の改善のために闘う大統領には民衆がついていると話したと報じられています。

 この記事で記者の取材に応えているのは、解放軍のデビッド=アレックス司令官(故人)の一人息子・アラリコ君です。デビッド=アレックス司令官はいまも東チモールでは最大級の敬愛の対象となっているゲリラの英雄です。「大統領がそのむかし独立闘争のために組織してきた人びとや戦士たちが、大統領を迎えたいと思ってやって来た。弱い人たちや貧しい人たちのための大統領ですから」とアラリコ君は元戦士たちが大統領を空港に迎えに来た理由を述べます。アラリコ君も立派なことをいうようになりました。父親のあまりにも偉大な名声と比較される重圧から逃げていたころのアラリコ君を知る者としてわたしは感無量、うれしく思います。何度もアラリコ君に失望させられてきたタウル=マタン=ルアク大統領ですが、いまや自分を励ましてくれるアラリコ君にさぞ感激していることだろうと想像します。

度量が小さいCNRT

 タウル=マタン=ルアク大統領と政府の緊張状態のきっかけのひとつともなった、大統領による国防軍司令官の任命問題ですが、控訴裁判所が大統領による司令官任命はまだ公報紙に載っていないので正式ではないとして違憲性について諮ることができないという判断をしてからの報道内容から察するに、両者は円満な解決法を探っているように見うけられます。大統領に近い人物からわたしがきいたことによれば、この件にかんして控訴裁判所がもし違憲性を判断するならば、政府寄りの判断をだすのではないかということです。自分が司令官を任命したのは合憲であると主張する大統領と、大統領による任命は政府の推薦に従わなければ違憲だと鼻息が荒かった政府ですが、大統領による任命がまだ正式な状態ではないと控訴裁判所がせっかくいってくれたのだから、両者は国防軍の人事についてふりだしにもどって話し合えばよいことだと思います。

 さて、タウル大統領が日本に滞在している間に東チモールでさかんに報道された、CNRT(東チモール再建国民会議)が民主党に連立解消の三行半をつきつけた件はどうなったかというと、これは連立政権内のたんなる内輪もめとして収まるのか、それとも連立政権の解体となるのか、フレテリン(東チモール独立革命戦線)のルイ=マリア=デ=アラウジョ首相が指導力を発揮することなく両党からの正式な判断を待つと述べつづけているので、いまひとつ状況がはっきりしません。3月31日に民主党はCNRTとの連立解消に合意したという記事もでましたが、その記事をよく読むと民主党はCNRTのシャナナ=グズマン党首との協議を希望しているとも書かれており、最終的にはこの人シャナナが登場して発言しないことには結末が見えてこない雰囲気が残されています。

 ただし、CNRTの党首で解放闘争の最高指導者だったシャナナ=グズマン計画戦略投資相を国会の場で痛烈に批判したタウル大統領への糾弾の意味をこめて、CNRTは大統領寄りの者たちを切り捨てるというあからさまな態度に出ています。民主党に連立解消の意志を告げたあとは、党の方針に従わないビセンテ=グテレス国会議長を国会議長の役職と党からも外し、したがって汚職の件で被告となっているグテレス国会議長の免責特権を解除して、裁判にかかってもらおうではないかというのです。ビセンテ=グテレス国会議長が党の方針に従わないというのは、国会議長が大統領寄りであるという意味であることは間違いないでしょう。大統領が政府を批判した2月25日の国会演説のなかでも、大統領は諸問題を提起するために地方を訪問したときに会ってくれた努力に感謝するとグテレス国会議長をもちあげています。CNRTが大統領寄りの立場はけしからんと思うのはよいとしても、だからといってすぐに意見を異にする者を追放しようとする態度は時代錯誤的な危うさを覚えます。

 ビセンテ=グテレス国会議長は国会議員の公用車の購入事業に不正に関与した(2008~2009年)として検察から告訴されているので被告として裁判にかけられるべき立場ですが(「東チモールだより 第280号」参照)、CNRTは国会議長の免責特権の解除に応じることなく国会議長をいわば守ってきたのです。それを大統領寄りだからとあっさり仲間を見捨てる態度は、もちろん被告は裁判にかけられるべきですがそれはそれとして、CNRTの度量が小さいといいたくなります。さらにCNRTは党の方針に従わない国会議員の党員がいるならその役職を解任すると党内の引き締めにかかったと報道されています。

外交を内政に利用しないでほしい

 以上のCNRTの引き締めは、シャナナ=グズマン党首の指導のもとで行われているのか、それとも党首を慮っての党幹部たちが主導する行動なのか、気になります。もっとも実情はどうあれCNRTの責任はシャナナ党首にあることは論を待ちませんが。

 2月25日の大統領によるシャナナ=グズマン計画戦略投資相とマリ=アルカテリZEESM(オイクシ経済特区)最高責任者への批判にたいして、シャナナ計画戦略投資相の表立ってしたことといえば大統領から授与された勲章を返したぐらいです。これでは解放闘争の最高指導者であった人物としてはちょっと寂しいかぎりです。政府首脳としてデ=アラウジョ首相も大統領による批判にたいして反論なり意見なりを堂々と公表していません。大統領による批判への応酬としてCNRTの三行半つきつけ行動だけが目立ちます。まっとうな批判にたいしてまっとうな反論ができず、意見を異にする者たちの追い出しをせっせとしようとする政府最大与党CNRTは来年の選挙で勝てるでしょうか。

 ところで、2月23日そして3月22日と23日、数千人の東チモール人が首都デリ(ディリ)のオーストラリア大使館前でオーストラリア政府にたいして国際法にのっとって領海画定の話し合いに応じ東チモールの主権を尊重するように訴える平和的なデモ行進がおこなわれました。オーストラリア・インドネシア・マレーシア・フィリピンなどからも連帯意志が示され、3月23日の抗議活動には1万人が集まったと報じられています。現状の曖昧な領域のままではチモール海における天然資源の開発で不利益を被りつづける東チモールとしては、国際法にそった領海画定は当然の要求であるし、東チモール支援者としても連帯の大義があり、この問題は東チモール官民一体となった取り組みがなされています。このことに文句のつけることは何もありません。しかし、先述した東チモール国内の政治状況とあわせ見ると、外交問題を国内政治に利用しようとする東チモール政府の意図が見え隠れします。

 今年の2月9日、シャナナ=グズマン計画戦略投資相は領海画定交渉チームの代表に就きました(「東チモールだより 第318号」参照)。東チモールの領土を解放したシャナナ大臣が今度は領海を解放する役割を担ったわけです。オーストラリアにたいしてそれなりの影響力と存在感を示すことのできる人物としてシャナナ大臣は適任といえます。元戦士からもシャナナ支持が表明されています。2月と3月の大規模なデモを通して、オーストラリアと東チモールの交渉が実現されるように希望する東チモールの人びとの想いが増幅されたことでしょう。するとどうなるか。政府とくにCNRTとしては、交渉を代表する立場であるシャナナ=グズマン計画戦略投資相を名指しで批判するタウル=マタン=ルアク大統領はけしからんという論調を張ることができるのです。

 そもそもシャナナ=グズマン計画戦略投資相が領海交渉団の代表に就いたのは、2月9日、
1月から2月にかけて、シャナナ連立政権の閣僚であったエミリア=ピレス財務大臣(当時)とマダレナ=ハンジャン保健副大臣(当時)が2011年~2012年に国立病院へ医療用ベッドなどの機器や機材を購入する事業で不正行為をしたとされる汚職疑惑裁判でシャナナ大臣を含めて歴代の首相が裁判で証言したあとのこと、汚職疑惑にまみれている連立政権のイメージから世間の目をそらすためにシャナナ大臣が新しい任務を得たような印象は拭えません。

 さらに「そもそも」の話ですが、2014年10月24日、チモール海の領海についてオーストラリアと交渉する東チモール政府の態勢づくりにかんする決議をした東チモール国会は、シャナナ首相(当時)との会合だといわれ議員が集合したところ、司法への監査態勢をつくるという内容が盛り込まれた予定にない決議をし、結局、5名の裁判官(ポルトガル人)、2名の検察官(ポルトガル人とカボベルデ人、それぞれ1名ずつ)、1名の反汚職委員会の顧問(ポルトガル人)を停職処分にするという国会による司法への干渉、つまり憲法違反の疑いが濃厚な決議を採択したのはまだ記憶に新しいところです(「東チモールだより 第283号」参照)。これにより一連の汚職疑惑裁判が大きく影響されてしまいました。CNRTが主導する連立政権はチモール海の領海問題を内政に利用する戦法を用いてきているのです。

 政府とくにCNRTはオーストラリアとの領海問題を解決したいという東チモール民衆の切望を安易な愛国主義に転換させて保身のために利用することは絶対にしないでもらいたいし、オーストラリア政府はこじれているチモール海の領海問題を話し合いで解決する姿勢をまずは示してほしいと切に願います。

~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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