中国は日米首脳会談をどう見たか

ーー八ヶ岳山麓から(510)ーー

石破総理大臣とトランプ大統領は日本時間の2月8日にワシントンで首脳会談を行い、共同声明を発表した。中国外務省は共同声明の自国に関する部分に鋭く反応した。これをロイター通信は次のように報道している。

中国外務省は2月10日、日米首脳会談で中国に関する「否定的な」言及があったとして、劉勁松アジア局長が在中国日本大使館に対して「厳正な申し入れ」を行い、「強烈な不満」を表明したと発表した。日米首脳会談後に発表された共同声明は、中国が東シナ海で力による現状変更を試みるいかなる行為にも反対すると改めて表明し、台湾海峡問題の平和的解決を呼びかけた。

中国外務省の郭嘉昆報道官は記者会見で、共同声明について、中国を「攻撃し、信用を失墜させた」と非難し、「中国の内政への公然とした干渉」だ……「われわれは米国と日本に対し、一つの中国の原則と各国の約束を守り、中国の内政への干渉を直ちにやめるよう強く求める」と述べた。

台湾の頼清徳総統は日米共同声明を歓迎し、「今後も地域の平和と繁栄を促進するため、米国、日本、その他グローバルパートナーと協力するという、われわれの決意は今後も揺るぎない」とXに投稿した(2025・02・10)。

中国外務当局が怒った日米共同声明の中国に関する部分は以下の通りである。

――両首脳は、中国による東シナ海における力又は威圧によるあらゆる現状変更の試みへの強い反対の意を改めて表明した。両首脳は、南シナ海における中国による不法な海洋権益に関する主張、埋立地形の軍事化及び威嚇的で挑発的な活動に対する強い反対を改めて確認した。 両首脳は、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調した。両首脳は、両岸問題の平和的解決を促し、力又は威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対した。

また、両首脳は、国際機関への台湾の意味ある参加への支持を表明した。

中国外務省の共同声明への抗議と同時に、中国共産党機関紙人民日報傘下の国際紙環球時報は、2月10日中国国際問題研究院アジア太平洋研究所特聘研究員の項昊宇氏の論評「日米が『新たな黄金時代』を開く可能性はどの程度あるか」を掲載した。

項昊宇氏はもともと外交官で、駐日中国大使館にも勤務したことがあり、日本問題の専門家である。氏の環球時報紙上の論評を中国政府のほぼ公式見解と見て間違いはないと思う。その概略は以下の通り。

日米首脳の共同声明は、バイデン時代に比べて大幅に縮小され、トーンも低くなり、「インド太平洋地域における平和、安全、繁栄の礎石」としての日米同盟の立場を再確認しただけで、主に防衛安全保障、貿易・投資、協力の3つの側面と「インド太平洋」地域での協調におよんだものだが、新しいアイデアはなかった。

日本側の主導で東シナ海と南シナ海での中国を非難し、再び公然と台湾問題に干渉し、同時に日本は第2期トランプの任期中、対中国急先鋒の役割を果たすことを示した。

日本側は、事前にはトランプの出方がわからず、厳しい要求の連発を警戒したが、日本側がまず求めた首脳間の信頼関係の構築は達成された。記者会見でのやりとりから判断すると、石破茂はトランプに好印象を残したようだ。この目的達成のために、日本側は事前に多くの準備をし、「宿題」をやり遂げるために苦心した。

日本のメディアは、石破茂と外務省関係者が週末の非公開リハーサルで、対トランプ「戦略」のために、石破茂の話し方をトランプ好みに変え、また日本が米国経済に貢献していることを示すために図解やイラストの準備を綿密に行ったと伝えた。

トランプの歓心を買うため、石破は、日本が対米投資を1兆ドルに拡大し、米国産液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすとし、さらにトランプを日本に招待した。日本が全面的な好意を表したのにたいして、トランプ側も「やわらかに出て」、関税や防衛費負担やその他の要件を明示せず、日本側をほっとさせた。

トランプの大統領任期1期目には、安倍晋三がトランプと個人的に親密な関係にあったおかげで、日本は「トランプ・ショック」に見舞われなかった。バイデン時代には、日本は中国を抑制するためにアメリカが推進する「インド太平洋戦略」のさきがけとなり、米国の最も緊密な同盟国のひとつであった。それゆえ、バイデン政策を覆すと宣言したトランプの復帰によって安倍時代なみの待遇を失うのを恐れている。

トランプは共同記者会見でも対日貿易赤字に言及し、自動車分野を中心にバランスの取れた貿易を実現できなければ日本に関税を課すことを示唆した。新日鉄のUSスチール買収をめぐっては、トランプは「買収」を「投資」に置き換えることで両者のコンセンサスが得られたと主張した。

だが、日本は米国の主要な貿易赤字国の一つであり、海外に最大の米軍駐留拠点を持つのだからトランプは「アメリカ・ファースト」の理念から、今後、経済・貿易や防衛費分担の問題で日本に高い負担を強いることは必至である。

今後の日米関係は、米中関係や地政学的環境の変化にも影響される可能性がある。ただひとつ確かなことは、トランプ大統領1期目のように首脳間の緊密な交流に依存した日米間の「蜜月」関係の復活は困難であり、バイデン時代に日米が互いに依存し合った「筋金入り」の日米友好関係の維持も難しく、日米関係の将来は大きな不確実性に直面するだろう。

項昊宇氏の論評は、共同声明が南シナ海・東シナ海、それに台湾の問題に言及したことを内政干渉だと批判してはいるが、石破氏がトランプ氏に2027年度後も抜本的に防衛力を強化していくと約束したこと、米軍辺野古新基地建設の着実な実施に言及していること、それが中国を軍事的目標にしていることへの激しい非難のことばはない。

昨年11月日本人の中国入国ビザを免除し、今年2月に入って尖閣諸島周辺のEEZ(排他的経済水域)内に設置していたブイを移動させたことなど、中国が対日関係を和らげようとしていることは明らかである。だが、これが中国のコロナ・パンデミック以来の長引く景気低迷、外国資本の中国からの脱出と関連があるかないか、わたしには確信をもって何か言うことはできない。

ところで、日米首脳会談に直接関係がないとはいえ、一連のトランプ発言には中国排除の中身がある。ガザ・ウクライナ戦争はさておき、たとえば不法移民の強制追放、気候危機を前にしたパリ協定からの脱退、パナマ運河の領有、カナダのアメリカへの編入、グリーンランドの獲得などである。これについて一言あってもおかしくはない。

項氏はこれに触れないかわり、トランプ政権を警戒した日本側が会談前に詳細な準備をしたことをいちいち取り上げ、石破氏が卑屈な姿勢で会談に当ったことをことさらに詳しく述べている。日本の対米従属ぶりを笑っているのである。項氏だけではない。わたしの中国で教えた学生の中には、「日本外交は簡単だ。アメリカとの関係がうまく行けばそれでいいのだから」というものがいた。

項昊宇氏は日米首脳会談を検討した結論として、日米関係が「新たな黄金時代」を開く可能性は疑わしい、将来大きな不確実性に直面するという。たしかに、かなりの日本人も日本経済はトランプの嵐に漂流せずにやっていけるのかという不安を抱いている。

だが、それは日本だけではない。EUもASEAN諸国も同じである。対米貿易において最大の黒字国中国もまた例外ではないのである。

初出:「リベラル21」2025.02.22より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6690.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14114:250222〕