朝日新聞が11月8日の朝刊1面、大野博人・論説主幹の署名記事で明快に特定秘密保護法案の廃案を主張した。「特定秘密法案は、廃案にするべきだ。」の2行で始まるこの記事は、同法案の「最大の問題は『秘密についての秘密』だ。」「政府が一体どんな情報を秘密にしているかも秘密になる。」「『秘密についての秘密』という仕掛けがあれば、秘密の領域はどんどん自己増殖し、社会に不安が広がる」と指摘する。そして、「かつて情報統制が行きわたった独裁政権の東欧やアジアの国々」の国民は「日々の暮らしも、何が問題にされるかわからない不安と、だれが味方で敵がわからないという相互不信でよどんでいた。日本にそんな空気を入りこませないためにも、この法案は通すべきではない」と結んでいる。
また同日の社説でも、「市民の自由をむしばむ」と題して、同法案を「まず取り下げる」ことを要求し、その論拠を改めて詳述している。
朝日はこれまでも、秘密保護法案の危険性を多面的に指摘してきたが、8日の紙面で、同法案に反対し、取り下げ、廃案を求める社論を明確に示した。大賛成だ。勇気づけられ、希望が膨らんだ。
毎日や東京新聞、全国の地方紙では、朝日よりも早く、秘密保護法案に反対し、廃案を求める社論をすでに表明している新聞があるかもしれない。他紙をチェックしていないので、わからないが、朝日だけでなく、他紙も法案全文をはじめ、国民の知る権利と自由を奪い、自由な言論・表現を抑圧する同法案の危険性を読者に知らせる努力をしているはずだ。それにとどまらず、新聞社の社論として、明確に秘密保護法案に反対し、廃案を主張してほしい。もちろんNHKと民放も、もっと同法案の危険性を認識し、報道する努力をするべきだ。安倍政権の広報紙のような読売や産経が秘密保護法案に賛成しても、他紙の大多数が明確に反対し、国民の反対運動がもっと拡大すれば、共産、生活、社民だけでなく、民主党以下の野党と公明も反対か大幅修正に動かし、法案を廃案にするか、情報公開法改正と合わせ、相当な骨抜きができるだろう。
安倍政権発足後、朝日の政権すりよりが目立った。あまりひどいので、もう朝日をやめて東京新聞か毎日に変えようかと思っていた時、週刊ポスト5月17日号が朝日批判の特集記事を掲載した。この特集冒頭のリードはこう書きだしていたー「欧米ではメディアを『ウオッチドッグ』(番犬)と呼ぶ。権力者が市民の権利を脅かそうとすれば、ワンワンと吠えて威嚇する役割を担うからだ。しかし、わが国では、安倍政権に一番吠えていたはずの朝日新聞が声を失い、いつの間にか『権力者の飼い犬』に変わってしまったかのようだ。クオリティペーパーを標榜する大新聞社の”変節“は、人気絶頂の政権への”降伏“を意味するのか」
これを読んで、朝日の政権すりよりへの批判が高まっていることを確信し、朝日社内でも政権すりよりをどう受け止め、それに抵抗するのか、しばらく見続けようと思った。その後社内でどのように論議が行われたのか知らない。しかし、8日の紙面で、甘いかもしれないが、朝日は立ち直った、信頼できると思った。
その8日、衆参両院で安倍首相は NHK会長の任命権を持つNHK経営委員5人に、安倍と同じような保守派を充てる人事を押し通した。委員12人の経営委員会は直接NHKの報道内容に干渉することはできないが、NHKトップの会長人事には、事実上拒否権を持っている。12人中4人以上が反対すれば、会長は任命できないからだ。NHK会長は報道にも、人事にも発言し影響を及ぼすことができる。来年1月に任期が切れる現松本会長は、報道内容に干渉したことも、政府や与党の圧力に迎合したことも、あまりなかったのではないだろうか。このため、来年の会長改選で、安倍首相が再選を望まず、自分好みの新会長を送り込もうとすれば、まず新任の5人を使って松本会長の改選を阻止するだろう。安倍人脈の新会長の送り込みに成功すれば、安倍政権はNHKの報道への干渉を強めるに違いない。
朝日もNHKも、報道現場で頑張ってほしい。それを支援するために、読者・視聴者ができること、やるべきことは多いと思う。
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