願わくは、野党議員が一人でも増えることを(続)

――八ヶ岳山麓から(333)――

 参議院議員長野県区補欠選挙は明日(8日)告示される。長野県の地方紙「信濃毎日新聞」「長野日報」は、いずれも事実上の一騎打ちと伝えた。
 信濃毎日新聞(信毎)は3月31日、「羽田氏先行、追う小松氏」という見出しで選挙情勢を解説した。立憲民主党公認の羽田次郎氏(51)は、自民党新人の小松裕氏(59)にかなりの差をつけて優勢と読み取れる内容である。羽田氏は兄雄一郎氏が新型コロナ感染によって急死した経験から検査体制の充実を主張、立憲民主党支持者のほか、羽田氏を推薦する共産党・社民党支持者の9割をあつめ、無党派層も引き付けている(2012・03・31)。また長野日報は羽田氏優勢を断定しないが、懸念材料として、国民民主党が野党共闘の協定内容を問題視していること、羽田氏が父に元首相、兄に元国土交通相をもつため世襲批判があることをあげている(2012・04・01)。
 対する小松氏は衆議院議員2期の経験から、医療と政治の結合、コロナ禍の征服と経済対策を訴え、自民党支持者の7割、推薦を受けた公明党の7割に浸透している(信毎 2021・03・31)。自民党県連は市町村支部や職域支部を中心に小松氏の浸透を図っているが、コロナ禍で集会が開きにくいため、街頭演説の数をこなすなどの対応をしている。小松氏自身は医師として地域医療とコロナ禍に力を発揮すると強調、医療関係の支持団体を中心に支持拡大を図っているが、ただ与党で不祥事がつづく逆風が懸念材料という(長野日報2021・04・01)。

 信毎は羽田氏の優勢を大きく報道したが、これは3月30日にまとめた「電話世論調査(RDD法で2533人を対象にした)」によるものと思われる。同紙が参院補選とは別に、10月21日の衆議院議員の任期満了までに行われる衆院選について投票先をきいたところ、県内小選挙区では「野党系の候補」と答えた人が48%に上り、「与党系の候補」の30%を大きく上回った。長野県内の5小選挙区の現有議席は、自民党が3、立憲民主党が2だが、次期衆院選ではこれが逆転する可能性がある。
  また比例代表の投票先は、立憲民主党が34%で、自民党の29% を5ポイント上回った。ついで共産党が10%、公明党5%、日本維新の会4%、社民党2%、その他の2党は1%ずつとなった。ところが「日頃の支持政党」は、「支持政党なし」が39%と最多。自民支持は23%、立民18%、共産8%、公明3%、日本維新2%、社民1%で、自民支持が断然多数である。もっとも、これを与野党で見れば、支持政党は二分されている。
 なお告示前情勢調査では、有権者の参院補選への関心が「ある」と答えたものは65%、「ない」13%、「何とも言えない」22%である。重視する政策や課題は、「景気・雇用などの経済対策」が24%、「新型コロナ対策」が23%と多く、「医療・福祉・介護」がこれに次ぐ。これを年代別に見ると、「働き盛りの30~50代は『経済政策』が最多となり、60代以上は『新型コロナ対策』がトップ。10代~20代を含めいずれの年代も経済対策と新型コロナ対策を重視している」 という。
 政党別支持者の傾向をみると、自民党は経済対策が32%で最多。立憲民主党は新型コロナ対策が最多の26%だった。公明党は経済対策(28%)、共産党は医療・福祉・介護(27%)が最多、日本維新の会は新型コロナ対策(23%)、国民民主党は経済対策(35%)、社民党は「憲法改正の姿勢」(25%)を最も重視した。
 この結果をふまえて、信毎は、有権者はコロナ禍収束後の展望を求めているとし、「感染対策・経済両立へ論戦を」と呼びかけている。信州人の県民性からして、現実的な政策を提示し論旨明確なものに支持が集まる。すぐれた論争が行われるよう期待したい。

 さて、秋までには行われる衆院総選挙をひかえて立憲民主党幹部に対しては意見がある。
 案の定、連合と国民民主党は、長野県の立憲民主党・共産党・社民党と市民団体が結んだ政策協定に、「日米同盟中心の外交から東アジア諸国との関係改善へ」「原発ゼロ社会めざし、再稼働は認めない」などが入っていることに難色を示し、羽田次郎氏の推薦はできないと不満を言った。
 これに対して立憲民主党代表板野幸男氏は、連合に「(立憲民主党の)長野県連に軽率な行動があり、連合に迷惑をかけた」と詫びを入れた。それで連合は羽田氏支持することになったが、国民民主党は推薦を取消すという。

 思うに、立憲民主党長野県連がやったことは決して「軽率」ではなかった。「軽率」であったのは、あわてて連合に陳謝した枝野代表である。立憲民主党の綱領には「原子力エネルギーに依存しない社会をつくる」という趣旨がある。しかも協定書を二心なく読めば「日米安保をただちに解消せよ」といっているわけではない。「自主的外交」を強調しているにすぎない。
 連合傘下の労働組合員は、立憲民主党にとってどの程度あてになる存在だろうか。かりに幾分かあてになるにしても、政党にも労組にも独自の役割があり、互いに独立した存在であるべきである。われわれは社会党衰退が総評の消滅に連動した苦い経験を深刻に受け止めなければならない。立憲民主党が自主独立の政党であるためには、労働団体に気を使うのではなく、自民党同様日本中の市町村と職域に支部を作る地道な努力をするべきである。

 見たところ、北海道衆院2区補選は自民党が不戦敗としたから、長野と広島の補選で勝てば、立憲民主党は優勢のまま衆院総選挙になだれ込み、自民党政権に大打撃を与えることができる。ところが幹部が動揺したために、はしごを外された形の長野県連は、予定候補者のポスター貼りなど立上がりがおくれ、危機感をもって補選に臨む自民党に後れを取った。
 だがこの参院補選は、羽田次郎氏の父羽田孜、兄雄一郎の比較的固い支持層があり、野党支持の世論があり、共闘優先戦術をとり足のある共産党長野県委が控えている。毅然とした態度で戦う条件は十分だ。
 この見通しを持てば、綱領を曲げてまで卑屈な態度をとる必要はなかった。こんな構え方で立憲民主党は、自民党に代る枝野幸男政権を打ち立てることができると考えているのだろうか。心配である。(2021・04・03)

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