◆2013.4.15 憂鬱な緊張の日々が続きます。北朝鮮の金正恩独裁政権が核実験とミサイル発射の威嚇・挑発。隣国韓国ばかりでなく、米国・中国・ロシア・日本も牽制球を投げますが、聞く耳を持たず。もとよりこれまでも幾度か繰り返された情報戦・心理戦で、国内矛盾を外にそらす恫喝の色彩濃厚ですが、朝鮮戦争は60年間「休戦」中で、終わっていないことも事実です。油断はできません。韓国が対話をよびかけアメリカも「真剣な交渉を行う用意」とされていますが、緊張は続きます。日本も当事者の一国ですが、拉致問題の進展もないまま、対応は米国・韓国頼り。そのうえ安倍内閣にとっては、安全保障問題論題化のチャンスで、96条改憲から9条「国防軍」問題まで、7月参院選を待たずにアドバルーンをあげ、エスカレートしそうな勢い。尖閣も竹島も一時的に棚上げになったかのように。96条改正問題では東京新聞の13日解説が秀逸。国際比較で言えば、どの国でも憲法改正には厳格な手続きを定めています。
◆北朝鮮の動きとそれをめぐる各国政府の動向は、現代における情報戦の典型です。各国がそれぞれの国の戦略と思惑で言葉の爆弾を投げ合い、発話者・演技者を時にとりかえ、最も効果的なタイミングを狙って、メッセージを発します。でも言葉や発信順序を間違えると逆効果も。世界の面前で権威を失ったりします。韓国ではこの緊迫した局面で、朝鮮戦争の当事者李承晩初代大統領が「建国の予言者」であったか「親日派」だったのかで、歴史論争が起こっています。日本ではしばらく病床にあった日本維新の会石原慎太郎共同代表の復帰第一声が「歴史的に無効な憲法の破棄を」、曰く「憲法改正などという迂遠な策ではなしに、しっかりした内閣が憲法の破棄を宣言して即座に新しい憲法を作成したらいいのだ。憲法の改正にはいろいろ繁雑な手続きがいるが、破棄は指導者の決断で決まる。それを阻害する法的根拠はどこにもない。……思い返してみるがいい、敗戦の後占領支配された国家で、占領支配による有効な国家解体の手立てとして一方的に押しつけられた憲法なるものが独立を取り戻した後にも正統性を持つ訳がどこにあるのだろうか。前文からして醜く誤った日本語でつづられた法律が、自主性を取り戻した国家においても通用するといった事例は人間の歴史の中でどこにも見当たらない。『破棄』という言葉はとげとげしく感じられもしようが、要するに履きにくくなって靴ずれを起こす古い靴を捨てるのと同じことだ」ーー1952年4月28日占領終了・サンフランシスコ条約発効と共に日本国憲法は「無効だ」という乱暴な説です。
◆安倍内閣が企画した4月28日「主権回復の日」は、沖縄県知事・議会ほか多くの自治体が不参加で、むしろ今なお米軍基地が居座る「屈辱の日」として迎えようとしています。ただしその「屈辱」の意味は、沖縄県民と石原慎太郎らでは、正反対です。沖縄が本土から切り離され日本国憲法さえ適用されず米軍直接占領が続いた「屈辱」と、「押しつけ憲法無効」という反中国・反韓国の右翼的「屈辱」が、同居しています。天皇・皇后が出席予定で「政治利用」の疑いも出てきます。北朝鮮や中国・韓国・米国の動き次第で、内向きナショナリズムが強まるでしょう。頻発する地震対策、福島原発汚染水漏れ、TPP交渉の行方など、山積する問題は先送りにされて、外向けに片意地を張るのは、どこかの国に似てきます。60年以上前の朝鮮戦争前夜にも、アジアを舞台とした情報戦が展開していました。韓国の歴史論争で「李承晩=親日派」のみが問題にされているのは、いただけません。この頃の情報戦の主役は米ソ冷戦です。先月末に出た加藤哲郎・井川充雄編『原子力と冷戦ーー日本とアジアの原発導入』(花伝社)では、米国国立公文書館文書「MIS中曽根康弘ファイル」にもとづき、1954−56年「日本における『原子力の平和利用』の出発」における中曽根康弘の役割を論じました。4月19日号の『週刊ポスト』「松本清張の名作ノンフィクション『日本の黒い霧』が読めなくなる!?」では、「『スパイとされた男』の遺族が新資料の後押しで文藝春秋に抗議」の「新資料」の一つとされているのが、私が米国国立公文書館で発掘した1947−51年「MIS川合貞吉ファイル」です。『スパイとされた男』とは、占領期日本共産党の指導者伊藤律です。詳しくは15日ご遺族の記者会見と、4月20日明治大学での第273回現代史研究会講演会にもとづき、次回紹介しますが、関心のある方は、本サイト「世界史のなかのゾルゲ事件」の諸論文と共に、ご注目を!
「加藤哲郎のネチズンカレッジ」から許可を得て転載 http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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