2020.5.1 例年なら、世界の働くものの祭典、メーデーを祝う日です。しかし、ほとんどの国で、パレードは見えません。コロナ前(BC)でもコロナ後(AC)でもなく、パンデミックの真っ最中です。COVID-19のヒト世界侵入はとまりません。また2週間で広がりました。4月14日は感染者は185か国192万人、死者12万人でしたが、4月30日のジョンズ・ホプキンス大学COVID-19Mapでは、2ヵ国増え187ヵ国325万6千人感染確認、死者23万3千人です。最大はアメリカで、623万人の検査中、107万人感染確認、死者6万3千人です。感染者はスペイン21万、イタリア20万、イギリス17万、フランス16万、ドイツ16万、トルコ12万、ロシア10万と続き、イランとブラジルも発症地中国の8万3千人を越えました。死者数は、米国についでイタリア2万7千、イギリス2万6千、スペイン・フランス2万4千で、その一人一人にかけがいのない人生と家族がいることを思えば、ドイツの死者6千人は救命体制の奮闘を示しています。これまで赤点だった中南米やアフリカの感染が、大きな赤丸になって全大陸に広がりつつあり、夏になって気温が上がればといった北半球の人々の希望的観測を、打ち砕きます。世界は、長期のパンデミックのさなかです。
WHOも、警戒を緩めるきざしはありませんが、パンデミックへの対処の国民国家単位での進め方は、いくつかのパターンに分かれてきました。最も極端なのは、スウェーデンの「集団免疫獲得型」です。感染者は2万人近くが確認され、2千人以上が死亡しているのに、ロックダウンも学校閉鎖もなく、50人までならイベント・集会もできます。カフェもレストランも公園も開放で、すでに25%が免疫を得たと言います。ただし、この間731部隊や断種法・優生思想を研究してきた私には、背景に20世紀スウェーデン「優生学」の影が見えます。スウェーデンの「集団免疫」は、高福祉・高負担で政府への信頼厚い小さな福祉国家ならではの、生き残り策です。大国イギリスやアメリカでは、一度は「集団免疫」が口にされても、すぐに大規模検査・陽性者隔離、自由と人権の制限を伴うロックダウン・外出禁止の「欧米型」に切り替えられました。初動が遅れたため、イタリア・スペイン・フランス等では感染爆発・医療崩壊を経験し、それでもワクチンも確かな治療法もない以上、まずは、いのち優先で感染ピークを抑え込み、徐々に自由を回復するしかありません。
このオーソドクスな「検査・隔離」を、初動で素早く発動し、最新医療技術・知見と情報技術・GPS追跡をも駆使して感染ピークを最小限に食い止めたのが、台湾・香港・韓国で採られた「東アジア型」です。台湾のEマスク、韓国のドライブスルーPCR検査などは、欧米でも学ぶべき成功モデルとされました。初動の隠蔽で失敗した中国も、大きな犠牲を払いながら「東アジア型」に乗り換えてピークを越え、いまや外出・移動を可能にし、5月22日には全人代を開くと宣言しました。ただし、「東アジア型」でも、シンガポールのように、外国人労働者からの集団感染を抑え込めない例があり、いずれの国でも、外国からの帰国者等から第二波・第三波の感染が避けられません。パンデミック対策での医療先進国は、日本以外の東アジア、次いでヨーロッパのドイツ、落第国が「消毒液を飲め」など大言壮語だけのトランプのアメリカ、という国際的評価が生まれています。これに、有効治療薬・ワクチン製造の競争が加わって、「コロナ後(AC)」の新しい世界地図が見えてくるでしょう。
ジョンズ・ホプキンス大学COVID-19Mapの感染者数は、正確には「感染確認者数(Comfirmed Cases)」です。地図の左辺にあって、「死者数(Total Deaths)」の右辺には「検査結果数(Total Test Results)」がおかれ、それぞれの国・地域の感染実態が見えるように配置されています。右辺の検査数中の左辺の感染確認者数、いわゆる「陽性率」が見えてきます。この点で特異なのが日本で、感染者数・死者数は韓国を超えましたが、「検査結果数」は一日最高でも7千件程度、累計14万人以下で、感染対策「模範国」韓国の50万人検査結果とは人口比で10分の1で、比較すべくもありません。OECD統計では36ヵ国中35位、1000人あたり1.8人でトップのアイスランド135人と二桁違い。主観的には、遅ればせでも「東アジア型」に加わる出発点にたったように見えますが、医療資源・人材再配置・PCR検査拡大態勢の準備もあやふやで、客観的には、スウェーデンとは比べものにならない大規模な自滅型の「集団免疫」に向かって迷走しているようにみえます。「アジアのガラパゴス」日本です。
その理由は、はっきりしています。政府と「専門家会議」が、PCR検査を重症者のみに絞り、その範囲での公式「感染者数」の増減に、一喜一憂しています。検査数あたりの感染確認者は、事後的にしかわかりません。民間検査機関・大学病院等の器材・人材を導入できず、ようやく心ある医療従事者や現場医師会の声におされて、ドライブスルー検査等が始まったばかりです。院内感染・家族感染が多いのに、「医療崩壊」の語はマスコミではタブーとか。首相が「一日2万人の検査能力」を3か月繰り返していますが、実際はミゼラブルです。多くの人が不安を抱えたまま、検査をあきらめています。ようやく電話が通じても、4日間様子を見てと検査を断られます。ようやくPCR検査にたどりつき、「軽症者」として自宅待機・ホテル隔離に入っても、たちまち重症化し転院するケースや、検査の遅れで死亡に至るケースが、続出しています。どうやら「専門家会議」主流の国立感染症研究所と厚生労働省医系技官の考えた水際作戦用枠組が、いまだに第一線現場に残っているようです。本連載が何度も述べてきたように、感染研の前身、予防衛生研究所は、関東軍731部隊の残党が歴代所長をつとめる形で作られ、基礎データを独占して学界に君臨してきました。今回も、その名残りでしょう。「武漢ウィルス」と呼ばれ欧米の爆発前の3か月前なら、マスク・防護服・検査機器も国際市場で入手可能だったのに、「医療先進国日本」などと驕り、中国・韓国を見下して、輸入もできずにきました。有効治療法・ワクチンづくりでも、遅れをとっています。予防衛生研究所は、広島・長崎の被爆者日米調査(ABCC)、「治療なきデータ収集」の日本側担当機関でじた。その延長上で、上昌広さんのいう「人体実験」が続きます。ファシズムは、感染症対策の名で、忍び寄ります。
日本のパンデミック対策は、悲惨です。国民、特に不安定労働者や社会的弱者に対しては、冷酷です。もともと医療費削減政策で、病院再編・ベッド数削減・保健所減らしを進めてきました。今年度予算にも、13万病床削減予算84億円が入っていました。そこに、黒船コロナの来襲です。中国での発症を「対岸の火事」「貧困な社会衛生による混乱」と軽く見たツケ、初動を「武漢・湖北省」しばり、「クルーズ船」対策に限定し、PCR検査を重症者のみにしてきた「クラスター方式」の無理が、大都市での市中感染を防げませんでした。東京オリンピックの延期が決まると、急に全国一斉休校、東京ロックダウンを言い出し、4月に入って緊急事態を宣言し、ひたすら「自粛」が呼びかけられました。日本政府が「自粛」を言う場合、休業や休校への補償がない、「自己責任」という意味です。感染対策初動の誤りと後手後手手直しの責任を認めず、国民の行動パターンに責任転嫁する布石です。基礎データの根拠が乏しい数式を操作しての「8割自粛」が、その典型です。
4月末にようやく決まった緊急補正予算の性格は、「日本方式」の経済主義的性格を、よく示しています。PCR検査拡大のための直接予算は、わずか49億円。病床削減予算の半分、かの「アベノマスク」466億円の9分の1です。その算定根拠は、3月段階でのPCR検査実績=一日1500人が継続するという前提なそうです。「4日間37度5分以上の発熱」というPCR検査の「目安」、保健所ー地方衛生研究所ー感染研という「帰国者・接触者相談センター」ルートが、依然として主流です。多くの国民が、家賃や明日の食事で困っているときに、一人10万円の一時金で黙らせ、手続きの大変な雇用調整助成金や融資枠の拡大で乗り切ろうとする、お粗末な緊急経済対策です。その上、いつ使えるか分からない将来の「V字型回復」目当てのGO TOキャンペーンには、1兆7千億円です。病院のマスク・防護服も、医療関係者援助も、人工呼吸器やECMOも緊急課題なのに、日本の感染症対策は、曖昧で不徹底、むしろ収束後の「集団免疫」ばかりを夢見ているようです。まずは、医療従事・関係者や「自粛」体制を支えるエレメンタル労働者に、安心して働ける検査を実施すべきです。
緊急対策の問題点の多くは、担当大臣が「経済再生大臣」で、記者会見から「厚生労働大臣」が消えて久しく、トップの首相は経産省出身補佐官・秘書官の作った原稿を棒読みするだけ、という政治の鬱屈に、端的に示されています。その経産省主導愚策の実例を、悪評だらけの「アベノマスク」をケースとして、供給計画・446億円予算・製造企業・ブローカー・私物化の詳細まで分析する「アベノマスクの政治経済学」を準備したのですが、今日もまた「妊婦用布マスク」の不良品4万7千枚・全品回収のニュースが入って進行中なので、次回以降にまわします。忘れてならないのは、この不良品仕分けに、感染対策の第一線で多忙な保健所の保健師が動員されてきたことです。また、胡散臭い製造・納入業者は、731部隊山内忠重と関わる「興和」、妊婦用不良品で明らかにされた「ユースビオ」など5社ばかりでなく、加計学園の足元「今治市タオル工業組合」他、多数にのぼることです。
最新の医学情報、本来の感染対策はどうあるべきかについては、引き続き山中伸弥教授のホームページ、無症状や初期症状にこそ「アビガン」を投与すべきという児玉龍彦さん・金子勝さんのyou tube「 デモクラシータイムス」対談、最新号、それに上昌広さんの厚労省・鈴木康裕医務技官と「専門家会議」の責任追及を、お勧めします。今回は、「感染者数」を問題にしてきたので、最後に、「死者数(Total Deaths)」の真実。日本の現コロナ死者数460人余りは、PCR検査が間に合った「認定死者数」にすぎず、「かくれコロナ死亡者」がいる可能性大です。このことは、自宅孤独死や行き倒れの死後にPCR検査で陽性がわかった多くの事例や、葬儀屋さんがおそれる事態、日本法医学会のいう「死因不明危機」、東京都における「インフルエンザ・肺炎死急増の不気味」などから、ささやかれています。英国『ファイナンシャル・タイムズ』紙は、各国死亡者統計での過去5年平均に比して急増した病名・死因・人数がコロナ・ウィルスによるものではないかと推計し、世界全体で公表値の6割増が新型コロナ犠牲者ではと、発表しています。これは、100年前のスペイン風邪日本人死者数の内務省公式発表を、速水融教授が歴史社会学・人口統計学を駆使して覆した科学的方法で、説得力があります。
「集団免疫」獲得の前に、膨大な犠牲者の屍がうまれます。経済的理由での自殺を含め、貧者・弱者にしわ寄せがくるでしょう。あなたも、わたしも、あなたのご家族・お友達も、すでに「隠れコロナ」で感染源となる可能性があります。くれぐれも、ご自重・ご自愛を!
初出:加藤哲郎の「ネチズン・カレッジ』より許可を得て転載 http://netizen.html.xdomain.jp/home.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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