――八ヶ岳山麓から(546)――
11月15日、中国共産党準機関紙・環球時報の社説は、おそろしく尊大な態度で「日本は中国の警告を誤解するな」と衆議院予算委員会での高市首相の答弁を非難し、撤回を要求する社説を掲載した。以下とびとびに引用する(ゴシック部分は原文のまま)。
11月13日夜、中国外交部孫衛東副部長(外務次官)は指示を受けて日本金杉憲治駐中国大使を引見し(原文:奉示召見)、高市早苗日本首相の中国に関する誤った言動について厳重に抗議した。これは極めて異例の外交行動であり、発せられた警告の厳しさは前例のないものであり、東京側はもはやいかなる楽観的な考えも持つべきではない。
中国の外交を振り返ると、「奉示召見」という用語は極めて稀であり、その厳粛さと権威は普通一般のものではない。これは事務的な連絡ではなく、高レベルの厳しい警告である。
東京側はこれを明確に認識し、ごまかそうと企てず、直ちに反省して誤りを正し、悪質な発言を撤回すべきである。
中国が今回、日本大使を引見したのは、高市早苗個人の発言に対する警告にとどまらず、日本の右翼勢力が長年にわたり反中国世論を煽り、日中関係を破壊し、日本の平和的発展の道を体系的に覆そうとする悪質な行為に対する厳しい警告でもある。東京側の対応は、具体的な行動による(右派との)断絶であるべきだ。日本政府による一つの中国という原則の公的な再確認と、軍事介入に関する発言の完全な撤回でなければならない。
ここに「奉示召見(仰せつけを奉り引見する)」とあり、それが「高レベルの厳しい警告である」としているところから習近平中国国家主席が自ら決して警告を発したことがわかる。
この決意はいつから形成されたか。高市首相の衆議院予算委員会答弁からではない。10月30日の高市早苗・習近平日中首脳会談からと推測する。高市首相は習主席に対し、中国の人権問題に懸念を示したとされるが、新疆・香港だけでなく「南モンゴル」も持ち出した。「内モンゴル」を「南モンゴル」とするのは、反中国・汎モンゴル民族主義者の用語で外交の場では不適切である。
その後、高市氏は台湾高官と会談し、その写真をSNSに投稿した。そして、衆議院予算委員会で、中国の核心的利益中の核心、何よりも中国内政であるはずの台湾問題で、中国が台湾に武力侵攻すれば、日本がアメリカに追随して参戦する可能性があると答弁した。中国国家主席たるもの、このままで済ませられるはずがない。
習近平氏の反撃は身近なところから始まった。11月14日日本旅行の事実上の制限、日本留学留保の呼びかけ、水産物輸入の事実上の禁止令、そして各種交流事業の停止。18日、日本外務省アジア太平洋局長と中国外交部アジア局長との協議があったが得るところはなかった。中国国防部傘下の海警局は先の談話どおり行動を開始した。第十一管区海上保安本部によると、尖閣諸島周辺の領海外側にある接続水域では機関砲を搭載した海警編隊1307」が航行している。14日以来19日までで5日連続という。
とうとう中国諜報機関の国家安全部も乗り出した。同部は交流サイトの公式アカウント「上海観察者信息技術有限公司官方賬号」において、高市早苗首相の国会答弁を「挑発者は悲惨な結末に陥る」と激しく非難した。国家安全部は、情報収集と防諜を担う、日本の旧特別高等警察(特高)に似た機関で、軍事費を越える多額の予算をもって中国社会のすみずみまで泣く子も黙る監視活動をしている。その論評はまず高市攻撃に重点をおき、次いで以下のように言う。
近年、国家安全機関は習近平同志を核心とする党中央の強力な指導のもと、果敢に戦い、積極的に行動し、日本の諜報機関による中国への浸透・機密窃取を目的とした一連の諜報事件を摘発した。これにより国家の核心機密の安全を力強く守り、国家の主権、安全、発展上の利益を断固として擁護した。
新たな旅程では、すべての国家安全官は総合的な国家安全観を深く貫徹し、隠密戦線において国家分裂を企てるいかなる陰険な謀略も断固として粉砕し、外国による地域の平和と安定を乱す卑劣な干渉行為に断固として反対し、強国建設と民族復興の偉業に国家安全部の力を捧げるものである。
中国にスパイ容疑で捕まった日本人はこの10年余に17人。主には日中関係が悪かった時だ。近くは2010年尖閣問題のとき日本企業社員が複数逮捕された。今年7月アステラス製薬社員が3年6か月の刑を受けた。国家安全部の日本非難は、これからも日本人スパイを逮捕するぞと明言しているのである。
中国は高市・習会談以来の屈辱を晴らすために、これから本格的な圧力をかけてくる。中国の薛剣(せつけん)駐大阪総領事の「勝手に突っ込んできた汚れた首はためらうことなく切落すほかない」という品格のない言いぐさは、習近平氏の決意のほどがわかっているからだ。
日本では、いま反日デモを警戒する向きがあるが、その一方で中国では、失業者や不満分子が多いからデモを許すとタガが外れ、反政府デモになる恐れがあるから許可しないという見方がある。だが、わたしが何回か経験した反日デモからすれば、中国当局は十分統制が可能である。
2005年4月小泉内閣のとき、日本の国連常任理事国参加に反対する反日デモが発生。日本外交公館への投石、日系企業に対する破壊、日本製品の不買運動があった。だが、街頭での車への放火、日本公館侵入、警官隊との衝突といった事態にはならなかった。2010年9月尖閣海域での中国漁船衝突事件のときも、2012年野田内閣の尖閣諸島国有化のときも以前のデモ同様、かなり破壊行動はあったが統制されていた。事態の進み具合では、いま反日デモを覚悟した方がよい。
また、企業の中にはサプライチェーンへの圧力を警戒する向きがある。これにも長期化しては中国も困るから期間は限られるという見方がある。しかし日本企業は製品だけでなく、大量の部品や原料などの輸入を中国に頼っている。中国は日本から買えなくて困るものはそう多くない。持久戦に入ったら日本は「お手上げ」である。
日本のメディアや専門家の中には、「首相の発言は軽率だったが、従来の政権の説明とは本質的に違いはない」とするものがある。身内びいきの詭弁だが、これに励まされたか、高市氏は11月21日の記者会見で、自分の見解は従来の日本政権の主張と変わらないと弁解している。情勢からして説得力はない。頼みのトランプ米大統領は日中問題には我関せずだ。
「読売」の世論調査では高市内閣の中国に対する姿勢を「評価する」は56%と半数を超え、「評価しない」は29%だった。半数以上が高市外交を肯定している。だがこの際、中国を甘く見てはならないといいたい。今日の中国は、1980年代、90年代の中国ではない。中国は、一般国民はまだ貧しいし、今は深刻な経済不況下にある。だが、日本の5倍近くの経済力と数倍の軍事力を持つ大国である。南シナ海・東シナ海だけでなく、西太平洋も支配しようという野心を持った帝国主義国家である。
「バカな大将、敵より怖い」というが、中国はそれがよくわかっている。これから様々な手を打ってくる。こちらには対抗できるカードがいくらもない。われわれは、いかなる楽観的な考えも持つべきときではない。ただ、高市外交は危険と知るべきである。(2025・11・21)
「リベラル21」2025.11.27より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14543:251127〕















