青山森人の東チモールだより 第363号(2018年1月24日) - 少数政権、二月初旬までの命か -

東チモール国会、膠着から空白へ

 クリスマス・年末年始の休暇が過ぎ、“仕事始め”の東チモール国会の動きが注目されましたが、動きはありませんでした。東チモール国会は去年11月末ごろから、政府不信任案の審議または政府による「政府計画」の二度目の審議を、多数派野党が手ぐすねをひいて待ち構えている状態にあります。政府不信任案が可決されるか、「政府計画」が二度目の拒否にあうと政府は倒れることになり、野党35議席と政権側30議席では数の論理からそうなることは間違いないといってよいでしょう。

 政権を担う与党第一党フレテリン(東チモール独立革命戦線)は現在、大統領・首相・国会議長の座を独占していますが、何かしらのタイミングを図っているか、国会解散の覚悟を決めるまでの時間を要しているのか、国会運営を膠着状態にして年を越してしまいました。国会運営において規則違反をしていると野党から批判され罷免要求されているアニセト=グテレス国会議長は年明けになっても音なしの構えをし、国会はもはや膠着から機能不全の空白状態に突入した観があります。

 しかしながらマリ=アルカテリ首相は1月の第二週に入って、1月31日に不信任案を審議する向きの発言をし、そうかと思えばその翌週には、野党が不信任案を取り下げれば政府は「政府計画」を提出する、まずは不信任案の撤回が先だ、というわけのわからない挑発的な発言をしましたが、ともかく現在の報道からすれば今月31日に野党が提出した不信任案が国会で審議されるようです。もしそうなれば審議が2~3日続くとして、2月3日は土曜日で4日は日曜日なので微妙ですが、2月3日前後に第7次立憲政府は野党多数による不信任案可決によって倒れることになります。

憲政史上初の「12分算方式」採用

 政府が要求した昨年度の補正予算は多数議席を占める野党の前に成す術もなく決められず、国会運営を膠着状態にして国会解散を阻止していますが、当然ながらこのような状態では本年度2018年一般国家予算の審議に入れるわけもなく、東チモールは憲政史上初の「12分算方式」採用を余儀なくされました。東チモールの国家機関はこれからしばらくの間、昨年度予算総額の12分の1ずつを1ヶ月のお小遣いのように毎月使って運営されることになります。

 いつまで「12分算方式」が続けられるのか。2018年度の予算が決まるまで。それはいつ。予算案が賛成多数(65議席のうちすくなくとも33議席)で国会を通過して大統領が承認すればよいのです。したがって現在の国会勢力図を塗り変える必要があります。そのためにル=オロ大統領が国政選挙の再実施を命じるか、それとも現在の国会議員のままで多数派政権を樹立させるか(これが選択されるとは考えにくい)、どちらかを選択しなければなりません。このように考えると、少なくとも3月までは「12分算方式」でいかざるを得ないことでしょう。

噛み合わない二人

 国会が正常に機能しない状態がこういつまでも続くことは誰にとっても好ましいはずがなく、ル=オロ大統領は決断を迫られています。フレテリンはおめおめと政権を野党連合に譲渡したくないはずで、前倒し選挙([再選挙]または[やり直し選挙]とわたしはいいたいが、東チモールではこう呼ばれている)に気持ちが入っていることでしょう。去年の9月あるいは10月ごろの時点では、野党を含め世論は前倒し選挙に反対していましたが、この期に及んでは前倒し選挙に反対しない意見が野党側からも目立つようになってきました。

 野党は大統領の判断に従うだけですが、一方フレテリンの場合は、大統領の判断を導ける優位な立場にあります。判断を下すのはル=オロ大統領であり大統領としてフレテリン党首という立場を公式には封印しているものの、フレテリン最高実力者であるマリ=アルカテリ首相の影響下にあることを考えれば、第7次立憲政府が倒れたとしてもフレテリンが政権を握り続ける可能性を追求するはずです。

 去年12月28日、GMN(全国メディアグループ、『ディアリオ』紙などを発行する報道機関)のテレビのインタビュー番組に出演したマリ=アルカテリ首相は、前倒し選挙にたいして「100%準備できている」と応え、獲得議席数の予想を打診されると、「われわれが(フレテリンと民主党の連立勢力が)過半数を獲ることは確実だ」と自信満々にいい、さらにインタビュアーに「45議席ですか」ときかれると、「そうなれば憲法改正ができるので、それはそれで危険だ」といたずらっぽく笑う余裕を見せていました。

 続く12月30日、同じ番組に出演した野党PLP(大衆解放党)党首・タウル=マタン=ルアク前大統領も前倒し選挙に異を唱えませんでした。インタビュアーから以前は選挙に反対していたことを突かれると、当時と今で状況が違うと応じ、大統領の判断に従うと述べました。

 ところで、このインタビュー番組(インターネットで見ることができる)に出演したマリ=アルカテリ首相とPLP党首のタウル=マタン=ルアク前大統領の発言を聴き比べると興味深いものがあります。国会の現状について「何が根本的な問題なのですか」という質問に首相は、「まず始まり経緯を忘れてはならない」といい、選挙後に大統領と第一党となったフレテリンが各政党と話し合いを持ったときに、CNRT(東チモール再建国民会議)は建設的・教育的な野党になると宣言したにもかかわらず、権力を狙っている、PLPは選挙運動でシャナナ=グズマンのCNRTを批判したのに、いま連合を組んでいる、かれらはご都合主義だ、と原因は野党勢力が立場や意見を変えるご都合主義にあるという見解を述べました。「なぜ、少数政権でいったのですか」という質問には、「なぜならそれはわたしの権利、憲法に沿った権利だからだ」と首相に指名された立場としての権利を主張しました。

 一方、ご都合主義と批判されていることにたいし意見を求められたタウル=マタン=ルアクPLP党首は、ご都合主義ではない、現実主義だ、と野党が連合を組んだのは不安定な政治を安定化させるためであると正当化しました。「少数政権は違憲ですか」とズバリきかれると、多数派野党連合の「報道官」という立場でもあるタウルPLP党首は、きつい表現を抑えるかのように言葉を選び、「少数は少数である」、少数政権では国会の決議では常に負ける、と少数政権では国会運営ができないことを強調するに留めました。マリ=アルカテリ首相と連絡をとっているのですかときかれると、もうとっていない、「わたしとマリ=アルカテリとは性格的に噛み合わない」、「かれと会うのは時間をなくすことだ」、ともいいました。

 なお去年の選挙後に連立協議をした際、PLPが国会議長の座を要求したがフレテリンに受け入れられなかったので交渉が決裂したと報道されている件について、マリ=アルカテリ首相は、PLPが国会議長の座がほしいというのなら100%支持したといい、タウルPLP党首はPLPが国会議長の座を要求したというのは憶測であって事実ではないと述べました。この件にかんしては、二人の発言は噛み合っているようです。

シャナナの影響力

 上記のインタビュー番組のなかで、「シャナナと連絡をとっているのですか」ときかれたマリ=アルカテリ首相は、「とっていない」といいました。この場合の「連絡」とは電話での直接会話のことと思われます。現政権とシャナナ=グズマン氏がもし本当に連絡を取り合っていないとしたら、それはたいへんなことです。

 東チモールとオーストラリアによるチモール海の領海画定にかんする交渉は、国連の常設仲裁裁判所が後押しする「国連海洋法条約」(the UN Convention on the Law of the Sea)に沿う「和解委員会」に仲介されておこなわれています。2017年8月30日、交渉はコペンハーゲンで基本合意に達したと、翌9月1日、仲介者(仲裁裁判所)によって発表されました。

 それによれば領海画定の他に、両国は「グレーターサンライズ」ガス田の法的地位と特別制度の設置、そして開発にかんしても合意に達したといいます。しかしながらいくつかの詳細部分の取りまとめが残されており、引き続き交渉が継続されると発表されました。肝心要の基本合意の内容や交渉経過については秘密交渉という性格上、最終合意に達するまで公表されないのです。

 2017年10月15日の仲裁裁判所による発表によると、三者(両国と仲介者)との交渉は「グレーターサンライズ」の開発企業の代表者たちを交えて進行中であるということでしたが、そのことを除いては8月30日の発表の繰り返しでした。依然として何がどう基本合意に達したのか、開発企業と具体的に何を交渉しているのかは一切明かされていません。なお、「グレーターサンライズ」の開発企業には「大阪ガス」も含まれており、日本にとってもこの交渉の行方は決して他人事ではありません。

 9月の時点では11月には最終合意に達し、その詳細が明かされるだろうと楽観的に発表されていましたが、まるで東チモール国内の少数政権による長引く不安定な政情に足並みを揃えるように、交渉も延々と重ねられ、こちらも年を越してしまいました。何がどうなっているのか、うかがい知ることはできませんが、領海問題がオーストラリアの妥協により「国連海洋法条約」に従って線引きをするという東チモール側の満足する結果で決着がついたとしても、「グレーターサンライズ」の開発方法では、東チモールもオーストラリアもそして企業側も一歩もひこうとしない困難な交渉がされていることは想像できます。開発方法とはつまりパイプラインです。パイプラインを自国にひきたい両国と、パイプラインを使わずに安くつく洋上処理方式を採用したい企業側が、喧々諤々と口角沫を飛ばしつづけているに違いありません。

 東チモール側の交渉団長であるシャナナ=グズマンCNRT党首が政権担当時代に着手した「タシマネ計画」(南岸地域の巨大開発計画)は、「グレーターサンライズ」から東チモールにパイプラインがひかれることを前提とする大規模事業であり、すでに巨額の資金が投入されています。自国にパイプラインがひかれることを悲願とする東チモール国民の総意を背負う交渉人として、「タシマネ計画」の善し悪しは別として、この交渉にシャナナ党首は欠かせません。したがって現フレテリン連立政権も前政権に引き続きシャナナ党首に交渉を一任しています。

 交渉のためにシャナナは海外に長期滞在をしているわけですが、国難を打開すべくマリ=アルカテリ首相と話し合いをするためにちょっと帰国するぐらいは十分可能なはずです。意図的に首相との話し合いを避けているフシがあります。あるいは、自分が不在の国難を“我が民”がどのように解決するか観察をしているのかなと邪推もしたくなります。

 さて、ル=オロ大統領はいよいよ決断をする決意をしたようです。1月23日、各政党の代表者と会合をもち、それぞれの意見を聴きました。フレテリンは前倒し選挙を望むといい、CNRTは多数派野党に政権を移譲することを望むと会談後の記者会見で語りましたが、各政党とも大統領の判断を尊重する姿勢を示しました。次に、大統領は閣内と歴史的な指導者たちとの会合を開き、その上で腹をくくることでしょう。シャナナCNRT党首はいまも国内不在であり、大統領との話し合いに参加できないと報じられています。シャナナ党首の不在のまま東チモールは果たして政情不安から脱することができるか否かが注目されます。そしてシャナナ党首の交渉闘争の末、パイプラインが東チモールにひかれるのか否か、これまた大いに注目されます。東チモールにいても、いなくても、シャナナ=グズマンという人物の影響力が絶大であることがいかんなく証明されているような気がします。

~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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