低調な「ウクライナEU加盟反対意見聴取」
Fidesz オルバン政権の支持率が停滞する中、マジャル・ピーテル率いるTisza党の支持が広がっている。一部のメディアでは、Tisza 党が三分の二の議席を確保した場合に、何が起きるかを議論している。国立銀行が設立した財団を巡る腐敗も、すでに政権に十分な余震を与えている。Fidesz 政権で甘い汁を吸ってきた企業グループや個人は、Tisza 政権樹立の場合の資産没収や訴追を恐れ、現政権の継続のために決死の支援を行っている。
国民投票を模した「国民意見聴取」と銘打った「ウクライナEU加盟反対」キャンペーンは、すでに投票用紙の返送が始まって 1 か月も経つのに、返送数がようやく50 万を超えたところだ。あらゆる媒体を使い、連日猛烈なキャンペーンを張りながら、1か月でようやく50万人が返送しただけという低調さに、Fidesz政権は慌てている。多くの国民は焦眉の課題でもないウクライナのEU加盟問題を、ことさらに取り上げる政権の意図を見抜いている。
これほどまでに政府の政策に支持がないとは思ってもいなかっただろう。法律にもとづく「国民投票」だったとすれば、政府の惨敗となるところだった。政府はこのキャンペーンを通して、Fidesz 陣営を動員して、危機感を煽り、現政権からの離反を防ごうとしているが、このまま低調に推移すれば、Fidesz政権は赤っ恥をかくことになる。
間の悪いことに、ウクライナがハンガリーのスパイ摘発を行った。専門家によれば、ハンガリー国境地帯のウクライナの防空体制情報はハンガリーにとって必要な情報ではなく、ロシアが南部から攻め込む場合に必須の情報だから、ロシアが必要とする情報だとしている。プーチンへの情報提供を目的としたものと考えるべきというのが、その含意である。
ところが、Fidesz 政権はこの事件に逆上している。問題の真偽を論じることなく、ハンガリー政府は即座に外交的措置をとっただけでなく、ブダペストで大掛かりな「ウクライナ・スパイ」摘発を行い、ウクライナのスパイ網とTisza党やマジャル・ピーテルとつながりがあるとする情報を意図的に流している。プーチンへの情報提供を半ば認めたような対応である。
与党 Fidesz の政治家は、「国民意見聴取」が進まないのは、投票用紙が入った郵便物を、野党の活動家が郵便箱から盗んで廃棄しているからだと主張し、電話やメイルで投票用紙の再郵送依頼を行うことを勧めている。これで投票の公正さが保たれるわけがない。投票用紙が届いていないと連絡すれば、何度も投票用紙が送られてくるのだ。
とにかく、今の投票用紙返送のテンポでは政権の汚点になるだけでなく、「ウクライナのEU加盟反対」の政府の立場が崩れるので、1通でも多くの回答を集める必要に迫られている。今更ながら、1日の投票で終わる正式な「国民投票」でなくて良かったと思っていることだろう。Fidesz 政権には取り返しのつかない決定的な敗北になるところだった。これが、法にもとづく国民投票ではなく、政府が恣意的に実行できる「国民意見聴取」キャンペーンを2か月にわたって行っている理由だ。
これまでの「国民コンサルテーション」と同様に、Fidesz 政権は最後の数週間に、あらゆる手段を使って投票数を増やすことに力を注ぐだろう。大方、締め切り間際に100万通を越えて、これまでとほぼ同数の120~130万通程度の返送が寄せられることになるだろうが、すでにこの政治的模擬投票は茶番になっている。
オルバン・ヴィクトルの「虫けら退治」
3 月15日の3月革命記念日でオルバン首相が公言した「虫けら(政府批判者)退治」の第1弾が、5月になって放たれた。ロシアの「プーチン令」にならったNGO等の団体活動禁止を目指す法案の国会上程である。
国外から補助金を受け取るNGO、各種団体、メディアはハンガリーの主権を犯している「外国の代理人」の可能性があるから、それぞれの団体がどこからどれだけの支援を受け取っているかを主権庁に届ける必要がある。その際に、責任者や執行部メンバーの氏名を主権庁に登録し、さらにそれぞれの個人の資産を公開する必要がある。主権庁の判断でそれぞれの組織の合法性を判断し、これらの義務を怠ったと判断された団体・個人は厳罰に処せられ、ハンガリーの主権を犯していると判断された団体は解散させられる。
これがいわゆる「トランスペアレンスィー法」と名付けられる法律案だが、反体制派を弾圧したロシアのプーチン政権が行ったのと同様の法律制定である。
オルバン・ヴィクトルが狙っているのはこれだけではない。最終的な目標は、Tisza 党党首のマジャル・ピーテルである。ここ最近、オルバン・ヴィクトルは、Tisza 党を「ブリュッセル党」と呼び、ハンガリーの利益を代表していないと主張している(Tisza が「ブリュッセル党」なら、Fidesz は「モスクワ党」だが)。Tisza党が外国から資金援助を受けている、マジャル・ピーテル個人が国外から資金援助を受けていると認定し、来年の総選挙からTisza党とマジャル・ピーテルを排除することが最終目標である。ロシアだけでなく、トルコでも使われている常套手段である。
ただ、ロシアやトルコと違うところは、もしオルバン政権がTisza党とマジャル・ピーテルを総選挙から排除することを決定すれば、ハンガリーは騒乱状態になる可能性がある。まさに社会党ジュルチャーニ政権崩壊の原因となった2006年の騒乱と同様の社会現象が起きるだろう。したがって、Fidesz 政権内部でもこの強硬手段を取るかどうかについて、簡単に意見が一致するとは思われない。ただ、16 C年も続いた権力を喪失することへの危機感はすべての理性を失わせる。とりわけ、絶対権力者のオルバンには受入れ難いことだろうが、オルバンの狂気が自らの政治生命を断つことになるかもしれない。
すでに欧州委員会と欧州議会はハンガリーの「トランスペアレンススィー法」提起の取り扱いを注視しており、Fidesz が国会決議を強行した場合には、ハンガリー政府に欧州委員会から投票権制限などの厳しい厳罰が下される可能性があり、今後のハンガリー政局から目が離せなくなっている。 (5月19日)
初出:「リベラル21」2025.5.21より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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