青山森人の東チモールだより 第326号(2016年6月3日)

公的人権機関、オイクシ経済特区の開発弊害を認識

路上の商業活動が萎んできた

久しぶりに首都デリ(ディリ、Dili)をほっつき歩いてみて、なんとなく町の活気が薄れてきたように感じるのは何故かな…と思いながらさらに歩いてみると、路上での人の姿がちょっと少なくなってきたからかなと思う。人が集まる場所やその周辺の路上では物を売る人も集まって活気があったものですが、路上で物を売ろうとする人の数が減ったので、商業活動の光景に迫力がなくなってきたようです。建築資材を売る中規模商店が首都の中心から離れたベコラでも立ち並ぶようになってきたのは経済的な発展を示すものかもしれませんが、その反面、一般庶民による商業活動が萎んできたかのように感じるのは皮肉な話です。

学校へ行かず果物などを売る子どもたちの姿が減るのはいいのかもしれませんが、路上で物売りをして生計を立てる大人たちの姿が減るのは、冷たい政府の規制のせいです。とくに絶好の売り場となる海岸沿いに屋台の姿がめっきり減ってしまったのは金持ち商人を優先させる寂しい結果で、観光面では失策だと思います。外観上“きれいにする”ことがよいことだと政府の役人は勘違いしているようです。

南緯ひと桁台に位置する東チモールでは、一年間をとおして午後6時から7時のあいだが夕闇せまりそして夜となる時間帯となりますが、陽ざしがなくなってくるこの時間帯に庶民は家の前で焼き鳥を焼きはじめ、近所の人たちや道行く人たちを相手に商売をします。焼き鳥の煙と匂いが庶民の活力を感じさせます。観光客がいない町内でたくさんの家の前で調理される焼き鳥はちょっと飽和状態ではないかと心配したりしますが、案外ほどよくさばかれているようです。

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政府庁舎近くの海岸広場では週末の金曜日になると政府のお墨付きをえた人たちのテント店が並ぶ。地産の食べ物や民芸品が売られている。官製の市場であるせいか、いまひとつ庶民の活気というものが感じられない。
2016年5月27日、政府庁舎近くの広場にて。ⒸAoyama Morito

2022年に石油は枯れないというが…

先月の5月24日、国営の「チモールギャップ社」による定例の年次報告書が閣議に提出され承認されました。この閣議で同社のフランシスコ=モンテイロ社長は「バユ ウンダン」油田は2022年に枯れないという調査結果を報告したと各新聞・ラジオなどが報道しました。「2022年」という年数は、2021年までに同油田の石油は枯渇するという民間団体の見方を意識したものだと思われます(「東チモールだより 第305号」参照)。

例えば『インデペンデンテ』紙(2016年5月25日)による「チモールギャップ社、『バユ ウンダン』は2022年に枯れないと保証」と見出しがついた記事を読んでみると、モンテイロ社長は「われわれは、『バユ ウンダン』は2022年に必ずしも枯れるとは限らないと信じる、なぜならさらに長期にわたって『バユ ウンダン』は開発・採掘される可能性があるからだ」と発言しています。

さっそくインターネットで「チモールギャップ社」の2015年度の年次報告を見てみます(Timor Gap E.P. , annual reportで検索)。「バユ ウンダン全域再評価」という項目を読んでも、技術的な研究がされ政府に報告所が提出、さらなる分析をしていく、ダイナミックなモデリングを2016年度第一四半期に完了させ、利益を最大にしていくために企業や株主などと議論をしていくなどと、どうでもいい企業宣伝のようなことが書かれているだけで、「バユ ウンダン」油田の埋蔵量ついての調査結果には触れられていません。

「必ずしも枯れるとは限らない」とは「枯れるかもしれない」という意味も含まれています。「必ずしも枯れるとは限らない」という言い方が本当にされていたとすれば、モンテイロ社長は国の命運がかかわる重大事項にたいしてこのような曖昧で逃げの姿勢を保った言い方をするしかないことこそがニュースであるし、それを上記のように報道されるのは大問題です。

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ベコラにある「オリエンタル大学」という大学で、「地質学の日」を記念した行事が開かれた。石油資源を有する国の若者は地質学や石油産業への関心が高い。説明する学生も聞く学生も真剣な表情だ。かつてマリ=アルカテリ元首相が国の財源である「石油基金」について、勘違いしてはいけない、このお金はわれわれが汗水たらして稼いだお金ではないのだと、正しくも謙虚に語ったことがあるように、チモール海の石油資源は国の雇用を創出し地場産業を興しておらず、外国企業から「地代」をもらっているだけである。天然資源が東チモール産業のために利用される日が来るであろうか。
2016年5月30日、ベコラの「オリエンタル大学」にて。ⒸAoyama Morito

公用車の誤用など小さい小さい、東チモールは公用機の誤用だ

「チモールギャップ社」のモンテイロ社長はまたこの閣議で「タシマネ計画」(チモール海のガス田「グレーターサンライズ」からパイプラインが東チモールにひかれることを大前提とした南部沿岸地域の大規模開発)について言及しており、いくつかの事業が力強く進んでいるが、コバリマ地方の「スアイ供給基地」などいくつかの事業が中断していると語っています。「スアイ供給基地」は「タシマネ計画」の中核ですが、それが中断しているとなると「タシマネ計画」そのものの見直しが必要であることを示唆しています。

それなのに「スアイ供給基地」の目玉のひとつであるスアイ空港の建設は、インドネシアの建設会社によって50%の進捗状況に達し、来年4月に完成予定です。開発事業にかかわる関連会社が利益を得るという構図は万国共通の問題でしょうが、タウル=マタン=ルアク大統領が2月25日に国会で指摘したことによれば、シャナナ=グズマン計画戦略投資相の身内の会社に「タシマネ計画」から利益が転がり込む構図となっているのです。

さてもう一つの大規模開発である飛び地・オイクシの経済特区(頭文字をとってZEESMと呼ばれる)はどうなっているのでしょうか。ZEESMの最高責任者・マリ=アルカテリ元首相(フレテリン書記長)は、5月28日(土)スアイで開かれたフレテリン(東チモール独立革命戦線)の党集会に出席し、こう発言しました――デリから飛行機に乗って20分で着いたので体調はいいが、気持ちが滅入った、スアイの開発が進んでいないからだ、新聞・テレビ・ラジオでは開発を批判ばかりしているが、13の地方の人びとは開発を望んでいるのだ、しかし何一つ起こっていない、たぶんわたしが思うに政治的なことが起こるのを恐れているのだ、オイクシが東チモール全体にとって良い例になるのを恐れているのだ、メディアには嘘の言葉があふれ始めてきた――と開発批判にたいする批判を展開したのです(『チモールポスト』2016年5月31日)。

そしてシャナナ=グズマンとの関係についてこう述べました――かつてわれわれは反目しあっていたが、いまやわれわれ二人は問題を後ろに置いてひとつとなり、お互いを信頼しあって、人びとの良い生活を望んで働いている。政治的な者たちは人びとを政治的に利用するが、わたしとシャナナは人びとに奉仕するために政治をするのだ――と語っています(同新聞より)。おやおや、2006年の「東チモール危機」のときは、シャナナこそが「危機」の首謀者だと非難していたシャナナとの関係はかなり修復されたと想像はしていましたが、これほどまでに仲良くなっていたとは知りませんでした。そしてシャナナと同様に、大統領の国会での演説によれば、ZEESMの開発事業からマリ=アルカテリ元首相の身内による関連会社が利益を被っているという構図があるのです。

謙虚さに欠ける権力者たち

マリ=アルカテリ元首相とZEESMにかんしてこの週は話題が二つのぼりました。まず一つ目。マリ=アルカテリ元首相は政府の飛行機を利用してスアイで開かれた党集会に参加したのです。政府事業ZEESMのために購入した飛行機とはいえ公務以外の用事で公用の飛行機を使用したことで批判の声が当然でました。東京都知事による公用車の疑わしき誤用とはスケールが違うのです。東チモールは飛行機です。東チモールの勝ち!マリ=アルカテリ元首相は批判にたいし、飛行機には警察など他の公人が乗っていたので問題はないのだと反論しました。もちろん日本のように庶民の関心が高まり、マスコミによる集中砲火によってアルカテリ元首相の立場が危うくなることはありません。これは日本の勝ち!

最近、新しく立ち上がった政党や既成政党など政党の集会が来年の総選挙に備えて各地で集会が開かれています。集会場への移動手段として個人が公用車(警察の車も含め)を使用しているという問題がよく指摘されています。それでなくても普段でも公用車が家族のためのレジャーや買い物のために使用されることが半ば習慣化されているこの国では、公用車の維持管理費は馬鹿にならない国費の無駄遣いとなっているはずです。

さて二つ目はより深刻です。5月31日付けの各新聞やラジオニュースによれば、国の独立人権擁護機関であるPHDJ(人権正義供給機関[人権正義プロバイダー])は5月30日、オイクシ住民93名(女38名と男55名)に調査インタビューした結果、ZEESMによって地元住民が経済・社会・文化面で苦しんでいるという認識に達したと発表したのです。PHDJによると、開発にともなう道路拡張のために立ち退きをした住民は、新しい家を建てるために配給してもらう資材に砂が混ざったりするなど劣悪な質であるためまともな家が建てられないし、政府機関が資材を持ってくるのではなく、住民は自分でもらいに行かねばならず、なかにはまだ日差しを避ける場所さえも得られていない人もいるというのです。PHDJは、ZEESMの開発被害になっている住民が多数でていることを鑑みて、国会へZEESMの調査をおこなうことを求めるとのことです。

公的な人権機関によるこの指摘にたいし、マリ=アルカテリZEESM最高責任者はスアイでの党大会での発言から予想されるとおりの反応を示しました。つまりPHDJの発表は政治的である、新しい開発事業の何たるかを心得ていない、と。さらに報告はまず当局に提出すべきものなのにその手続きを踏んでいない、PHDJを裁判所に訴えてやるといいだす始末。謙虚さがまったく欠けている態度です。アルカテリ元首相は、自分にはシャナナがついているので安泰だと安心しているのかもしれません。かつて首相だったとき他人の意見に耳をかす謙虚さのない態度とその挑発的な発言の仕方からもっとも嫌われる政治家となり、結局、2006年の「危機」を呼び込んでしまったという反省がどこかへいってしまったようです(もっとも、反省をしたかどうかも定かではないが)。

またフレテリンは少し前から、マルティーニョ=グズマン神父という以前からフレテリンにたいし辛辣な批判をしている神父がいるのですが、この神父によるメディアへの公開書簡の内容が党を侮辱しているとして裁判に訴えてやると息巻いているのです。気に入らない意見にたいし堂々と反論することなく、力で押しつぶそうとするのは驕りの証です。あるいはまた最大与党CNRT(東チモール再建国民会議)は大統領寄りだとして民主党を連立から追い出し、同じ理由でビセンテ=グテレス氏を国会議長からはずし新しい国会議長をすえ、さらにルイ=マリア=デ=アラウジョ首相にいたっては、誤報にたいして『チモールポスト』紙の記者と前の編集長を裁判にかけています。批判にたいし免疫力を失ったか、それともはなっから持ち合わせていなかったのか、権力者たちの排他的で不寛容な態度が顕著に露見しています。国会議員の5年という任期は長すぎるかもしれません。せめて4年がいいのではないかとわたしはしょっちゅう思います。

~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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