幹部も間違う共産党の安保政策

――八ヶ岳山麓から(521)――

SNS上で、「自衛隊訓練は『人殺しの訓練』 家族会『強く憤り』抗議、県議団は謝罪」という記事を見た。

滋賀県議会の中山和行議員(共産党)が本会議で、自衛隊の訓練を「人殺しの訓練」と発言した。これに県自衛隊家族会が4月15日までに強く抗議、「県議会で厳正に対処を」と有村國俊議長に求めた。これについて、4月18日の県議会議会運営委員会で、共産党県議団の節木三千代代表が「不適切な発言だった。おわびしたい」と謝罪した(04・18 京都新聞)。

21日、共産党の小池晃書記局長は記者会見で、この発言について「不適切」との認識を示し、「私自身は自衛隊を『人殺しだ』と思ったり、言ったりしたことはない」と述べたという。

2016年6月のNHK「日曜討論」で、共産党の藤野保文政策委員長が防衛費について「人を殺すための予算」と述べたことがある。これは参院選中の安倍晋三首相を喜ばせ、「自衛隊に対するとんでもない侮辱ではないか」「民進党は、この共産党とまさに一体となってこの選挙区でも戦いを進めている」とはげしく非難した。

6月28日、藤野氏は発言を撤回して自衛隊にわび、党の方針と異なる発言をしたとしてとして政策委員長を辞任した。

中央政策委員長、県議という地位の党員がなぜこんな発言をしたか。――共産党の安全保障政策があいまいになっているからである。

共産党は米ソ冷戦時代の1960年代は「中立自衛」をとなえた。「中立」というのは非同盟のことである。そうはいっても、当時はアメリカは戦争勢力、社会主義国家は平和勢力という世界観が前提だった。社会党もソ連・中国寄りだったが、「非武装中立」をとなえた。

わたしは「非武装」は無責任だという共産党の主張を支持した。

1989年ベルリンの壁が崩壊し、中国で天安門事件が起り、翌90年に東西ドイツの統一が実現して冷戦が終了した。92年にソ連が崩壊したとき、共産党の宮本顕治議長はソ連を称賛した過去を反省することなく、「(ソ連という)巨悪の消滅をもろ手を挙げて歓迎する」といい、その一方で「アメリカ帝国主義の本質は変わらず、冷戦は終わっていない」と主張した。この主張は世論からは浮き上がり、党員学者からも冷笑された。

それから2年後の1994年、20回党大会では憲法九条の遵守が決定された。「中立自衛」から事実上「非武装中立」への転換である。自衛隊は解散し、急迫不正の侵略に対しては、「警察力、住民の自主的自警組織」さらにはストライキをもって戦うということになった。

わたしは、軍事事情についての知識が少しでもあれば、こんなバカなことをいうはずはないと思った。それでも共産党が日米安保条約と地位協定の廃棄・日本の独立というスローガンを維持していたから不満を言いながらも共産党を支持した。

ところが6年経った2000年11月22回党大会において、またまた突然、自衛隊の解散は将来のこと、過渡的な時期には急迫不正の侵略に自衛隊を活用すると決定した。自衛隊活用論の登場である。わたしはこれを歓迎したが、その後の藤井・中山発言を見ると、これが全党員に路線転換と意識されたかははなはだ疑問である。

次いで、共産党は2004年の23回党大会で綱領を改定した。「自衛隊については、海外派兵をやめ、軍縮の措置をとる。安保条約廃棄後のアジア情勢の新しい展開を踏まえつつ、国民の合意での憲法九条の完全実施に向かっての前進をはかる」と記された。

これは自衛隊の存在を前提に活用論を表に出さず、憲法九条をうまく丸め込んだ文章である。こんなどうとでももとれる文言になったのは、この綱領改定を主導した不破哲三氏などが、自衛隊活用を明記すれば1994年以来「憲法9条の遵守」を原則として活動してきた党員の反発を食らうのを怖れたからではないかと思う。だが、この忖度が間違いのもとだった。

さらに、2015年10月15日志位和夫委員長は外国人特派員協会において、日本に対する武力攻撃が発生したときは自衛隊を活用するとし、「(安倍晋三内閣の安保法制に反対する)国民連合政府としては安保条約は凍結、日米共同の対処を謳った第5条にもとづいて対応する」と明言したのである(「赤旗」 2015・10・17)。

安保条約第5条の発動とは、日米共同作戦である。これは共産党も、自民党その他の政党と同じく中国を敵視する戦略に転じたことを意味する。さらに2017年10月には党首討論会で党としては自衛隊は違憲という立場だが、「(共産党が加わった)政府は合憲という立場をとる」と発言した。22年5月にも同様の発言をしている。

さて、2000年の党大会決定と2004年の改定綱領、その後の志位委員長らの発言に照らせば、藤野保史、中山和行両氏の発言は党の方針に明らかに反するものである。なぜ最高幹部、地方議員がこんな認識だったのか。

わたしは、2016年の藤野氏の辞任当時、「赤旗」配達の党員に藤野発言をどう思うか聞いたことがある。答えは「藤野氏は正しい。辞任は民進党との関係で仕方がないが、藤野発言は自衛隊の本質をついている」という答えだった。わたしは共産党の自衛隊に対する政策は変わっているが……」と言ったが、その人は納得しなかった。

さらにその後、「志位さんは国民連合政府では安保条約第5条を適用するといっているがどう思うか」と親しい党員に聞いたことがあるが、意外そうな顔をして「そんなばかなことはない」と答えた。この人は本当に路線変更を知らなかったが、別な党員は「国民連合政府のもとの政策だから問題ない」と答えた。

藤井政策委員長の発言は、志位氏の自衛隊活用論・「安保条約第5条の発動」発言への反発が頭の中にあって、不用意に「人殺し予算」と口走ったものと思う。中山県議の場合は、彼の頭が「憲法9条の擁護路線」以来切り替わっていないからである。

2004年の綱領改定以後も、「赤旗」には防衛予算・軍備拡大反対、米軍・自衛隊への批判というより否定的記事が毎週のように掲載されているから、共産党は憲法9条の遵守、日米安保条約の即時廃棄、自衛隊の解散といった路線であるかのような印象を受ける。つまり、藤井・中山両氏の発言は今日の赤旗記事からすれば、少しも違和感がないのである。

別の角度から見れば、赤旗の編集方針は2000年の決定、2004年の路線すなわち今日の綱領に違反している。にもかかわらずこの編集方針が続いているのは、志位・小池など最高幹部がこれを認めているからである。それでいて小池氏が「私自身は自衛隊を『人殺しだ』と思ったり、……したことはない」というのは自己撞着である。

都議選と参院選を間近に控えた今日、共産党の中央は台湾有事を含めた安全保障政策はどんなものか、たとえば今も自衛隊活用論を維持しているのか、国民連合政府でも自公政権下でも、安保条約第5条の適用を認めるか否かといったことについて、あらためて明らかにする必要があると思う。そうでなければ、一般党員はもちろん、周辺の支持者も共産党の防衛政策について自信をもって有権者に語ることができないだろう。 (2025・04・25)

初出:「リベラル21」2025.5.1より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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