――八ヶ岳山麓から(508)――
フジテレビのガバナンス
週刊文春報道に端を発したタレント中居正広の絡むスキャンダルが巨大企業のフジサンケイ・グループの中核であるフジテレビ・トップの2人の辞任に発展した。信濃毎日新聞(1月28日)は、「なぜ誰も止められなかったか」と2頁にわたって論評と解説を掲載した。気になった部分を記すと、
――企業のコンプライアンス(法令順守)に詳しい弁護士の郷原信郎さんは「長くトップを務めた実力者が経営の一角に長年止まり続けた場合、会社がその人の主義に染まったり、周囲が発言に忖度したりするなどして、ガバナンスに負の影響をもたらす可能性はある」と指摘する――
共産党も
わたしは、これを読んだとき、「あれ?」と思った。1月27日の本ブログで広原盛明氏が共産党の衰弱を嘆いて、ほとんど同じことを書いていたからである。
――(共産党の後退は)23年の長期間にわたって委員長ポストにあった志位氏が、委員長交代後もなお議長ポストに居座り続け、党を代表して数々の見解を表明するとか、外国訪問を繰り返すとか、党首交代の刷新感がいっこうに感じられないことも大きな原因になっている。不破前議長が90歳を越えるまで党指導部の地位にあったこと、浜野副委員長が90歳を越えてもまだ現役であることなども、共産党が新陳代謝できない硬直的組織であるとの印象を強めている――
大株主のダルトン・インベストメンツは、フジサンケイ・グループ役員の平均年齢が72.4歳であること、日枝氏が40年も取締役の地位にあることなどを批判し、日枝氏の辞任を要求したが、志位氏の幹部在任期間も、長すぎるのは広原氏のいう通りである。志位議長以下副委員長クラスまでの9人をみると平均67.歳、委員長の田村智子氏が59歳、副委員長の田中悠氏が42歳だけで、7人は60歳以上である。浜野氏の90歳は論外だ。
個人崇拝
メディアはフジサンケイ・グループの日枝久取締役相談役を「天皇」というが、記者会見ではそれがもろに現れた。肝心の日枝氏が記者会見に出席せず、「御簾をへだてて」別室で会見を見ていたことが第一だ。第二は、同グループの4人の取締役が、いわば同じ取締役である日枝氏に対し敬語を使っていたからである。
同じことは「赤旗」紙面からも見て取れる。志位・小池両氏の記事はことさらに大きく紙面を占領し、記者の書く記事をつぶすことはなはだしい。とくに志位氏の新年談話は紙面5頁に及ぶ長いものであった。この全文を読んだ読者がいるだろうか。これでは「赤旗」読者を増やせというほうが無理だ。しかも、インタビューをした小木曽編集長らの志位氏への「賞賛」と「敬語」からは卑屈な感じを受けた。
さらに、志位氏が「社会主義と自由な時間」に言及すると、「赤旗」には、にわかに「自由な時間」という文言があふれるようになった。2025年夏の参院選用ビラにあった政策の第一項目も「自由な時間が保障される社会を」となっている。
「労働時間の短縮」は重要だが、これが有権者の切実な要求だと思うか? 維新の会や国民民主党の「高校授業料無償化」や「所得制限178円」よりも魅力があると考えるのか。それよりも志位氏の意向を忖度することの方が重要だったか。
理論分野の混迷
共産党は理論分野でも混乱している。
たとえば2000年に不破哲三委員長(当時)が、それまで「自衛隊解散論」だったのに、「急迫不正の侵略には自衛隊を活用する」と発言した。ついで2015年、志位委員長(当時)は外国特派員協会で安保条約第5条発動、つまり米軍と自衛隊の共同作戦を認めるといった。
ところが、「赤旗」は、いまも日米安保条約と自衛隊に対して否定的な報道を続けている。先の志位発言との関係はどうなっているのか説明したことはない。
また不破哲三議長(当時)は2009年の「日中理論会議」で、中国は4兆元という緊急投資によってリーマンショックをうまく切り抜けたとして、胡錦涛政権を高く評価した。ところが20年28回党大会では、不破氏は志位委員長(当時)とともに、中国は2008年以来、新しい大国主義、覇権主義の誤りに陥ったと、中国を厳しく非難した。目の前の鳥をある時はサギだといい、しばらくしたらカラスだという。
不破氏は前後矛盾する主張について何の説明もせず、党大会もつじつまの合わない氏の発言を問題にしなかった。すでに、幹部の間では上のいうことはなんでも正しいという「党風」ができあがっている。
財政の危機
2月2日の「赤旗日曜版」のビラには「赤旗」100万人の読者、日刊紙刊行維持のための10億円募金の訴えがあった。いままでわたしは、機関紙発行の危機というと募金にすぐに応じたが、今回はためらっている。「焼け石に水」の感じがあるからだ。
日刊紙は年間10数億円の赤字だという。そうなら今年カンパが10億円を突破しても、来年もまた刊行の危機が来る。そのほか、党本部改修で5億円の募金。参院選での供託金4億円没収、「赤旗」システム改変で億単位のカネが必要だという。志位氏が外遊にカネを使う一方で、地方によっては専従者の賃金支給が滞りがちだとも聞く。いくら「革命家」でも腹が減ってはいくさはできない。
共産党はどういう金の使い方をしているのか。党員や支持者が力尽き、カンパができなくなったらどうするのかね?この際、党中央の損益計算書とバランスシートとともに、幹部会から地方専従者までの賃金を公開したらどうか。そうしたら財政再建のアイディアが党員から出てくるかもしれない。わたしは、赤字続きの日刊紙はただちに廃刊してネット版に切り替え、思い切って政党助成金を受け取るという道もあると思うが。
最高指導者に矜持はあるか
さきの信濃毎日新聞の記事を再度引くと、
――フジOBでドキュメンタリー監督の大島新さんは、フジ黄金期を支え「雲の上の存在」だった港氏らが、バブル期の感覚を引きずったまま経営陣に残ったことが、世間の感覚とのギャップを広げたと指摘。その象徴的存在が、日枝氏だとみる。「この10年ほど視聴率や業績が下がり、当然経営責任を取らないといけないのにトップとして君臨し続けた」――
志位氏も日枝氏に見劣りしない。この20数年何回国政選挙に負け続けても、「路線が正しいのだから辞任する必要はない」と公言したほどの政治感覚の持主だ。傲慢なのか世間知らずなのか。このほどダルトン・インベストメンツは、3度目の書簡を送り日枝氏の辞任を求めたという。共産党には「王様の耳はロバの耳!」と叫ぶ人はいないのか。
(2025・02・03)
初出:「リベラル21」2025.02.10より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6680.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14096 :250210〕