2019.4.15 次回更新予定の5月1日はメーデー、世界的には労働者の祭典です。ウィキには、「労働者の日」としてのメーデーは、「1886年5月1日に合衆国カナダ職能労働組合連盟(後のアメリカ労働総同盟、AFL)が、シカゴを中心に8時間労働制要求(8-hour day movement)の統一ストライキを行ったのが起源で、1日12時間から14時間労働が当たり前だった当時、「第1の8時間は仕事のために、第2の8時間は休息のために、そして残りの8時間は、おれたちの好きなことのために」を目標に行われた。1888年にAFLは引き続き8時間労働制要求のため、1890年5月1日にゼネラル・ストライキを行うことを決定したが、1886年の統一スト後にヘイマーケットの虐殺(Haymarket massacre)といわれる弾圧を受けていたため、AFL会長ゴンパースは1889年の第二インターナショナル創立大会でAFLのゼネスト実施に合わせて労働者の国際的連帯としてデモを行うことを要請、これが決議され、1890年の当日、ヨーロッパ各国やアメリカなどで第1回国際メーデーが実行された」とあります。8時間労働制は、1919年の国際労働機関(ILO)創設などで、世界中に広がり、定着しました。
そうです。今年はメーデーを世界に広めた第2インターナショナル結成130年、8時間労働制100年です。第2インターナショナルは、ヨーロッパの社会党・労働党・社会民主党、それに各国労働組合の代表がパリに集まり、完成したばかりのエッフェル塔の下で、国境を越えた労働者の団結と連帯を決議しました。エッフェル塔は、フランス革命100周年を記念したパリ万国博覧会のために建てられた鉄塔で、夜には、三色のアーク灯によるサーチライトでライトアップされ、エジソン発明の白熱電灯で光を放っていました。つまり、20世紀の科学技術の発展を、天まで届く300メートルの鉄塔と電気で象徴し、そうした工業文化を担う労働者階級が、国境を越えて多数派・主権者になると見通されていました。第二インター結成大会は、20ヵ国400名で7月14日、パリ祭の日に開かれました。会場で歌われたのは、フランス革命行進曲「ラ・マルセイエーズ」でした。第3共和制下のフランス国歌でしたが、同時に、労働者の国際連帯でフランス革命の理念「自由・平等・友愛」が世界に広まる時代を夢見ていました。
その第2インターナショナルのなかの急進派が、ILOと同じ1919年、第3インターナショナル=コミンテルンを創設しました。レーニンの指導するロシア革命の勝利を受けて、共産主義を信奉する各国のグループが、「鉄の規律」で結ばれた各国支部=各国共産党をつくり、「プロレタリア独裁」の計画経済による労働者国家樹立を目指しました。創立大会で歌われたのは、もともとフランスの1871年パリ・コミューン時に作られた革命歌「インターナショナル」、アカデミー賞受賞のハリウッド映画「レッズ」が、時代の雰囲気を伝えています。もっとも「インターナショナル」がソ連国歌になって、レーニン死後にスターリンが指導者になって以降、労働時間短縮・8時間労働制は、第2インターナショナルを継承した社会民主主義の労働社会主義インター、戦後社会主義インターをも通じて世界に定着しますが、第3インター=コミンテルンの方は、ソ連共産党とその指導者を頂点とするピラミッド型の組織となりました。労働組合ばかりでなく農民・女性・青年などの国際組織が作られましたが、事実上ソ連の衛星機関・外交的道具となって、戦後の各国共産党と系列下の伝導ベルト型大衆運動組織に受け継がれました。30年前の1989年東欧革命・91年ソ連解体で、コミンテルン型国際連帯は崩壊し、多くの国の共産党は解党して、戦後欧州各国で政権につきケインズ主義的福祉国家を広めてきた社会民主主義の社会主義インターナショナルに、再吸収されました。国際連帯歌「インターナショナル」も、コミンテルンの残滓を受け継ぐ中国や北朝鮮などでは生きていますが、21世紀の世界では、ほとんど歌われなくなりました。
20世紀の「自由・平等・友愛」理念と8時間労働制の定着のもとで、世界では環境運動・女性運動・人権運動・平和運動・市民運動も広がり、21世紀に入ると、新自由主義的グローバリゼーションに抵抗する、新たな水平的・ネットワーク型国際連帯が生まれました。イラク戦争に反対する世界社会フォーラムなどで、国籍・宗教・言語・人種民族を越えて歌われるようになったのは、ジョン・レノンの「イマジン」でした。19世紀「ラ・マルセイエーズ」の「暴君を倒せ」「武器をとれ」でも、20世紀「インターナショナル」の「起て飢えたる者よ」でもなく、「国境なんてないと思ってごらん」「Imagine all the people Living life in peace」というバラードでした。9.11同時多発テロの時期には、それがインターネットでつながり、世界同時キャンドルデモなどで歌われました。
ただし、こうした世界の歩みと、時間的・空間的に区切られた島国日本の歩みは、大筋では似ていても、やや異なるものでした。1922年に政労使でILOに加入した日本の労働側要求は、8時間労働以前の「労働者の人格承認」、まずは人間として扱ってほしいというものでした。その年第3回メーデーから長く歌われたメーデー歌「聞け万国の労働者」は、軍歌「アムール河の流血や」の替え歌でした。ソ連・コミンテルン型「インターナショナル」が崩壊した頃、「大正生まれ」の長時間労働で経済成長を成し遂げ「過労死」を世界語にした日本で流行ったのは、「24時間たたかえますか」というCMソングでした。そして、「失われた30年」を経た今日でも、日本は、国際労働機関(ILO)条約の1号条約(1日8時間・週48時間労働)も、47号(週40時間制)、132号(最低2週間以上の連続した年次有給休暇)・140号(有給教育休暇)」など労働時間の国際基準条約を批准していません。他国では「セブン・イレブン」なのに24時間営業のコンビニが常態化し、この4月に始まった「働き方改革」でも残業や職種による労働時間規制が抜け穴だらけの、異様な国なのです。そこに、外国人単純労働者を引き入れようとしています。つまり、世界で130年近いメーデーには、まずは厳格な8時間労働制と労働時間短縮・最低賃金底上げ・実質賃金引上げが必要なのに、この国の労働組合は、新たな日本固有の時間的・空間的仕切りの年号ができる5月1日をはずして、4月末に第90回メーデーを開催し、「新元号フィーバー」の連休に臨もうとしています。その10連休をまともにとれるのは、働く人びとの3分の1だけ、非正規の日給が減って収入減の人たち、保育所が休みでも働かざるをえないワーキングママ。労働者の国際連帯からも、「イマジン」型社会運動からも隔離され、遠ざかる、悲しい現実です。
今回更新は、4月15日にできていたのですが、どうしてもFTPがつながらず、大幅に遅れました。ドメイン提供のプロバイダーのメールをチェックしてみると、4月契約自動更新のはずなのに、自動引き落としのクレジットカードの方が期限切れになって、ストップされたことがわかりました。キャッシュッレス社会の、落とし穴です。世界とつながるメーデーに、新元号などいりません。せめて連休用に、「ファシズムの初期症候」に抵抗する各種イベントへの参加や、自分の労働についてのまとまった学習・読書を準備しましょう。統一地方選挙では、「主権者たる国民」の選択が問われます。私も、4月18日(木)に東京神田・如水会館で新三木会講演会「日本の社会主義ーー戦前日本の思想・運動と群像」、4月27日(土)早稲田大学戸山キャンパスで桑野塾「731部隊と戦後日本ーー民族優生思想から『不幸な子供を産まない運動』へ」、5月3日(金)岐阜市長良川国際会議場で「731部隊と戦後日本ーー東アジアの平和のために」を、それぞれ公開で講演します。後2者は、 you tube に入っている「731部隊と旧優生保護法強制不妊手術を結ぶ優生思想」と関連する「イマジン」型社会運動の一部です。ご関心の向きは、ぜひどうぞ。
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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