オルバン首相の言動

著者: 盛田常夫 : 経済学者・在ハンガリー
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トランプ−プーチン会談を前に、EU首脳は「ウクライナの独立・主権、領土保全・一体性を守り、国境の軍事的変更を認めてはならない」という声明(8月12日)を発表しましたが、EU加盟国27か国中ハンガリーのみが署名を拒否しました。オルバン首相は、「アメリカとロシアの協議が始まる前に、第三者が前提条件を付けることは正しくない」ということをその理由にあげています。

また、ラジオ番組の対談の中で、「ロシアが勝利し、ウクライナが敗北した」と断定しました。また、我々はウクライナの崩壊を1日で崩壊させることはできる(なぜならウクライナは電気・ガスの多くをハンガリーに依存しているから)が、それはわれわれの利益にならないとも述べています。ハンガリー国境地帯の不安定化になると、テロリズム(ここではウクライナ側のハンガリーにたいするテロ)を生み出すからとも述べています。

オルバン首相の主要な論点は以下の通り。
★az ukrajnai háborút Oroszország megnyerte, az ukránok pedig elvesztették (ウクライナ戦争はロシアが勝利し、ウクライナが敗北した)
★Ukrajna csak azért nem kapitulál, mert az európaiak – és egyre kevésbé, de az amerikaiak is – ellátják fegyverrel és pénzzel (ウクライナが降伏しないのは、欧州が武器と資金を支援しているからだ。アメリカの支援は減っているが)
★Ukrajna európai uniós tagsága egyenes út lenne Magyarország elszegényedéséhez, ezért azt meg kell gátolni (ウクライナのEU加盟はハンガリーを貧しくするので、これを阻止しなければならない)
★az Európai Uniónak stratégiai szövetséget kell kötnie Ukrajnával, de nem szabad tagságot adni, mert ha felveszik Ukrajnát, nem lehet többé kitenni, Magyarország pedig csak rajtaveszthet Ukrajna uniós tagságán.(EUはウクライナと戦略的同盟を結ぶべきだが、加盟を認めてはならない。なぜなら、一度認めてしまうと脱退させることができず、ハンガリーは損を被るからだ)

物事を損得勘定でしか見られないオルバン首相の思考が現れています。トランプ大統領を熱烈に支持する土台がこれです。ウクライナ戦争は、帰属が未確定の領土を二国が争っているのではなく、ロシアが軍事力を使ってウクライナ領土を奪取するものであり、同列に議論するのは基本的に誤っています。ウクライナ戦争は同じ土俵上の勝ち負けを決める問題ではなく、武力による国境変更を認めるか否かの問題です。だからこそ、欧州諸国、とくにロシアと国境を接している国にとって、ハンガリーのように、高みの見物をしている場合ではないのです。ウクライナと国境を接しているハンガリーがロシアの肩を持つのはたいへん奇妙です。1956年のハンガリー動乱を経験した国であるハンガリーが。

オルバン首相の態度や思考は2013年を境に180度転換しました。プーチン・ロシアへの類を見ない忖度は、パクシ原発決定に際して、プーチンと個人的合意を取り付けたオルバンは、ロスアトムの裏金に手を付けたのです。途方もない借りを作ってしまったオルバン首相はロシアやプーチンを表立って批判することができません。オルバンの思想を変えるほどの巨額の裏金が支払われたと考えるべきでしょう。もっとも、政治家の信念や思想など、軽いものです。札束で買えることができるのです。田舎の土建屋の息子のオルバンには、人生哲学や思想など必要ありません。得か損か、それだけの俗物です。

ロシアのウクライナ侵攻直後のHVG(ハンガリーの政治経済週刊誌)の表紙は、まさにオルバンープーチンの関係を見事に表現しています。

my king, my spouse

(2025年8月15日)

初出:「リベラル21」2025.08.16より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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