前大臣と元副大臣に10年の求刑
海上自衛隊護衛艦が東チモールに初寄港
日本の自衛隊の艦船が初めて東チモールに寄港しました。『チモールポスト』(2016年9月28日、電子版)によれば、海上自衛隊護衛艦「ふゆづき」は、9月12日~24日、オーストラリアのダーウィンで行われた海上軍事演習「カカドゥ」に参加したのちに、9月26日~28日に首都デリ(Dili、ディリ)の港に寄りました。今年6月、中谷防衛大臣が東チモールを訪問したさい(「東チモールだより 第327号」参照)、両国間の防衛分野の活動としてこの件が合意されたとのことです
このままでは南スーダンの国連PKOに参加する自衛隊に「駆け付け警護」「宿営地の共同防衛」の新任務が加えられ、自衛隊が外国で戦闘に巻き込まれ、さらに戦闘に参加するのはもはや時間の問題であると懸念する者としては、自衛隊の船が初めて東チモールに寄港したという事実は、平和憲法をないがしろにして拡大されていく自衛隊の活動範囲の反映であると思ってしまいます。
親交を深める東チモールと日本
つづいて9月30日、21億9700万円を供与限度額とする無償資金協力「ディリ港フェリーターミナル緊急移設計画」に関する書簡が交され、この10月にはシャナナ=グズマン計画戦略投資相が来日し、7日、安倍首相を表敬訪問しました。外務省のホームページによれば、「ディリ港フェリーターミナルの改修等,3月に約束した50億円の支援を達成したことは喜ばしい,海上自衛隊護衛艦『ふゆづき』の東ティモール寄港は両国の防衛交流の進展の象徴であり,護衛艦の寄港等,様々な分野での交流を進めたい,また,東ティモールのASEAN加盟を支持しており,人材育成等を通じて東ティモールの努力を後押しする旨」を安倍首相が述べたのにたいし、シャナナ=グズマン大臣が「国際協力機構(JICA)は両国間の架け橋として重要な活動としている,また,東ティモールにおける日本企業の投資を期待する旨」を述べ、そして「両者は,南シナ海を含め,海における法の支配,紛争の平和的解決の重要性につき,一致しました」とのことです。
外務省のホームページが指摘するように、たしかにフェリーターミナルとコンテナヤードは近接しています。旅客乗降と貨物関連作業の「安全性・効率性」に問題があるといえるかもしれません。しかしフェリーターミナルと港の問題は、フェリーターミナルを移設すれば解決できる問題ではありません。根本的な「問題」は管理運営の態勢です。つまり、船の運行を管理する職員たち、船を待つ人びとに気を配る職員たち、港を管理する職員や税関職員たち、こうした職員たちの仕事にたいするプロ意識、能力向上・人材育成こそが最優先課題なのです。
実情に見合わない箱モノ建設の推進は、東チモールの現政権の特徴をよく表しているし、「援助する側」の繰り返される古典的過ち(意図的な“援助戦略”というべきか)も実によく表しています。やるべきことをやらないで箱モノを建ててもそれは根っこの生えていない大木と同じですぐ倒れ、事業に費やした大金は無駄となり、事業工事の関係者とその周辺の者たちの懐を温めるだけです。これがいま東チモールで生じている現象です。安易な公共事業は国民の生活向上に寄与しないどころか貧富の拡大を促進させ、人材育成を阻害し、汚職を招き、社会問題を悪化させてしまいます。これは一般論でもあるし、シャナナ=グズマン計画戦略投資相が首相時代から率いてきた連立政権による具体的な結果でもあるのです。
一筋縄ではいかない元閣僚の裁判
国立病院へのベッド購入事業をめぐる汚職疑惑の裁判で、先月9月20日、検察側は二人の被告・エミリア=ピレス前財務大臣とマダレナ=ハンジャン元保健副大臣に10年の禁固刑を求めました。
上述の二人が2014年7月に検察から汚職容疑で起訴されたあと、ピレス財務大臣(当時)の免責特権が国会で解除され審議が開始されるだろう思われましたが、この裁判はなかなか始まりませんでした。同年10月、シャナナ=グズマン首相(当時)が国会議員に閣僚の免責特権を解除しないように手紙を書き、さらに、この「東チモールだより」で再三再四お伝えしているとおり、国会は5名の裁判官(ポルトガル人)、2名の検察官(ポルトガル人とカボベルデ人、それぞれ1名ずつ)、1名の反汚職委員会の顧問(ポルトガル人)を停職処分にし、11月、政府はその8名の外国人を国外退去させるという憲法違反の疑いが濃厚な手段に訴え、司法が大揺れに揺れたからです。
去年2015年2月、シャナナ首相は首相の座を含め重要閣僚の座をフレテリンに分け与え、自らは計画戦略投資相となって、フレテリンと事実上の大連立政権を組んだ現在の第6次立憲政府が発足しました。この政権ではエミリア=ピレス氏は入閣せず免責特権は自然消滅、裁判の障害はなくなり、去年10月からようやく裁判が始まったのでした(「東チモールだより 第312号」参照)。
今年2016年1月から2月にかけて歴代の首相が証言席に座わり(「東チモールだより 第318号」参照)、7月、証言を聴く審議は終了、9月20日、2人の被告に、法律で禁じられている経済活動に参加し、国家に約81万ドルの損害を与えたとして、10年の禁固刑という非常に重い刑が検察側から求められたのです。
予定どおり帰国しない被告
次なる審議は9月22日という日程だったのが、どうしたことでしょう、エミリア=ピレス被告は9月21日から海外渡航してよしという許可をデリ地方裁判所からもらいました。各報道をまとめると、渡航の理由はシンガポールで医療を受けることと、ニューヨークで開かれるg7+(紛争経験を共有し紛争を回避するための国際組織)会議の出席です。エミリア=ピレス被告は閣僚ではありませんが、g7+特使の任務を担い続け、被告になっても国を代表して海外出張を繰り返している身分なのです。
ピレス被告の帰国を待ちながら、次なる審議として10月21日に被告の意見陳述が行われる予定でしたが、裁判官の一人が妊娠しているという理由で(たぶん出産のため)、24日に延期されました。しかし、遅くとも10月20日にパスポートをデリ地方裁判所に預けなければならないピレス被告は24日になってもまだ帰国していません。同裁判所は25日から5日間だけ期限を延長し、その間にパスポートを提出しなければ逮捕状を発行すると24日に発表しました。ピレス被告の弁護士は、ピレス被告は10月28日に帰国する予定であり、31日前までにパスポートを提出することができると述べています(『インデペンデンテ』紙、2016年10月25日)。
エミリア=ピレス前財務大臣をひたすら庇護してきたシャナナ=グズマン計画戦略投資相ですが、10年の求刑がされたことにたいして今のところ公の発言はしていないようです。イボ=バレンテ法務相は、政府は裁判に干渉しないしコメントもしないと声明を出しています(『東チモールの声』紙、2016年10月25日)。シャナナ大臣も司法に口出しせず大人しく裁判の行方を見守ってほしいものです。シャナナ大臣が口出しすべきは自らが指名したルイ=マリア=デ=アラウジョ首相でしょう。首相に『チモールポスト』紙のジャーナリスト2人への起訴を取り下げるよう説得すべきです。
政治資金をめぐる不正行為があったか?
シャナナ=グズマン党首の率いる与党第一党CNRT(東チモール再建国民会議)の党員である観光・芸術・文化省の現職の大臣フランシスコ=カルブアディ氏と社会連帯省の前の副大臣ジャシント=リゴベルト氏が2012年にCNRTの資金集めのなかで不正に資金を受け取った疑いがあり、起訴されました。10月11日、検事副総長が記者団に語りました。
閣僚や政府要人の汚職疑惑はもはや珍しくもなんともありませんが、政党の資金集めで不正な資金を受けた行為が裁判沙汰になるというのは珍しいと思います。この件は被告二人だけの問題ではなく政党CNRTによる政治資金の集め方が合法か非合法かの問題に発展するかもしれず、そうなればシャナナ党首の責任も問われることでしょう。
また、「反汚職委員会」は10月18日、公共事業・交通・通信省のジャヌアリオ=ダ=コスタ=ペレイラ副大臣を事情聴取しました。公金で私用の自動車を購入したことと、電気事業にかんする不正行為があったと噂されていると報じられていますが、本人は否定しています。「反汚職委員会」はノーコメントです。
多発している汚職疑惑によって、シャナナ連立政権が汚職にまみれている印象をどうしても抱いてしまいます。また、国会が裁判所から要請されているにもかかわらずなかなか閣僚の免責特権を解こうとしないところをみると、国会と司法の対立も感じられます。
国の仕組み、とくに司法制度がまだまだ大地に根が生えているとはいいがたい東チモール民主共和国であるようです。
~次号へ続く~
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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