習近平の活動報告を聞く・無味乾燥の2時間弱 ― 中国共産党第20回党大会について 3

 一昨16日、中国共産党の第20回党大会が始まった。最近はありがたいことに毎年春の全国人民代表大会と5年に1度の共産党大会の初日は新華社がネット中継してくれるので、出席者なみの臨場感を味わうことが出来る。
 正規の大会代表だけで2296人、これに加えて党の長老をはじめとする参会者や報道陣その他大勢の傍聴者が入場するから中継が始まってから開会まで小一時間はかかった。最後に会場の拍手の中、習近平以下7人の中央政治局常務委員が席に着き、午前10時に国歌が吹奏されて開会となった。ちなみに昨年来、元女子テニス・プレイヤー、彭帥さんとのセックス・スキャンダルで話題となった張高麗元副首相も舞台上の現役首脳陣のすぐ後ろの長老席に何事もなかったように着席していた。
 議長役は党内序列No.2の李克強首相。議題の第一は総書記の習近平が行うこの5年間の党の活動報告。今度の党大会の焦点は習近平総書記が現行の2期10年までという慣例を破って、どういう形で3選を果たすかだから、それにつながる言葉なり、言い回しが現れないかと会場全体が聞き耳を立てた(はずだ)。
 しかし、というか、予想通り、というか、習近平の演説はいつもながらの平板で厚みのない言葉の羅列が2時間近く続いただけであった。一応、ざっと目を通しておくと・・・・
 まず前回大会以来の5年間について、報告は「きわめて尋常でない、平凡ならざる5年であった」としながらも、「われわれは党の全面的指導と党中央の集中統一指導を強化して、全面的に小康社会を建設することを推進した」、「力を集中して貧困からの脱却戦を実施した」、「国家の安全を固く守り、社会の大局の安定を保持した」、そして「コロナ」については「突如、襲い掛かった新型肺炎に対して、我々は人民至上、生命至上、ゼロ・コロナ政策を堅持し、病疫に対して人民戦争、総体戦、狙撃戦を展開して、人民の生命の安全と身体の健康を最大限に守り・・・・」と、この部分だけで漢字が200字も続く。
 一方、ゼロ・コロナ政策のあおりで経済が大きく落ち込んだことや、恒大集団の危機に見られるような不動産業の斜陽が社会に不安を広げ、また若年層の失業率が高まっていることなど、当面する経済不安については一言も触れずに知らん顔である。
 外交政策はどうか。「中国は独立自主の外交政策を断固として進め、つねに物事自体の理非曲直に基づいて自らの立場と政策を決定し、国際関係の基本原則を守り、いかなる形の覇権主義と強権政治にも断固反対し、冷戦思想、他国の内政への干渉、ダブルスタンダードにも反対する。中國は永遠に覇をとなえず、永遠に領土拡大を行わない」
 これが外交についての書き出しの一節で、まだ後が続くのだが、それは省略する。そして経済でも指摘したように、自らに具合の悪い事象についてはここでもだんまりである。外交ではプーチンのウクライナ侵攻について、中国は限りなく支持に近い立場をとり、これまでロシア軍のウクライナからの撤回をもとめたことは1度もない。そしてまた、国連総会でソ連の立場を批判する決議案などの4回の票決で3回は「棄権」、1回は「反対」(国連人権委のロシアの理事を否認する決議)と、世界の大勢に逆らう態度を一貫してとり続けている。にもかかわらず、その理由を自国民にも説明しないというのは、自ら「大国外交」を称するにしては、口先の建前と実際の行動があまりにかけ離れている。
 中国共産党はこの大会を控えて、先週の12日に「第19期中央委員会第7回全体会議」(19期7中全会)という会議を開いた。前回の党大会で選ばれた中央委員会の最後の締めくくりとして、5年間を総括したのだが、そのコミュニケでは「積極的に中国の特色を持つ大国外交を展開してきた」と述べて、北京冬季五輪などを挙げている中に、「ウクライナ危機がもたらした危険な挑戦に妥当に対応した」という1行がある。
 今回のウクライナ戦争について、中国の政権が自分の行動について説明したのはおそらくこれが初めてである。もっとも説明というほどの内容もないのだが、「妥当に対応した」と言うよりほかに言いようがないのであろう。
 しかし、今となってもこの曖昧な表現以外に言葉がないということは、2月4日に北京で行われた習・プーチン会談で、習近平がプーチンのウクライナをロシアに「取り戻す」という野心に心を動かされ、その成功をはずみに自分も台湾「解放」に手をつけるチャンスが到来したと夢想したことを裏付けているのだろう。「ロシアはウクライナから撤兵すべきだ」とは何があっても言いたくないし、言えないのだ。
 なぜこれにこだわるかといえば、16日の習演説の中で、はっきり言い切った数少ない例の1つが以下の発言なのだ。
 「台湾は中国の台湾である。台湾問題の解決は中国人自身のことである。中國人が解決する。我々は最大の誠意をもって、最大の努力を尽くして平和統一の展望をたたかいとる。この点では決して武力の使用を放棄するという約束はしない。必要なすべての選択肢を保留する」
 大会は23日まで続く。習続投問題、台湾問題、不動産不況などで率直な意見が交わされるのか、あるいはすべては習の思惑通りに進むのか、ここしばらく北京に目を凝らそう。(221016)

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