日本ジャンプ陣:5戦4勝 ー スキージャンプ W杯が開幕

混合団体優勝チーム:左から丸山、二階堂、伊藤、小林

2025/2026年のウインタースポーツシーズンが開幕した。スキージャンプはこの時期に積雪が確実な北欧で開催される。スキージャンプ緒戦(混合団体1戦、女子個人2戦、男子個人2戦)が、11月21-23日、昨年の世界選手権の地ノルウェイ・リレハンメルで挙行された。初日、混合団体(男女2名が、それぞれ2回の飛躍)で日本が初めて金メダルを獲得しただけでなく、女子の丸山希が圧倒的なジャンプで緒戦2連勝を飾り、男子のエース小林陵侑が第1戦5位、第2戦優勝の幸先良いスタートを切った。週末のW杯5戦のうち、日本人選手が4戦を制する最高の滑り出しとなった。
小林はこの勝利によって、W杯通算36勝を達成してアホーネンの優勝記録に並び、歴代優勝記録第6位に順位を上げた。スキージャンプのレジェンドの仲間入りであ る。丸山希は27歳にして、初めてW
杯優勝を飾った。スキージャンプは30歳を超えても世界の第一線で戦えるので、これから勝利数をどこまで増やすかが見どころである。

変わる世界の勢力地図
昨年の世界選手権で勃発したジャンピングスーツ改造スキャンダルで、当事国のノルウェイはFISの罰則を受けたコーチ陣を一新したが、チームの雰囲気が良くない。選手はFISの罰則を免れたが、各国選手団から批判を受け委縮している。一時期、スキージャンプの世界をリードしてきたノルウェイが苦しんでいる。追い打ちをかけるように、女子のエース、ビヨルセットが2月の転倒で膝と肘に重傷を負い、今シーズンの復帰が望めない。ノルウェイのスキージャンプ陣に明るいニュースはない。それを反映してか、リレハンメルの緒戦を現地で観戦する人は少なく、数百人程度しかいない状態だった。
オーストリアの女子チームも、夏のトレーニングでけが人が続出して、W杯出場の女子選手のレベルが落ちた。ランディングバーンの傾斜が高すぎたことが原因で多くの選手が膝を痛めたと報じられている。夏のジャンプは水をまいた人工芝に着地するもので、普通に考えても、かなりの技量と勇気が必要とされる。夏のイヴェントとして、人工芝のランディングバーンに縄梯子を設置して、踏切台の高さまで登る競技がある。岩山登山に似た競技だが、スキージャンプの壮大さを体験できるイヴェントである。
日本チームの夏季トレーニングは順調に進み、女子の丸山が夏のグランプリ(FIS主催)で総合優勝を飾り、その好調を維持して冬のシーズンに入った。ただ、W杯は5カ月にわたる長丁場なので、いったん調子を落とした時に、うまく回復できるかがポイントになる。
小林も夏のトレーニングが順調に進み、好調を維持して緒戦に臨めた。昨シーズンは後半戦の札幌大会まで表彰台にのぼることができずに苦しんだが、今シーズンはミラノ五輪を控えて、十分なトレーニングを積み、冬のシーズン緒戦で早速結果を出した。ミラノ五輪で活躍できるか、W杯の勝利数をどこまで伸ばすかが見どころである。
団体競技では4人8本のジャンプの総得点で順位が決まる。今回の日本は失敗ジャンプが1本もなかった。また、丸山だけでなく、伊藤も高いレベルの得点をたたき出したことが大きい。他国の男子選手は日本と見劣りしないばかりか、スロヴェニアは日本をわずかに上回っていたが、日本と違って女子選手のレベルにばらつきがあり、1本以上の失敗ジャンプを記録している。それが結果に現れた。

プレヴツ兄妹
2018-19年シーズンに大化けした小林陵侑は一挙に11勝し、シーズン総合優勝を果たしたが、スキージャンプでは突然変異のように、シーズンを圧倒するジャンプを披露する選手が出てくる。他方で、前シーズンに活躍した選手が突然の低迷状態に陥ることも珍しくない。コンスタントに力を出すのが難しい競技である。
昨シーズンの話題はスロヴェニアのプレヴツ兄妹である。もともと、スロヴェニアはスキージャンプを国技にしており、多くの優れた選手を輩出している。スキージャンプ一家であるプレヴツ家の最年少の男子ドメン・プレヴツと女子ニカ・プレヴツ兄妹が、2024-25年のシーズン、とくに後半戦で圧倒的な力を見せつけた。ともに、スキーフライングで世界新記録をマークした。ドメン・プレヴツはプラニッツァ(スロヴェニア)のジャンプ台で、小林のジャンプ台記録を上回る254.5mの世界最長距離をマークした。ニカ・プレヴツはヴィケルソン(ノルウェイ)のジャンプ台で、236mの世界最長記録をマークした。シーズン15勝は高梨に並ぶシーズン最多勝利である。2シーズン続けて
W 杯を制覇した。高梨の W杯通算63勝にどこまで迫るかが注目される。まだ21歳なので高梨の記録に迫ることは間違いないだろう。ただ、スキージャンプはいったんタイミングの感覚を失うと、それを取り戻すことができない。初戦を見る限り、ニカ・プレヴツは本調子ではない。丸山が2本とも最長不倒を記録しているのにたいし、プレヴツは距離が伸びない。調子が悪くても、丸山を追走しているが、丸山ともども、プレヴツの今後の調子の変化が見どころである。
スキージャンプ競技は毎週金曜日の予選から始まり、土曜と日曜日に2連戦するのが通常の日程である。今年はミラノ五輪がある関係上、日曜日のリレハンメルから2日後に、スェーデンのファルン(Falun)でW杯男子第3戦、4戦が組まれている。来年の五輪後に予定されている世界選手権の地ファルンのプレ大会である。好調を維持している小林には連戦の方が良いかもしれない。
男子選手に比べ、女子選手の怪我が多く、ほとんどが膝の怪我である。着地の際の圧力が膝に来る。そのため、着地姿勢の変更が議論されている。世界のスキージャンプ界では長期にわたって、着地姿勢はテレマークと呼ばれるT字型の姿勢とスキーを前後にずらして着地する技能が、着地評価の基準になっていた。このテレマーク姿勢が取れるかどうかで、3~5ポイントの差が出ることがある。1ポイントを争っている上位選手にとって、ここが勝敗の分かれ目になる。小林選手の着地姿勢は基本通りで、非常に美しいと評価されている。第2戦でスロヴェニアのドメン・プレヴツ選手を最後の最後で逆転したのも、このポイントの差だった。
しかし、女子選手の中には両スキーを揃えて着地する選手が多く、日本の高梨もこの形をとっている。着地圧力が両足に均等にかかるので、膝への負担が少ないからだ。しかし、現在の評価基準ではこの姿勢は減点の対象になる。一昔前と違い、現在は飛距離も着地スピードも増しているので、着地の際の衝撃を和らげ選手の安全を守るために、スキーを揃えて着地しても減点しないことが議論されているようだ。今後の規則改訂に注目したい。
【ブタペスト通信2025年 No. 42(11 月 24 日)から】

「リベラル21」2025.12.01より許可を得て転載
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