前財務大臣に7年、元保健副大臣に4年の禁錮刑
前閣僚にまたしても有罪判決
国立病院へのベッド購入事業をめぐって閣僚が禁じられている商業行為をしたとして起訴されたエミリア=ピレス前財務大臣とマダレナ=ハンジャン元保健副大臣に、12月20日、デリ(Dili、ディリ)地方裁判所は判決を下しました。ピレス前財務大臣にたいして7年、ハンジャン元保健副大臣にたいしては4年のそれぞれ禁錮刑です。
検察側は二人の女性被告にたいして10年の禁錮刑を求めたのにたいし、裁判所は2人が商業活動をしたことは認めましたが、国家に81万1040ドルの損害を与えたことにかんしては証拠不足として認めませんでした。
ピレス前財務大臣は、裁判所命令に従わず帰国しないでポルトガルに滞在して裁判から逃れているために逮捕状が発行されています。一方、ハンジャン元保健副大臣は、“素直に”裁判をうけています。
東チモールの裁判制度では判決後15日以内に控訴することができます。マダレナ=ハンジャン元保健相は判決を待つあいだ法廷で涙を浮かべ(『東チモールの声』紙、2016年12月20日)、判決が下された後、直ちに控訴の意向を示しました。ハンジャン元保健相の主張は各紙をまとめるとこうなります ―― 害を与える行政をしたというのなら自分に責任があるが、行政にかんして罪を問われないというなら、わたしには責任はないことになる。ベッド事業にかんして経済活動はしていない。国民のためにベッド購入の事業をしただけだ。契約した会社はエミリア=ピレス財務大臣(当時)の夫の会社であり自分には何の見返りもない。この事業はすべてシャナナ=グズマン首相(当時)の承認のもとで進められたことであり、自分は指示に従っただけである。責任があるとしたら首相である ――。
マダレナ=ハンジャン元保健相がシャナナ前首相の責任を口にしたのは、自分のかつての“同僚”エミリア=ピレス前財務大臣がポルトガルへ逃がれてもまだ思いやりの言葉を現政権からもらうことについて嫉妬心を抱いたからではく、自分の認識を正直に口にしただけと思われます。ハンジャン元保健相の発言は、解放闘争の最高指導者であったシャナナ=グズマンの存在感・影響力が薄れてきていることを感じさせます。
シャナナのカリスマ性への打撃
ルシア=ロバト元法務大臣は、刑務所への物資供給事業で夫の会社に不正入札させたとして、2012年、第一審で3年半の禁錮刑を言い渡たされ控訴しましたが、結局1年半の刑が上乗せされ5年の刑で結審しました(2013年1月から服役中だったロバト元法務大臣はその後、2014年8月30日、大統領恩赦によって自由の身となる)。ジョアン=カンシオ元教育大臣は放送教育事業をめぐる汚職で、2015年、7年の禁錮刑と50万ドルの賠償金支払いという重い判決を言い渡されました(カンシオ元大臣は控訴し、現在ようやく控訴裁判の準備が始まったところ)。そして今回2人の前/元閣僚です。カンシオ元教育大臣と今回の二人は第一審の判決が出ただけでまだ結審はしていませんが、これでシャナナ=グズマン連立政権の4人の閣僚(3名の大臣と1名の副大臣)が第一審で有罪の判決をうけたことになります(これから起訴される政府要人がまだまだいるといわれる)。
このような状況でも今のところ政権基盤が危うくなるほど政府が批判の渦に巻き込まれないのは、東チモールの民主的な政治環境がまだ大衆的に広がっていないからでしょう。そして東チモール解放運動の最高責任者であったシャナナ=グズマンが率いる政権であることが影響していることは間違いないでしょう(もしフレテリン[東チモール独立革命戦線]のマリ=カルカテリ書記長が率いる政権だったら政治混乱は避けられないと想像できる)。しかしながら、マダレナ=ハンジャン元保健相がシャナナ前首相の責任を口にした意味は決して小さくはないはずです。先述したように、この発言はすでにシャナナ前首相の影響力に翳りがあることを示唆していると考えられるからです。
ルシア=ロバト元法務大臣が5年の刑で結審したときは、政府首脳の立場が、例えば先進諸国のように、危うくなる気配は微塵もありませんでした。しかし今回のエミリア=ピレス被告の場合は、シャナナ首相は彼女が起訴される前から擁護の弁を張っていただけに、そしてピレス被告の海外逃亡という展開を見ているだけに、さらに加えて、来年2017年の総選挙を迎えるにあたり明確に現政権に立ちはだかろうとする解放闘争のもう一人の英雄・タウル=マタン=ルアク大統領に期待する国民の声があるだけに、ちょっと事情が異なります。
思い返せば、「反汚職委員会」がエミリア=ピレス財務大臣(当時)を取り調べたとき、シャナナ首相(当時)は「反汚職委員会」や司法そして汚職を追及するジャーナリストを強く批判しました。そのときシャナナ首相は、エミリア=ピレス財務大臣の夫は自分の工場を持っているので東チモール政府と契約する必要は無い、わからないが何者かがこの問題を起こしたのかもしれない……などといって財務大臣をかばったのです(「東チモールだより 第233号」[2013年4月15日]参照)。この発言は首相としての公式見解ではなく、感情をあらわにした“私見”といえますが、それでもこのたびの判決によって財務大臣は自分の夫の会社と東チモール政府事業の契約を結んだと判断して有罪判決を下したわけですから、当時のシャナナ首相の発言は法廷で否定されたことになります。それに、「何者かがこの問題を起こしたのかもしれない」と首相はいいましたが、マダレナ=ハンジャン元保健相のいうように、すべてが首相の承認のもとでベッド購入事業が進められたということなれば、「何者」とはシャナナ自身ということになります。依然として現政権の事実上の指導者であるシャナナ計画戦略投資相のカリスマ性は、打撃を被ったといえるでしょう。
エミリア=ピレス前財務大臣は恐れられている?
東チモールの検察・裁判所はポルトガルと協議して、エミリア=ピレス被告を送還してもらう法的手段を整えていく方針ですが、なぜか政府はピレス被告に帰国させようと積極的に動きません。判決が出される前のことですが、ルイ=マリア=デ=アラウジョ首相は、ニューヨークのg7+の国際会議にエミリア=ピレス被告を出席させるために裁判所に手紙を書いたのは政府であるが、政府はエミリア=ピレスに裁判から逃げるようにと命令していないので政府に責任はない、海外に逃げたのはエミリア=ピレス自身の責任だ、と政府首脳として信じられないような無責任な発言をしています(『インデペンデンテ』紙、2016年12月9日)。
ポルトガルに居座るピレス被告に逮捕状が出されたことにたいし、タウル=マタン=ルアク大統領は当然ながらミリア=ピレス被告に“投降”を呼びかけています。しかし政府、とくに最大政党CNRT(東チモール再建国民会議、党首はシャナナ=グズマン)は、ピレス被告のこれまでの政府における業績を評価すべきだとかばい続けるのです。デ=アラウジョ首相は、ピレス被告は国内に入ろうとすると逮捕されると、まるで人ごとのようにいい、ピレス被告の庇護者にして最大の責任者であるシャナナ計画戦略投資相はノーコメントの構えです。
ピレス前財務大臣の汚職疑惑が浮上した当初から、シャナナ前首相はなぜ彼女をかばうのか(そのかばい方はたんに閣僚を守るという程度を超えて異様であり不自然である)、いま裁判逃れをするピレス前財務大臣をなぜ政府はかばうのか、大いなる疑問です。そして疑問は疑惑を生みます。ピレス前財務大臣は何か政府要人の秘密を握っているから守らざるをえないのではないか、と。『チモールポスト』(2016年12月2日)の第一面の見出しは、「エミリア、国の指導者を巻き込む特別な秘密を握っている疑惑」。まだ「疑惑」があるかもしれないという程度の段階であり、握られるその秘密とは何かが論じられるまでは「疑惑」は大きくなっていませんが、そのような「疑惑」を抱きたくなるのは人情としてごく自然のことです。
ルイ=マリア=デ=アラウジョ現首相もシャナナ=グズマン前首相も政治指導者としてピレス被告の裁判逃れについて正式な見解を語らないのはなぜか?わたしは週刊新聞『テンポセマナル』のジョゼ=ベロ主宰にきいてみると、「ルイもシャナナもエミリアを恐れているからだ」、という返答でした。エミリア=ピレス被告の行動とそれにたいする政府の奇妙な対応をみると、表面で起こっていることと中身で生じていることは違うのかもしれない……と思いたくなります。
~次号へ続く~
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