2017年、20周年を迎えて移転したネチズンカレッジは、現代史資料アーカイヴを併設します。時局解説・学術カリキュラムと共に、今後もよろしく!

著者: 加藤哲郎 かとうてつろう : 一橋大学名誉教授・早稲田大学客員教授
タグ:

2017.1.1  本日から、当ネチズンカレッジは、xdomein の新サイトに移行しました。本来なら新年の慶賀を述べるべきでしょうが、ここ数年親族の他界が続き、年賀状を含む年頭の挨拶は、控えさせていただいております。昨年まで本サイトが入っていたJCOM が、本年1月末でホームページ事業から撤退とのことです。本「ネチズンカレッジ」は、新年1月1日に、全体としてバージョンアップ・刷新して、新サイトに移行します。リピーターの方は、xdomainの新サイトの方をブックマーク願います。 昨年最後の更新日付が2017.12.1のままでいくつかのサイトにも転載されましたが、敢えてそのままで、移転作業の方を優先させていただきました。これまで10個ほどの倉庫に分散していたファイルを一つにする作業で、特に本文中でのリンクには未修正・リンク切れが残ると思いますが、ご容赦願います。3月末で、早稲田大学大学院での客員講義も終了し、 今年8月創立20周年を迎える「ネチズンカレッジ」が本務となります。 一橋大学に続く、第二の定年で、ようやく本格的な「自由業」となります。それで本カレッジについても、特に21世紀に入って、9.11と3.11のような時期には、「イマジンimagine 」をも用いて頻繁に発信し時局ニュースサイト風になりましたが、もともとは自分の仕事を整理し、カリキュラムに入れていく学術サイトでした。 そこで時局発信はやめて、学術情報だけにすることも考えましたが、月2回でも熱心に読んでくれるリピーターの皆さんが海外にもいて要望がありますので、一応簡単でも政治への発言を続けることにしました。これまで通り、このトップページは、エッセイ風に政治参画していきます。

本年8月の20周年を目処に考えているのが、ここ20年ほど世界をまわって集めてきた歴史資料のデータベース化。これまでも旧ソ 連日本人粛清犠牲者・候補者一覧」「在独日本人反帝グループ関係者名簿など、海外公文書館で集めた資料を、その解読結果のみ収録してきましたが、xdomainの新サイト開設を機に、それらのもととなったロシア、米国、英国、ドイツ、スウェーデン、メキシコ、インドなどの公文書館所蔵原資料を、それぞれのテーマに即して整理し、デジタル化・pdf化して いく計画です。これは、2年前に法政大学大原社会問題研究所で「『国際歴史探偵』の20年」 を講演する機会に考え、その後、日本の国立公文書館アジア歴史資料センター(アジ歴)も国会図書館憲政資料室資料 も急速にデジタル化が進み、海外の研究者にとってもアクセスしやすくなった状況に合わせるためです。また、イギリス国立公文書館TNAに比して遅れていたアメリカ国立公文書館(NARA)も、ついに、これまでのindexのみでなく、まだ一部ですが原資料を直接閲覧・ダウンロードできるようになってきたのに刺激されて、この10年ワシントンDC等で集めてきた資料も、自分なりの編集で公開することで、民間アーカイヴの役割を果たせるだろうと考えました。一部に根強い要望があり問合せも多い、ゾルゲ事件関連や日本共産党史関係の収集原資料も、徐々に公開していく予定です。乞う、ご期待!

それにしても不確実な新年です。12月にロシアのプーチン大統領訪日、クリスマス休暇中のオバマ米国大統領のもとに安倍首相が押しかけてパールハーバー 訪問、一気に内閣支持率が64%まで上昇、と出たところで、安倍首相のハワイ詣でに同行した稲田防衛大臣が、翌日靖国神社に参拝中国・韓国が猛反発、せっかくオバマ大統領の花道を演出できた米国国務省も不快のコメント、先の見えない新年です。東京株式市場の大納会は1万9000円近くで5年連続の上昇といいますが、子細に見ると2016年の乱高下はほぼ海外からの影響、年末には東芝のアメリカでの原発事業損失が明るみに出て、TPPもアベノミクス全体も破綻して、手詰まりです。なによりもうすぐ就任する米国のトランプ大統領の動向、イギリスのEU離脱に続く春のフランス、秋のドイツの選挙結果次第で、ヨーロッパ全体が内向きになりナショナリズムが台頭すると、21世紀の世界秩序の枠組みそのものが再審されます。中国、ロシアとアメリカとの関係が、直ちにウクライナやシリア、トルコ、イラン、イスラエルにも飛び火し、難民問題もIS問題もそれに動かされます。そこからはじきとばされたアフリカでは、日本の自衛隊がやみくもに入った南スーダンを始め、国連もコントロールできない紛争が火を噴くかもしれません。日本、韓国、中国、北朝鮮の東アジア情勢は、いずれにせよ世界史再編の従属変数でしかなく、株価ばかりでなく一見「安定」した国内政治も、揺さぶられ続けるでしょう。

こういう時には、原理的に考えるしかありません。20世紀パクス・アメリカーナ、現存社会主義・冷戦崩壊とは何であったのか、グローバル自由主義経済とカジノ資本主義のもとでの「成長」が、本当に唯一の選択肢なのか。日本国内でも、本当に天皇制は必要なのか、日米安保と自衛隊と日本国憲法は本当に両立可能なのか、過労死まで生み出す私達の働き方が「国民性」などではなく福祉とセーフティネットの欠如により追い込まれた生活様式ではないか、アメリカとの「和解」で築かれる「同盟」とは所詮は「軍事同盟」であり、周辺諸国との「和解」も「固有の領土」の主張も困難にするものではないか、と。もう一度、この100年の歴史を、見直す必要があるのではないか、と。

全面展開する余裕はありませんので、二つだけ。米国トランプ政権の新布陣を見ても、ロシア・中国をみても、ナショナリズムが強まると「軍部」の役割が高まります。「アラブの春」後の中東でも、隣国韓国政治の低迷でも、またぞろ「軍部」が鍵を握る可能性を否定できません。もちろん、日本会議や靖国オタクが跋扈するこの国でも。もう一つ、軍部台頭・戦争への対抗軸は「野党共闘」や「統一戦線」だという声が聞こえますが、100年の歴史に照らして注意深く考える必要があります。もともと1930年代の「反ファッショ統一戦線」も1960年安保の「野党共闘」も、国際政治の中での力関係・友敵関係の中で基軸の争点をめぐり構成され、その内部には矛盾も競争も、時には「トロイの木馬」風共食い・陣取り合戦も孕むものでした。私はそれを踏まえて「統一戦線」型共闘に与せず、「仮想敵」をもたない「非暴力・寛容・自己統治」の政治「差異の解放・水平化と対等の連鎖」「 19世紀機動戦、20世紀陣地戦から21世紀情報戦へ」と提唱してきました。かつて毎年1月の新年を占う3つの情報イベントとして参照を求めてきた、米国一般教書演説は今年は1月20日トランプ大統領就任演説で決定的に重要ですが、ほぼ同時にスイスで開かれる世界経済フォーラム(WEF,ダボス会議)も世界の政経エリートの動向がわかり見逃せません。もう一つの軸だった世界社会フォーラム(WSF)は、存続はしていますが、地域別・問題別フォーラムに組み替えて、1月の総会はないようです。この15年の、グローバルな力関係の変化です。しかし日本のメディア報道が大政翼賛型にシフトし、世界では貧困・格差・移民・難民・環境問題が続き、沖縄では植民地的暴力が行使されているもとでは、世界社会フォーラムの「もう一つの世界は可能だ」の理念の意味は、失われていません。 本サイトは 、今年も、こうした底辺の動きを追いかけていきます。

初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye3843:170102〕