国会を解散、そして前倒し選挙へ
フランシスコ=グテレス=ル=オロ大統領は、1月26日、袋小路に迷い込んだ政局から脱するため国会を解散し、「民主主義と民主主義国家の権利を強化するため、前倒し選挙をおこない、国民のみなさんへは投票するよう身をかがめてお願いする」と前倒し選挙の実施を正式に発表しました。
野党が去年11月に提出した不信任案を1月30日に国会で審議される予定でしたが、それを待たずにル=オロ大統領は選挙の実施を決断しました。これは東チモール憲法第86条 (f)項に沿った解散となります。つまり、政府樹立や国家予算が決められない深刻な危機状態に国家が陥った場合における大統領の権限行使です。ちなみに同(g)項に沿った解散とは、「政府計画」が続けて二度の否決がなされた場合において、大統領は政府閣員を免職し首相を解任する特権を行使できます。この(g)項に沿った解散となれば、解散・総選挙は政府・首相側に責任がある印象を世論に与え、(f)項に沿った解散となれば野党の妨害によって深刻な危機状態に陥ったと与党側が野党側を非難し選挙戦を闘えるので、大統領は1月30日前に決断を下したのではないかと思うのは考えすぎでしょうか。
いずれにしてもこの半年間続いた身動きのとれない政権運営に終止符が打たれる目途が立ちました。
「12分算方式」はいつまで続くか
大統領のもう一つの選択肢として、もし現国会の多数派野党に政権を渡したら、本年度の国家予算案が3月には審議・採決されたかもしれません。前倒し選挙が選択されたということは、予算案が国会で審議・採決されるのはいつのことでしょうか。国会は選挙後(前回の投票日は2017年7月22日)から6カ月以内に解散できないことになっているので1月26日に解散することはできます(解散日が26日となったのか、後日となるのか、ちょっとわからないが)。以降、なるべく早期に日程が組まれると仮定して、ごく単純に「とらぬ狸の皮算用」をすると以下のようになります。
大統領の国会解散の発表から30日以内に選挙日が発表されなければならず、かつ投票日から少なくとも60日前に選挙日程が組まれなければならない規程もあり、まだ選挙日が発表されていませんが、選挙日程が2月上旬に発表されると仮定すると、選挙が実施されるのは4月に入ってからということになり、4月にはカトリック教徒が大半を占める東チモールにとって大切な宗教行事である「復活祭」(イースター)があることを考慮すれば、その「復活祭」後に投票日が組まれることでしょう。そしてこの選挙によって今度は安定多数の政権が誕生したと仮定すれば、本年度予算案が審議・採決そして大統領による公布という手順を通過するには早くても6月ごろとなることでしょう。それまで東チモールは「12分算方式」(昨年度予算総額の12分の1ずつ毎月使う方式)で国家機関を運営していかなければならないのです。
気になる家宅捜査
ところで気になる警察の動きがありました。1月18日、シャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)党首の最初の妻とのあいだに生まれた長女であるゼニルダ=グズマンさんの自宅や会社が家宅捜査をうけたのです。ソモツォ防衛治安大臣は、警察の捜査は検察庁から令状が発行されたうえでの行動であり、政府が司法に介入することはない、と声明をだしました。しかしなんとなく下衆の勘ぐりを刺激させられるタイミングです。
つまり、去年の選挙後フレテリンを突き放したシャナナ=グズマンCNRT党首にたいする報復ではないか、と。あるいはシャナナCNRT党首の親族ビジネスを批判したタウル=マタン=ルアク前大統領がいまPLP(大衆解放党)の党首としてCNRTと連立を組むとは何事かとタウルPLP党首にたいする攻撃材料を選挙戦に向けてつくりたいというフレテリンの意図が作用したのではないか、と。
以上はあくまでも下衆の勘ぐり。三権(立法・行政・司法)相互の干渉規定は憲法によって各国異なりますが、東チモールでは憲法上、司法の独立性を定めています。司法が与党の“忖度”をしないものと信じたいと思います。
ところでゼニルダ=グズマンさんに疑いがかかったのはこれが初めてではありません。2009年、第一期シャナナ連立政権下で、父・シャナナ首相(当時)の娘・ゼニルダさんが米の輸入会社の10%以上の株主であるにもかかわらずシャナナ首相率いる政府が事業契約を結んだのは法律違反だとして、フレテリンがシャナナ首相の辞職を要求したことがありました。しかしこのときは契約を結んだ時点でゼニルダさんは株主からはずれていたことを証する文書が出てきたことで、シャナナ首相はかろうじて難を逃れました(東チモールだより 第125~128号参照)。その文書の信憑性についてなぜか精査されなかったのがわたしには不思議でした。この時期は2006年に起きた「東チモール危機」と2008年に首相・大統領同日襲撃事件が起こって間もないときだっただけに安定した政治が希求される環境にあって、シャナナ首相の責任追及よりもシャナナ連立政権の安定が優先されたのか……と漠然とおもったものでした。
2007年から10年間続いたシャナナ連立政権下ではシャナナ=グズマン氏の親族が経営する会社が公共事業を受注する状況ができあがり、タウル=マタン=ルアク大統領(当時)がシャナナ計画戦略投資相(当時)をスハルト大統領の親族ビジネスを引き合いに出して強く糾弾したのでした。このへんのことをフレテリンは次の選挙戦で突っ込んでくることでしょう。
政治家たちへ審判を下せ
今度の総選挙は決着をつけるための選挙という性質を帯びることから、ともすれば過熱気味になるかもしれません。しかし東チモールの有権者が政治家たちの言動の移り変りを冷めた目で見極めて、暴力に訴えることのない選挙戦がおこなわれることを切に望みます。東チモールの有権者は支持政党への応援合戦をするのではなく、この半年間、国会議員がした事/しなかった事にたいする審判を下す選挙にしてほしいと思います。そうなれば、ル=オロ大統領のいう、まさに民主主義を強化する選挙になることでしょう。
~次号へ続く~
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