2015.1.1 2015年になりました。2011年3・11以来の習いですが、今年も松飾りはつけません。英語版に、A Happy & Peaceful New Year! のみ、入れておきます。総選挙与党圧勝の結果、あまり変わり映えのしない第三次安倍内閣が成立し、憲法改正への長期政権の構えが、明確になりました。原発再稼働、沖縄普天間基地辺野古移転などと共に、総選挙で争点にならず、世論調査では批判意見が多い政策が、次々と実行に移されそうです。肝心のアベノミクスによる景気回復については、希望的観測がたまにあっても、悲観的見通しが圧倒的です。OECDの2014年12月報告は、新自由主義のもとでのトリクルダウン理論は根拠がなかったことを実証的に述べており、輸出大企業の円安誘導による景気浮揚策・富の再分配効果そのものが、破綻しつつあります。より長期には、ようやく邦訳も出たピケティ『21世紀の資本』の資産・所得ベースから見た格差拡大も、明らかです。そして、外交における日米の集団的安全保障・特定秘密保護法体制、隣国中国・韓国との緊張、歴史認識での深い溝、国際的に見れば、日本の孤立は異様で、「右傾化政策が本格化」と評されています。新年は、第二次世界大戦終結70年、世界から注目されます。
私自身の2014年は、前年末の岩波現代全書『日本の社会主義ーー原爆反対・原発推進の論理』刊行に続いて、春に 『ゾルゲ事件ーー覆された神話』(平凡社新書)を上梓し、11月の「ゾルゲ・尾崎処刑70周年:新たな真実」国際シンポジウムまで、様々な反響と情報が集まりました。平行して、これまでの資料収集の旅を「『国際歴史探偵』の20年ーー世界の歴史資料館から」という講演記録(法政大学『大原社会問題研究所雑誌』2014年8月号)にまとめ、合わせて加藤哲郎編集・解説『CIA日本人ファイル』全12巻を編纂しました。大部で高価ですから、ぜひ図書館等にリクエストしてご利用下さい。個人的にもっとも苦労し、安堵したのは、メキシコ大学院大学田中道子教授と共に編纂してきた、スペイン語での日本近現代政治資料集“Política y pensamiento político en Japón 1926-2012“(メキシコ大学院大学出版局、2014)の刊行。もともと私以前に同大学客員教授を勤めた故高畠通敏教授が、1926ー1982年までのスペイン語訳資料集を田中教授と共に編纂し、1987年に2分冊で刊行していたのですが、私が高畠教授の遺志を継ぎ、1983ー2012年までの日本政治の公式決定・政策文書・重要資料を適宜加えて増補し、田中教授以下10人ほどのチームでスペイン語に訳したものです。旧版と合本したので、1000頁になりました。予定より遅れて、2011年東日本大震災・福島原発事故関係の資料を加えることができたのが、ある意味では怪我の功名で、ラテンアメリカで日本に関心を持つ人々の基本教材になるはずです。今年2015年には、メキシコでの田中教授とのもう一つの仕事、『佐野碩と世界演劇』についての論集も、菅孝行さんの編で、書物になる予定です。12月に掲げた「占領期右派雑誌『政界ジープ』と731部隊「二木秀雄」について情報をお寄せください」は、「2015年の尋ね人」ページに移し、引き続き情報を求めます。
11月に中国・海南島の三亜学院で「ジャパメリカからチャイメリカへ」を講演してきたさい、Yahoo は使えるのにGoogleは使えず、そればかりかGmailが届かないのに気がつきました。早稲田大学大学院の学生たちに、中間レポート試験の問題を中国から出題したつもりだったのですが、帰国後に聞いたら何人かの学生に届いておらず、あわてて試験問題を再送したのですが、その不通の学生たちのアドレスが、GoogleのGmailでした。これが年末に「中国でGmailが使用不能に」という、ロイター発の大きなニュースになって、世界をかけめぐりました。ただ、中国人留学生に聞くと、ずいぶん前からそうで、いろいろ迂回しての交信方法もあるのだそうです。Great Firewall (GFW)という中国政府の広域検閲システムの一環とも言われますが、エドワード・スノーデンが明らかにした米国NSA/CIAの世界通信情報監視システム「バウンドレス・インフォーマント」「プリズム」に比べれば、中国サイバーポリスの人海戦術はささやかなもので、いつかは息切れするでしょう。なにしろ米国NSAは、Microsoft、Yahoo!、Google、Facebook、PalTalk、YouTube、Skype、AOL、Appleなどの巨大IT企業に協力させ、ビッグデータ情報を、丸ごととっていたのですから。第二次世界大戦終結70周年の2015年も、この20世紀大国アメリカと、新興帝国中国との競争的関係を軸に、世界は動くでしょう。日本の私たちも、米国との関係、中国との関係を、改めて深く考え直す機会です。新しい年が、平和で希望がありますように!
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye2859:150101〕