躍進した参政党と衰弱する共産党についての考察

――八ヶ岳山麓から(533)――

「日本は、稲穂が実る豊かな国土に、八百万の神と祖先を祀り、自然の摂理を尊重して命あるものの尊厳を認め、徳を積み、文武を養い、心を一つにして伝統文化を継承し、産業を発展させ、調和のとれた社会を築いてきた。
天皇は、いにしえより国をしらすこと悠久であり、国民を慈しみ、その安寧と幸せを祈り、国民もまた天皇を敬慕し、国全体が家族のように助け合って暮らす。公権力のあるべき道を示し、国民を本とする政治の姿を不文の憲法秩序とする。これが今も続く日本の国體である……」
これは参院選で躍進した参政党の「新憲法草案」の前文の冒頭である。

参政党の党首の神谷宗幣氏は選挙に臨んだ演説で、「日本人ファースト」を叫んだ。参政党憲法草案には、日本人の要件がある。父または母の一方が日本人であること、日本語を母語とすることである。わたしの孫の母親はヨーロッパ系で孫たちは英語だかオランダ語が母語である。戸籍はわが村にあるが日本人じゃないのかな。
参政党の憲法草案を見て86歳のわたしが緊張したのは高齢者医療政策だ。「70歳以上の高齢者にかかる医療費は年間22兆円と全体の半分程度を占め、特に85歳以上になると一人あたりでは100万円を超える。終末期における過度な延命治療に高額医療費をかけることは、国全体の医療費を押し上げる要因の一つとなっており、欧米ではほとんど実施されない胃瘻・点滴・経管栄養等の延命措置は原則行わない」
ここには高齢者医療の大問題――どこからが延命治療になるのか、どういうときに安楽死が許されるかなど――がいとも簡単に割り切られている。これはどういう政党か?

参院選では、参政党の神谷氏は「日本人ファースト!」といい、国民民主党の玉木氏は「手取りを増やす夏」と唱えた。このスローガンは有効だった。両党は躍進した。
とにかく参政党は、石破以前の自公政権支配によってもたらされた格差と貧困、契約社員、年金、高齢者扶養など将来への不安を抱えた層の心を見事に捕まえ、「この政党を伸ばせば、日本が何とかなるかもしれない」と思わせることに成功した。
その選挙運動に対しては、狭隘な右翼民族主義、ポピュリズム、排外主義、事実誤認によるデマなどさまざまな批判があった。わたしはその全部が当たっているという印象を受けたが、印象以上のことは政治学の専門家にお願いして、一人暮らしで貧しい情報しかないなか考えたことを以下に述べたい。

参政党は参院選で14議席、比例代表では約740万票を得た。2022年参院選比例では約180万票、24年衆院選では約187万票だった。ごく短期間に約500万票余を獲得した。
これについて作家の古谷経衡氏の見方は、今回の参院選は、投票率が高くなりそれにより前回参院選よりも約600万票も増えた。その4~5割が参政に流れたとすると約300万票、自民から参政への離反組が100万票、これにれいわ新選組が本来獲得すべきだった100万票強が参政に流れたというものだ。これで500万票になるが、わたしはこれを単なる数字合わせとは思わない。ほぼ古谷氏の推測通りかと思う。

長野県区では、参政党は竹下博善氏が18万5千票を獲得し、立憲民主党羽田次郎(当選)、自民党藤田ひかるに次ぐ第3位となった。3番手としては今までにない突出した得票である。信濃毎日新聞の出口調査によると、竹下氏は年代別では20代から40代で支持が最多。SNS(交流サイト)を重視したという有権者は33%あったが、そのうち竹下氏に投票したのは43%で、羽田・藤田氏の20%台を断然抜いていた。竹下陣営は同氏や神谷氏の主張を編集した「ショート動画」などSNS戦略が成功したと見ているとのことであった。

わが村でも、参院選で投票者4386票中、参政党は自民、立憲に次ぐ第3位の524票(12.0%)を獲得、わたしが支持した共産党は国民、れいわにも及ばず331票(7.5%)にとどまった。参政党は労働者の低賃金やコメ作りをめぐる政治不信、集落維持の不安、年金の先行きへの閉塞感を持つ人々の心をとらえたと思う。
参政党の選挙運動は勝利を祝う東京の集会には万単位の熱狂的な群衆が集まり、手を振って歓声を上げた。これが一時的現象であるか否かはもう少し時間がたつまではわからない。

一方共産党だが、今回の選挙で政治的影響力をほとんど失った。いつもは負けを負けとは言わない同党も、さすがに参院選後の常任幹部会声明は敗北を認めざるをえなかった。
「比例代表選挙で『650万票、10%以上、5議席獲得』を目標にたたかいましたが、得票で286万4千票、得票率4.84%にとどまり、改選4議席から2議席への後退となりました。直近の国政選挙と比べると、比例の得票数・得票率は、前回参院選の361万8千票(6・82%)、昨年の総選挙の336万2千票(6・16%)から、さらに後退する結果となりました」
共産党の病根はこの文言の中にある。650万票、10%以上などという目標は妄想である。もう10数年続く党勢後退の分析なしに目標を目見当で立てるからこういうことになるのだ。6年前の前々回参院選では448万3千票をとったが、前回はこれから86万5千票減らしている。今回はまた75万3千票を減らしたではないか。下部党員にしてみれば到達不可能の目標は、ただの「お題目」でしかない。

志位和夫議長は去年の総選挙のあと、「SNSは単なる技術ですから。要は使いよう。地道な活動とSNSを結びつける王道を進めればいいんです」といい、ウソ・デマ・誇張が横行するのが問題となっていたネットでの選挙運動については「規制の必要はまったくない」という見解だった。ところが東京都知事選・都議選で惨敗し、あわててそれまで軽視してきたYouTubeに飛びついたが、すでに遅すぎた。そして党員の大多数を占める高齢の党員はSNSのこの時代に何をしたらよいかわからない。
共産党の選挙公約を二心なく読むと、労働者・農民・中小零細自営業者にとって、切実な問題は何でも書いてある。だが、なにが中心テーマなのかわからない。そして共産党はこの「正しい」政策を候補者の街頭演説、ビラ配りなど従来通りのやり方で訴え続け、惨敗を導いた。

共産党が伸びない原因は志位和夫議長ら最高幹部にある。かれらは、この10年ほどは党員を「革命家」ではなく、「赤旗」と党員の拡大要員として働かせた。党員は以前のように地域や職場で人々のために活動することは少なくなり、それにつれて支持者が減ってしまった。もうひとつ、「共産党」「共産主義」が独裁・人権の無視・思想信条の自由圧殺を連想させるからだ。「社会主義」も大半は専制国家と見られているからあまりよい印象は持たれない。

だが、共産党衰弱の本当の原因は、民主集中制によって組織が硬直化し、人事の面でも理論的にも政治路線でも新しい展開がないことにある。最高幹部は「路線が正しいのだから、辞任はしない」と20余年居座ってきたし、日刊「赤旗」は毎年11億円もの赤字を出しながら拙劣な編集のまま刊行をずるずる続けている。
いま参院選の惨状を踏まえ、党の内外で党の今後について自由な議論を展開し、教訓を汲取らなかったら、共産党に明日はない。このまま志位和夫流の「正しい」路線をつづけ、幹部の更迭もやらないとなると、あと1,2回の国政選挙で共産党の国会議員は消えてなくなるが、それでもいいのか? よくよくお考え召されよ。(2025・07・22)

初出:「リベラル21」2025.7.28より許可を得て転載
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