ハンガリーの政治情勢が流動化している。国立銀行総裁一家の横領事件のような Fidesz 政権のスキャンダル、オルバン一家の蓄財と贅沢三昧、Fidesz 政権の公共事業受注で焼け太ったNER企業所有者の豪勢な生活ぶりが反政府系メディアで連日報道されるなか、Fidesz 支持率に大きな変化は見られないが、マジャル・ピーテル率いるTisza 党への支持の拡大が顕著になっている。
このため、Fidesz 政権は状況打開と現状の支持動向を見極めるべく、「ウクライナのEU加盟反対」の疑似投票を実施している。インターネットを含めた各種メディアで「反対投票しよう」と呼びかける、なんとも不思議な投票キャンペーンを 2 カ月にわたって継続している。
最初の1か月で、100万をわずかに超える「投票用紙」の返送しかなかったことに慌てた Fidesz 政権は、野党の活動家が投票用紙を盗んでいると主張し、電話での投票用紙の再送依頼やメイルでの投票を促し、二重三重の投票を重ねて 200 万の意見表明があったと主張している。これにたいして、野党はまさにラーコシ時代と同じ手法を使って、架空の世論を作り上げていると厳しく批判している。
このところ、政府から補助金を受けている世論調査会社は調査結果を発表していない。Fidesz 政権の劣勢を報じたくないからである。そんなことをすれば、補助金が削減されるからだろう。
独立系機関の世論調査は、Fidesz政権支持率が横ばいであるのにたいし、Tisza党への支持は大きく広がっていることを示している。Fidesz の政治家は事態の深刻さを感じており、情勢転換の方策を探っているが、いまのところ墓穴を掘る政策しか打ち出せていない。また、盲目的で熱狂的な Fidesz 活動家はマジャル・ピーテルの活動を妨害し、イャセンスキー元外務大臣襲撃のように反 Fidesz の知識人や政治家への攻撃を強めている。

マジャル・ピーテル率いるTisza党が政治の舞台に現れた2024年の欧州議会選挙では、Fidesz支持が26%、Tisza支持は18%だった。それから1年後の今月、Fidesz 支持は微増したが、Tisza のそれが倍増した結果、支持率は逆転し、Tisza 党が Fidesz を 10 ポイント離している。
とくに知識人層の高いブダペストでは、Fidesz の岩盤支持率21%に変化はないが、Tisza のそれは21%から49%へと大幅に増えている。政権交代を望み、Tisza にその願いを託しているからである。同様に、県庁所在都市での支持率も、Fidesz は3 ポイントしか増やせなかったのにたいし、Tisza のそれは21%から46%へとダントツの勢いで増えている。ブダペストおよび大都市でのFidesz の劣勢は明らかで、Tisza党がFidesz の倍以上の支持率を得ている。

中小都市でも同様の傾向が見られ、Tisza の支持率(34%)はFidesz の支持率(28%)を上回っている。Tisza のそれは前年の倍増である。
これまでFidesz が圧倒的に強みを発揮していた町村では、Fidesz 支持率が1 ポイント増えて33%になったのにたいし、Tisza のそれは14%から32%へと倍増し、ほぼFidesz と拮抗するまでになった。
Fidesz の岩盤支持層である地方の市町村での不人気が高まっていることが観察される。
総じて、Fidesz には熱狂的な岩盤支持者層が存在し、とくに年配者や田舎の住民にはオルバン首相の熱狂的支持者が多く、ラーコシやカーダール時代に見られた個人崇拝的盲目主義が支配している。このFidesz の金城湯地に、反オルバン反Fideszの政治的風潮が強まっていることが注目される。
政権交代への期待が強まっている
政権交代を望む声はどれほどあるのだろうか。以下の図はMedian による各月の政権交代期待度を測ったものである。

昨年6月の段階では、交代を望む声(赤い傍線)が49%、Fidesz 政権存続を望む声(橙色の傍線)が42%と拮抗していたが、1年後の現在、政権交代を望む声は62%にも達している。現政権支持は漸減している。
まさにFidesz 政権が恐れている事態である。だから、形振り構わず、公金をふんだんに使って、「反ウクライナ」キャンペーンを張っているのだが、まともな国民はこのFidesz の世論誘導手法に飽き飽きしている。それがこれほどまでの政権交代期待を生んでいる。
現在ところ、Fidesz 政権のキャンペーンや法改正による反政府メディア締上げの方策が、逆の効果を生んでいることが分かる。
ハンガリーは好ましい方向へ向かっているのか
もう一つ興味深い調査は、国の行く末にたいする調査である。
はたして、ハンガリーは望ましい方向を歩んでいるのか、それとも間違った方向を歩んでいるのか。
下の図は、「良い方向に向かっている」(緑の傍線)、「悪い方向に向かっている」(黒の傍線)、「分からない」(灰色の傍線)と考える人々の変化をみたものである。
1年前に比べ、「良い方向に向かっている」と答えた人は11 ポイント減少し、逆に悪い方向に向かっている答えた人は10 ポイント増えている。

ハンガリーは親ロシア親プーチンだと言われるが、それはFidesz の指導者について当てはまるだけである。一般国民が政府の政治姿勢を支持しているわけではない。(6月19日)
<追記>
6月22日、盛田氏から、以下の文章がまいりました。
4月20日に開始された「ウクライナEU加盟反対投票」という奇妙な政治的キャンペーンは、6月20日に終了しました。残り1か月となったところで、政府は電話による投票用紙の再送やオンラインでの投票を導入し、投票数を増やすことに力を入れてきました。テレビ、ラジオ、インターネット上で、これまでに例のない「反対投票キャンペーン」を展開しましたが、多くの有権者はFidesz政権の意図を見抜き、投票用紙を返送していません。Fideszの岩盤支持者層が中心になって、反対票を投じることになりましたが、投票開始から1か月を経て、ようやく100万を超える低調ぶりでした。これに慌てた政権幹部は、形振り構わぬ形で、「電話による投票用紙の再送の受付」、「オンライン投票」を導入して、投票数を増やそうとしてきました。この仕組みを使えば、Fideszの熱狂的な岩盤支持者が何度でも投票できることになります。まことにいい加減な「意見聴取投票」で、とにかく投票数が増えれば何とか面子が保たれると考えたのでしょう。
オルバン首相は200万を超える反対投票があったと自負しましたが、政府は「投票」の詳細を発表していません。官房長官会見の場で、反政府メディアからこの点を問い質されたグヤーシュ長官は、「オンライン投票は紙の投票より少なかった」と述べるのみで、詳細を明らかにしていません。
他方、Tisza党のマジャル・ピーテルは、「郵便局の各種の内部情報をもとにすれば、紙による回答数は配達数の7-8%にとどまっており、実際の紙による投票は最大で60万票に過ぎず、過去の国民コンサルテーション史上、最低の投票率だった。何百億Ftもの公金を使いながら、この程度の結果しか得られていない。このお金を病院設備の改善に向けたら良かったのに、Fidesz政府は公金を無駄遣いしている」と批判しています。
野党は概ね、今回の「反対投票キャンペーン」は失敗だったという点で一致していますが、Fidesz政権はこれをどう総括するかについて、明確な意見を表明できないでいます。「疑似国民投票」の低迷は、Fidesz支持率の低迷を反映しており、政権内部に今回の政治的キャンペーンの総括に異論があることをうかがわせます。
別件ですが、6月19日付の報道によれば、国家債務処理センター(AKK)に対する融資額4000億Ftに上る中国からの融資契約について、DK議員が文書公開を要求した裁判で、裁判所は公開を命じる判決を出したようです。ロシア(原発増設)や中国(ベオグラード-ブダペスト鉄道路線の近代化)からの融資については、国家機密に指定して、政府は公開を拒否しています。
初出:「リベラル21」2025.6.25より許可を得て転載
http://lib21.blog96.fc2.com/blog-entry-6793.html
記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14292:250625〕