――八ヶ岳山麓から(469)――
5月3日
護憲団体が統一して毎年憲法記念日に開く東京での憲法大集会の今年の参加者数(3万2000人)は、コロナ禍に沈滞を余儀なくされた護憲運動が再興しつつあることを感じさせたという(本ブログ・岩垂弘氏 2024・05・04)。
開会あいさつで小田川義和氏(戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会)は、「岸田政権は、いわゆる安保3文書で、防衛費を5年間で43兆円とすることや、殺傷能力のある武器の輸出を打ち出した。そればかりでなく、今回の日米首脳会談で自衛隊を米軍の指揮下に置くことに同意した。先ごろの衆院議員補欠選挙では、自民党全敗という結果になったが、これは、自民党政治への国民の怒りの表れと言える。自民党に代わる政府を野党共闘で実現しよう」と訴えた。
わたしは、護憲運動が再興しているという記事に安心した。小田川氏のほか、他の方の発言にも大いに同感した。「アジアと日本を戦争に巻き込む大軍拡と改憲に反対しよう」という主張に何の異議もない。だが、この数年の疑念は消えなかった。それは護憲各方面の主張の中に、中国の軍拡と軍事行動についての言及がないことである。これが護憲派の主張が広がらない原因のひとつではないかとあやぶんでいる。
尖閣諸島をめぐって
たとえば、中国は1992年2月に、領海法を制定した。そのとき尖閣諸島を自国領と明記したのだが、これは中国軍部が強硬に主張したからだということが2023年になってわかった。そのおり、軍部は指導部の外交軍事政策に介入し、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島への武力進出も訴えたとのことである。現在の中国の強引な海洋進出も、軍首脳部の主導する動きとみることができる(信濃毎日新聞 2023・06・02)。
2023年7月に至って、中国は東シナ海の尖閣諸島寄りにブイを設置した。海上保安庁によると、ブイは尖閣諸島魚釣島の北西約80キロ、日中中間線の日本側の位置で確認された。日本政府は外交ルートを通じて中国側に抗議し、即時撤去を求めた。また昨年11月の日中首脳会談や外相会議でも撤去を求めたが中国側は応じていない。
ブイの位置は尖閣周辺の海域である。中国に尖閣諸島の管轄権を既成事実化し、実効支配を演出しようとする狙いがあることは、中国人は「もちろん」というだろうし、立場を変えて日本人のだれにもまた明らかである。
中国と日本の軍拡
ここでは、ちかごろの日中軍拡の現状を見てみたい。
2016年12月、中国メディアは空母「遼寧」の艦隊が、渤海で初の実弾演習を実施したと伝えた。「遼寧」はほぼ30ノット(時速58km余)で長時間航行可能なことが確認されている。2024年現在では、この「遼寧」と「山東」の2隻の空母が就役、もう1隻の空母「福建」は艤装中である。他にも原子力空母2隻が建造または計画中とされている。
軍事的には、海上に浮かぶ空母よりもはるかに重要なのは潜水艦である。潜水艦はその高い静粛性により、敵艦に気づかれずに近づき、攻撃するための戦艦である。そのため秘匿性が高いのが通常だ。現在就役中の094型原子力潜水艦(晋級)は反射型弾道ミサイルを搭載し、4隻が就役している。また、次世代の「096型」弾道ミサイル原子力潜水艦(唐級)の運用を2020年代末までに開始するとの見方が、専門家の間では有力である。「096型」は、ロシアの技術支援を受けて静寂性が飛躍的に向上するとみられ、探知が難しくなり、米国や同盟国にとって脅威が増し、海中の軍拡競争を一段と激化させる可能性があるという。
他方、日本側は、この4月初め、海上自衛隊の大型護衛艦「かが」を「空母化」するための改修が一部終わり、戦闘機の発着が可能となった甲板などを報道陣に公開した。「かが」の大規模改修は、航空自衛隊のステルス戦闘機F35Bを発着可能にするためのものである。防衛省は「かが」と同型の護衛艦「いずも」についても、事実上の「空母化」に向けて甲板に耐熱塗装を施したうえで、F35Bの発着試験を行っている。今年度中に2回目の改修に入り、およそ2年後に完成するとみられている。「いずも」甲板は先日盗撮され、その映像が中国SNS上に登場するという「悲劇」があった。
「いずも」と「かが」の改修について、政府はF35Bで構成する部隊を常時、搭載することはなく、憲法上、保有が許されない「攻撃型空母」には当たらないとしている。空母に「攻撃型」でないものがあるとは思えないが、軍事専門家によれば、そもそも「いずも」型の空母化は、中国がみずから防衛ラインとした第1列島線を越えた中国軍の活動が常態化したからであるという(注)。
注) 第1列島線は、九州沖から沖縄、台湾、フィリピンを結び南シナ海のいわゆる九段線に至る。中国が台湾有事を想定し、米軍の侵入を防ぐ自国防衛の最低ラインとしているものである。第2列島線もあって、これは伊豆諸島・小笠原諸島からグアム・サイパン、ニューギニア島西部に至る線である。数年前までは中国の海洋調査は第1列島線にとどまっていたが、今日では第2列島線をこえる西太平洋一帯に調査海域を拡大している。
東シナ海海域でとどまる程度の活動ならば、「いずも」型の空母化は不要である。ところが、上記のように、近年中国は軍艦を西太平洋に出すだけではなく、戦略・戦術爆撃やミサイル発射母機として使えるH-6爆撃機も飛ばしてくるようになった。当然、日本は防衛上これに対応しなければならないが、専門家によると沖縄をはじめとする陸上基地からのスクランブルでは自衛隊機の航続距離の点から対応が難しい。そこで海上の航空基地である空母が必要になったというのである。わたしは、自衛隊首脳部がとにもかくにも空母を欲しがったという可能性も否定できないと思うが。
海上自衛隊の潜水艦についていえば、「そうりゅう型潜水艦」は通常型潜水艦としては、世界一の性能を持つといわれている。日本は「そうりゅう型」12隻「おやしお型」11隻、「たいげい型」1隻の24隻を保有している(詳しくはWikipedia)。
中国の軍拡について意見をうかがいたい
中国は経済成長と共に、アメリカに追いつき追い越す「世界第一の強国」をめざして大軍拡を行なっている。中国の今年の国防費は、経済不振にもかかわらず、去年よりも7.2%増えて1兆6655億人民元、日本円で34兆8000億円余り、世界第2位である。ちなみに、日本の2024年度 防衛費は過去最大の7兆9496億円(米軍再編関係経費などを含む)である。
日中・米中関係が良好ならば、こんなカネは使わなくても済む。日米と中国は軍拡のジレンマに陥っているのである。そこで、護憲勢力が日米両軍の統一指揮、岸田大軍拡を批判するのは当然だが、同時に中国の大軍拡にも批判の目をむけるべきではないかと、わたしは考える。
改憲阻止のためには日米両国政府批判で十分だという見方があるかもしれない。だが中国の軍拡に言及しないままでは、護憲勢力は中国の軍事進出を意図的に見逃している、あるいは中国に加担しているという、改憲派の批判に口実を与えると思う。この問題について、読者諸兄姉はどのようなご意見をお持ちであろうか。是非うかがいたいものである。 (2024・05・05)
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