2025 年ハンガリー政治概観

オルバン・ヴィクトルの目論見がことごとく外れた 2025 年

2025年はオルバン政権にとって、あまり芳しくない年だった。

年初で「飛躍の年(Repülőrajt)」を宣言し、3月15日のハンガリー独立記念日の演説で「虫けらども(反政府勢力)」を「春の大掃除」で一掃すると公言した。その第一弾として、反政府系メディアの取締りを図る「ハンガリー版プーチン令(外国の代理人を排除)」をいったん国会上程したが、議論することなく取り下げるという失態を犯した。反政府系勢力の大きな抵抗運動が盛り上がることを恐れてのことだ。

さらに3月には2000億フォリントを超える国立銀行資産が、外部に設立された各種財団に流出しており、その多くが回収不能になっているという会計検査院報告が出た。検査院はこの件を検察庁に告訴した。この資産流出にはFidesz全体がかかわっており(財団への資金流出を合法化する法律を制定)、国立銀行総裁マトルチ一家(長男のアーダム)やオルバン首相の女婿ティボルツ・イシュトヴァンなど政権に近い起業家が、あの手この手で国立銀行資産を私物化した事件である。会計検査院の告訴にもかかわらず、現在まで誰一人として逮捕されていない。政権トップの家族がかかわっているからである。与党の政治家でこれを問題にしている政治家は一人もいない。この社会的倫理にたいする鈍感さがFideszへの批判となっていることに、オルバン初め与党の政治家は誰も気づいていない。

さらに、Pride行進の禁止令を発したにもかかわらず、それを無視して実行された6月の行進は、ブダペストの中心部を数十万人の参加者が埋め尽くすという盛り上がりを見せた。このため、政府は参加者や行進組織者を告訴すると脅していたにもかかわらず、いつの間にか有耶無耶になってしまった。下手に告訴すれば、反政府運動を刺激するという配慮からである。

若年層には反政府的雰囲気が支配されており、ポップコンサートなどで公然と政府与党を批判する歌が披露され、「汚いFidesz」というスローガンが叫ばれるほどになった。昨年末からYouTubeなどでオルバン一家の蓄財やオルバンの幼馴染が長者番付のトップになり、自家用ジェットや豪華ヨットで過ごしていることが暴露され、ネット文化に親しんだ若者たちの間に、Fideszの腐敗認識が広まった。しかし、Fideszには「腐敗」認識がきわめて希薄である。それがFidesz批判になっていることを与党政治家は理解できない。

オルバン・ヴィクトルはネット空間でFideszが劣勢に立たされていることへの危機感から、独自のネット情報を樹立することを決め、オルバン・ヴィクトルが陣頭指揮をとって、ファイティング・クラブ(Harcosokklubja)と称するFidesz与党のデジタル戦士を組織する試みを始めた(5月)。しかし、Harcosokklubjaが独自に開設したYouTubeの視聴率(数百から数千の視聴)があまりに低調で、再考を余儀なくされた。与党の政治家のインタヴュー中心のYouTubeを見る若者などいないし、Fidesz支持の年配者はデジタル空間に入り込むことができないからだ。

このため、7月には新たなデジタル組織化を試みた。それがDigitálisPolgáriKör(DPK、デジタル市民サークル)である。この結成総会では、藁人形で呪うがごとく、政府に批判的なYouTuberを並べた巨大パネルを作成し、これらのYouTuberへの対抗組織として活動する「戦士」を育成することを声高に宣言したのである。以後、友人知人関係や職場の人脈を通して、このサークルへの参加が勧誘され、いわばFidesz支持層拡大の道具として利用されてきた。

このDPKは一定の影響力を発揮しているが、しかし若者の心を掴むことができない。なぜなら、DPK動画のほとんどが反政府勢力を代表するマジャル・ピーテルを醜く侮るもので、知性や倫理性がまったく感じられないものばかりだからである。
自らの腐敗を糺すことなく、反政府の政治家を揶揄する動画を作成するだけでは若者の支持を得られない。オルバン・ヴィクトルは各地でDPK集会を開き、それを選挙キャンペーンに利用している。公費で賄われているDPK集会では反政府勢力への情報漏れを警戒して、DPKの会員登録した者だけが参加でき、その会員ですら入場には厳しい身体チェックが行われる。怪しげな宗教集会のごとく、狂信的なFidesz支持者(オルバン信者)の集会になっている。これでは幅広い有権者の支持を得ることはできない。オルバン・ヴィクトルの権力への執着心の強さだけが浮き上がる状況になっている。

そして、11月のトランプ訪問の大名行列である。巨額の費用をかけて、4名の大臣に加え、各省庁のトップやFidesz関係者、政府メディを含めた大代表団が、チャーター便でワシントンに向かった。トランプのサイン入りの赤帽子を被ってハンガリーに凱旋したオルバン首相は、「アメリカの罰則関税からの無期限免除」と「200億ドル規模の金融安定化資金創設」の成果を得たと、誇らしげに語った。ところが、国際メディアは「罰則関税からの免除は1年のみ」と報じたことに、スイーヤルトー対外経済外務大臣は「フェイクニューズ」を連発した。Mr.Fakeの面目躍如である。ところが、ホワイトハウスは1年限りの措置であることを明言し、ハンガリー政府の面目が丸つぶれになった。それだけでなく、トランプ大統領がメディアをインタヴューで、「ハンガリーへの金融支援」について問われ、「オルバンからそのような要請はあったが、私は何も約束していない」と答え、オルバン政府を慌てさせた。

こうなると、巨額の費用を注ぎこんだワシントン訪問の成果は、「罰則的関税の1年免除だけ」という情けない結果になる。トランプ大統領との同盟を誇り、ロシア-ウクライナ和平交渉の舞台をブダペストに用意して、EU首脳を見返し、Fideszの外交力を有権者に見せつける試みが、ほとんど無に帰したのである。

さらに、10月末から2カ月もの長期にわたって実施されたTisza党の税政策への批判を目的とした国民コンサルテーション(Nemzetikonzultáció)は、有権者の反応が鈍いために11月中旬からネット投票が容認され、政府系メディアやTVでの連日の回答キャンペーンにもかかわらず、最終的に160万通の返送にとどまった。Fideszはこのコンサルテーションを通じて、Fideszの支持状況を把握しようと考えたのだろう。最大限のキャンペーンの張った結果が160万人である。2か月もかけ、ネット投票という二重投票の可能性も導入したにもかかわらず、きわめて低調な結果に終わってしまった。Fidesz支持はほぼ200万と推定されるが、岩盤支持者はそれより低いことを明らかにした国民コンサルテーションだった。

こうしてみると、オルバンFideszにとって、2025年は努力した割にはほとんど成果がない年だったということになる。ラーザール交通大臣は総選挙でのFidesz敗退の危惧を公にしている。口にこそ出さないが、オルバン首相も内心では権力を失う事態を想定せざるを得なくなっている。Fideszが下野しても、なおFideszが国内政治に影響力を与えられる手段は何か。いまFideszが真剣に考えているのは、このシナリオである。総選挙前に法律改正を行って大統領の権限を強め、現在の大統領を辞職させ、オルバンが大統領職に就くというアイディアも、その一つである。ただ、このロシアのような内輪の権力移譲は国民の怒りを買うだろう。そう簡単に実行できるアイディアではない。ここがオルバンの思案のしどころである。

最近の世論調査

メディアンが発表した最新の世論調査結果(次頁図)は、興味深い事実を教えてくれる。

図を上から見ると、次のようになっている。

第1行(全体支持率)。全有権者の割合でみると、Tisza支持が34%、Fidesz支持が32%と拮抗していることが分かる。デジタル市民サークル活動の活性化で、Fideszが支持者を掘り起こしている結果、二つの政党の支持率は接近している。

第2-3行(性別による支持率)。男性のTisza支持が38%でFidesz支持を10ポイント近くリードしているが、女性のTisza支持は32%。Fideszのそれは34%と、女性の有権者の間ではわずかにFidesz支持者が多くなっている。

第4-8行(年齢による支持率)。40歳以下は圧倒的にTiszaの支持率が高く、40-49歳の層で支持率がほぼ拮抗している。50歳以上、さらには65歳以上の層では圧倒的にFideszの支持率が高い。とくに、年金生活者は年金ボーナス(13カ月目の年金)が得られ、さらにFidesz政権が14カ月目の年金ボーナス(4年かけて25%ずつ増額)を約束していることが、大きな影響を与えていると思われる。外国市場で起債して、それを源泉にする年金ボーナスはきわめて無責任な政策である。

もし近々総選挙があるとしたら、どの政党の候補者を支持しますか?

第9-12行(学歴による支持率)。8年制小学校だけの学歴者のFidesz支持率はTiszaを圧倒している。専門学校出身者の支持率でもFideszが優位に立っている。ギムナジウム卒業の学歴者からこの比率は反転し、大学卒業学歴では45%がTisza支持、27%がFidesz支持となっている。

第13-16行(地域別支持率)。首都ブダペストでは、Tisza支持が45%、Fidesz支持が23%と、Tiszaが圧倒している。県都でもTisza支持が40%、Fidesz支持が29%と首都と同じ傾向を示している。その他の中小都市では支持率が拮抗しており、村町ではFideszが10ポイントリードしている。

第17-21行(所得別支持率)。月額所得が10万Ft以下の層ではFidesz支持が圧倒的だが、月額所得が上がる毎に、Tisza支持率が高くなっている。

なお、この調査は10月28日から11月4日にわたって実施された無作為抽出1000名の電話での質問にもとづいている。

バラマキ政策の実態

Fideszは公金をふんだんに使って選挙キャンペーンを行い、権力維持に必死になっている。国立銀行の報告書にもとづきHVGが算定してところ、ここ2年間で、有権者買収のための政策実行に、GDPの2.2%にあたる2兆1700Ftを使っており、そのうち1.9%に当たる部分が家計に直接分配されている。その主要な政策措置はつぎのようなものである。

●家族の免税措置の拡大
●3人以上の子を持つ母親の所得税免税(生涯)
●持ち家・リノヴェーション補助
●警察官への武器手当(現金)
●公務員の持ち家補助
●若者を対象として持ち家スタート政策
●文化・社会施設勤務者の給与引上げ
●14か月目の年金ボーナス

今年度の国家財政赤字はGDPの5%に達する見込みで、さらに総選挙前に予想されるバラマキ政策や政権与党支持キャンペーンで、2026年の財政赤字は膨れあがることが予想される。財政赤字補填のために、外国市場での起債が至上命令になっており、国際金融界におけるハンガリーの脆弱性が高まっている。オルバン首相一行がトランプ大統領に、金融危機に陥った場合の支援の枠組みを提案した背景には、このような事情がある。

Fideszが勝っても、Tiszaが勝っても、ハンガリーにバラ色の将来は保証されていない。それでも、Tiszaの勝利によって、醜くゆがんだハンガリーの政治・経済・社会構造を転換することが、持続的社会樹立の唯一の道だろう。反政府勢力が第二の体制転換と呼ぶ所以である。【ブタペスト通信2025年No.45(12月25日)から】

「リベラル21」2025.12.31より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6944.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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