青山森人の東チモールだより 第365号(2018年2月12日) - シャナナ連立政権の爪痕 -

選挙は5月12日に

ル=オロ大統領は、少数野党と多数野党によって袋小路にはまってしまった政局を打開するため、国会を解散して前倒し選挙を実施すると1月26日に発表しました(報道によればこの1月26日が国会解散日となるようだ)。その後、選挙の日程が注目されました。そして5月実施という政府と選挙委員会による提案に大統領は合意したと2月5日に報道され、8日に大統領は選挙日を5月12日にすることで合意したと報道されました。最速で4月の上旬が可能であり、復活祭(イースター)という大切な宗教行事を考慮すればその後であろうとわたしは予想しましたが、はずれました。

どうやら与党フレテリン(東チモール独立革命戦線)は、バタバタとあせって選挙で決着をつけるのではなく、なるべく長くいまの実権をひきずって影響力を長引かせて選挙に臨みたいという考え方をしているのかもしれません。

今年の5月20日「独立記念日」(正確には「独立回復の日」)は議会選挙の余韻のなかで(「混乱のなかで」にならないことを願う)迎えることになりました。

シャナナ連立政権下の政府高官ぞろぞろと…

さて、去年の議会選挙以来、少数政権による行き詰った行政と立法ばかりにわたしは目をとられていましたが、ふと気がつくと司法が元気に動いているようです。最近、シャナナ連立政権下で閣僚・政府高官だった人物にたいする裁判報道が目立ちます。前号の「東チモールだより」でシャナナ=グズマンCNRT(東チモール再建国民会議)党首の娘の自宅・会社に捜査の手が入ったことをお伝えしましたが(報道によれば税金関係の捜査であるとのこと)、これは政局絡みというよりはむしろシャナナCNRT党首が政権の座についていないがゆえの検察側による活発な動きの一環であると見たほうが自然なのかもしれません。

つまり、元大統領でもあり元首相であるシャナナ=グズマンCNRT党首が依然として東チモールで最も影響力のある人物であり続けても、あるいは国民の声援を一身に背負ってオーストラリアとの領海交渉と「グレーターサンライズ」ガス田における企業側との開発交渉を引き受けている国家的勇士であっても、去年7月の選挙の結果として権力の中枢に存在しなくなった以上、それまでのように司法はシャナナ連立政権の手中にあった立法・行政から陰に陽に干渉をうけることがなくなったために、検察が “汚職名簿”に載っている元政府高官たちにたいして行動をのびのびととれるようになったのではないでしょうか。

今年1月、シャナナ連立政権下の政府高官たちへの裁判関連の報道が目を見張らんばかりに多くあったので、以下にざっとまとめてみましょう。

[その1]
1月9日、ディリ地方裁判所は、公金着服と公文書偽造、管理行政の怠慢、権力濫用の容疑で前の公共事業・交通・通信大臣であったガスタン=ソウザ氏の審議をおこなった。ソウザ前大臣に加え、かれの二人の息子、同省役人のディオゴ=ダ=コスタ氏とマルチーニョ=グズマン神父にも容疑がかけられている。ソウザ家3人の容疑者はこれまで2回も審議に現れず、これが初審議となった(2人の息子のうち1人はオーストラリアへ留学中)。検察による起訴内容によれば、2010年2月、東チモール政府はアジア開発銀行から道路工事費用として4600万ドルを借りる合意をし、その道路工事は2012年に終わり、余った約8万200ドルと8台の車両を東チモール政府はアジア開発銀行へ返さなければならなかった。2012年9月24日(第5次立憲政府、第二期シャナナ連立政権)、当時のソウザ公共事業大臣はアジア開発銀行に車両2台は同省事業計画部門に渡ったと説明したが、実際は1台がベコラの自宅に置かれ2人の息子たちが使用し、もう1台は同省役人のディオゴ=ダ=コスタ氏が使用していた。2014年4月か5月、マルチーニョ=グズマン神父は当時のソウザ大臣に、聖アントニオ教会の200年祭記念行事のために車を借りたいと口頭で伝えると、2014年5月13日、ソウザ大臣はディオゴ=ダ=コスタ氏が使用していた車をマルチーニョ=グズマン神父に貸してやり、マルチーニョ神父はこれを1年3ヶ月に渡って使用し、その間の維持費をアジア開発銀行からの事業資金で賄った。よってこれら5名は公金横領、公文書偽造そして管理行政の怠慢の罪の容疑で起訴された。これにたいしガスタン=ソウザ前大臣(第6次立憲政府で公共事業・交通・通信大臣)は、事業計画部門に2台の車を燃料費と維持費を含めて渡したのはアジア開発銀行であり、その2台の車を個人的に使用したことはなく、息子たちは洗車したり燃料を入れたりして手伝っただけであり、マルチーニョ=グズマン神父へ貸し出された車は、当時のシャナナ首相の許可のもとマナトゥト地方の地域社会の行事のために使われたのだと、起訴内容は部分的に間違っていると反論した。

[その2]
第4次立憲政府(第一期シャナナ連立政権、2007~2012年)の環境庁内で2010年に公文書偽造・職権濫用の行為をした疑いがあるとして起訴されていたアビリオ=デ=ジュスス=リマ元環境長官は2013年10月の第一審で5年の禁錮刑と5300ドルの国への損害賠償と裁判料金50ドルの支払いが言い渡され、去年2017年11月、禁錮刑3年で結審した。環境庁の別の役人もまた、3年6ヶ月の禁錮刑と損害賠償5300ドルと裁判料20ドルの支払いが命じられており、さらにもう一人の同庁役人は1年3ヶ月の禁錮刑で執行猶予3年半と裁判料20ドルの支払いが言い渡された。そのアビリオ=デ=ジュスス=リマ元環境長官が、この1月15日に3年の刑をつとめるためベコラ刑務所に収監された。

[その3]
オーストラリアからの牛輸入事業をめぐる汚職事件にかんして、農水省の元副大臣と複数の局長がかかわる裁判がディリ地方裁判所で始まる予定だったが、容疑者の1人・MRL氏が他界したことから、2018年1月16日、審議は3月15日に延期された。検察による起訴状によれば、2014年2月、農水省はオーストラリアから牛165頭を輸入してエルメラ地方とラウテン地方に配分するという66万ドルの事業を計画し、当時のマリアノ=アサナミ=サビノ農水大臣はこれを承認した。同省は事業入札をおこなったところ、「ノバ飼育貿易社」(Nova Breeding and Trading Unipessoal Limitada Company)が落札し、同年7月31日、その会社社長で容疑者であるMRL氏は牛を同年10月31日までに輸入するというアサナミ農水大臣との合意書に署名をしたが、実際はその会社が期限までに牛を輸入することはなかった。それにもかかわらず同年11月13日、この会社は農水省へ牛の輸入にともなう検査要求書と会社への支払い請求書を提出した。同年11月19日、農水省の業務担当長のFOGC氏は部下に、同省調達局長のRCH氏へ領収と検査の書類を用意するように命じ、RCH氏はこれを承諾し、会社へ支払われる65万9750ドルが準備され、同省総務部長のLBF氏がこれを承認した。同年11月24日、農水省副大臣である容疑者MC氏と当時のアサナミ農水大臣は、この会社がオーストラリアから牛を輸入していなかったにもかかわらずこの会社への支払いを認めた。したがって検察はMC氏・FOGC氏・RCH氏・LBF氏を禁じられている経済活動参加と商業犯罪の容疑で、そしてFOGC氏・RCH氏・LBF氏を公文書偽造の容疑で、さらに会社社長だったMRL氏を重大詐欺の容疑で、それぞれ告訴したのである。

いやはや、上記のようにもし報道されているとおりだとしたら、牛輸入事業で準備されたお金が、牛が輸入されていないのに使われたことになり呆れ果てるばかりです。そしてもし報道されているとおりだとしたら、当時の農水大臣で、現在フレテリンと連立を組む民主党・党首のマリアノ=アサナミ=サビノ国政兼鉱山資源大臣の首筋がひんやりしているのではないでしょうか。

[その4]
1月30日、ルシア=ロバト元法務大臣が再び被告となる審議がディリ地方裁判所でおこなわれた。エルメラ地方のグレノ刑務所の改修工事を親族会社に手配し、事業費12万695.49ドルがその会社に支払われたことが汚職の罪にあたるという容疑である。この日の審問でルシア=ロバト元大臣は、当時のグレノ刑務所の劣悪な状態は承知していたが、改修工事は財務省が担当し自分は工事過程にかかわっていないと容疑を否定した。

なんとまあ、ルシア=ロバト元法務大臣の再登場です。ルシア=ロバト元法務大臣といえば、グレノ刑務所の制服と靴の供給事業を自分の夫が経営する会社に発注した違法行為で2012年12月に5年の禁錮刑が確定し、皮肉にもそのグレノ刑務所で服役することになりましたが、2013年1月の収監からわずか約1年半後の2014年8月に、当時のタウル=マタン=ルアク大統領が彼女の健康状態を慮り恩赦を与え、彼女は自由の身となりました(東チモールだより第215・226・234・278号参照)。これでルシア=ロバト元法務大臣の件は落着したと思っていましたが、こうしてまた起訴されていたとは……彼女の安息の日々は永くは続かなかったようです。だたし前回のルシア=ロバト元法務大臣の件について、「3年の刑が言い渡され、ラモス=オルタ大統領から恩赦が与えられた」と間違って伝えられており(3年ではなく5年、大統領はタウル=マタン=ルアク大統領である)、報道にちょっと不安を覚えます。

シャナナ連立政権がもたらすもの

 シャナナ=グズマンCNRT党首が率いた連立政権下の政府高官たちによる汚職事件は、2007年から2017年までの10年間の爪痕ともいえます。中途半端になっている大物の事件としてビセンテ=グテレス元国会議長と、第一審で有罪判決をうけ依然として海外(ポルトガル)逃亡中のエミリア=ピレス元財務大臣の件がありますが、これらの件はいつまで宙ぶらりんにされるのでしょうか。あからさまに司法に干渉する言動を繰り返したシャナナCNRT党首が権力の座からはずれたことで過去10年間のたまった膿を出す流れになったとしたら、それはそれでたとえ少数政権であっても政権交代には大きな意義を見出せます。

しかしながら来る5月に実施される選挙で野党連合が過半数の議席を獲得すればシャナナCNRT党首は再び権力を握り、そうなれば今度は汚職にうるさかったタウル大統領はおらず同盟を組んだタウルPLP(大衆解放党)党首がいるだけです。それによって検察庁によるシャナナ連立政権下の政府高官たちへの汚職の追及が鈍ってしまうことが懸念されます。

写真1 マウビシ(アイナロ地方)とサメ(マヌファヒ地方)をつなぐ道路の工事。
2017年8月5日。ⒸAoyama Morito
いまの東チモールは道路工事だらけである。道路工事には多額の資金が費やされ、さまざまな利害関係がまとわりつく。道路工事の現場、あるいは工事跡を、10年間続いたシャナナ連立政権の爪痕として捉えると、シャナナ=グズマンによる“東チモール改造計画”がみえてくる。計画半ばでシャナナは政権を手放すはずはない。「グレーターサンライズ」ガス田から東チモールへパイプラインをひいて「タシマネ計画」を実現しなければならないのだ。去年7月の選挙結果を受けて、「野党にまわる」とシャナナが宣言したときからすでに政権奪還のシナリオはできていたはずだ。

写真2 ソイバダ(マナトゥト地方)とマナトゥト(マナトゥト地方)をつなぐ道路の工事。
2017年8月6日。ⒸAoyama Morito
道路工事に使われる砂の質がよく話題にあがる。砂の質がよくないから道路ができても3年ももたない、いや1年しかもたない、とよくいわれる。公共事業費が適正に使われているかどうかは常に国民の関心事であり、同時に政治家たちの権力争いには国民は冷めた目で見ている。

~次号へ続く~

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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